35 ようやく! 魔王リオンとの戦い!
「とうちゃく!!!!」
リンちゃんは元気よく、劉生君は顔を青ざめて馬から降ります。咲音ちゃんは「ありがとうございます」と馬を優しく撫でて折り紙に戻しました。
あとから橙花ちゃんチームも同じように窓をくぐって部屋に入りました。みつる君は馬からおいて部屋を見渡して、感嘆のため息をつきます。
「うわあ、すごい綺麗……」
天井は金平糖がちりばめられていて、ぼんやりと瞬いています。シャンデリアは職人技が光る飴細工で作っており、光を反射して上品に輝いています。
壁はワッフルコーンでできています。こげ茶色のコーンでしたので、レンガづくりの壁のようで、落ち着いてみえます。
床は深い赤色の絨毯が敷き詰められています。この絨毯も何かのお菓子でできているのでしょうが、まるで本物の絨毯のような歩き心地です。
何から何まで、今まで見た部屋と格段に質が違います。吉人君は橙花ちゃんに訊ねます。
「もしかして、ここは城の頂点ですか?」
その問いに答えたのは、橙花ちゃんではありませんでした。
『……その通りだ、人間ども』
声の方向を見上げると、黄金のたてがみをもつ魔王リオンでした。弾力性のあるマシュマロ座布団から降りると、舌打ちと共に冷たい声色で言いました。
『段階を踏まずに窓から入ってくるとはな。無礼者にもほどがある。お前らの世界には学校というものがあると聞いていたが、そこでは基本的な礼儀すら教えていないのか?』
劉生君は首をひねります。
「うーん。……教わったっけ?」
社会の授業では教えていなかったはずです。理科でもやっていません。ましてや算数でも教わっていません。
もしかしたら、国語の先生は何か言っていたかもしれません。
こういうときに頼りになるのは、吉人君です。
「ねえねえ吉人君。学校でそういう基礎的なれーぎっていうの習ってたっけ?」
「……そうですね。あまり習っていなかったはずですよ」
「そっかあ! じゃあ、窓を突き破ってもセーフだね!」
『いや、駄目だろ』
魔王の発言は至極正論ですが、橙花ちゃんは素直に同調する気なんてありません。劉生君の少々(かなり?)危ない発言はひとまず黙殺して、魔王を鋭い目で睨みます。
「さあどうする? ここまで来てまだ逃げるつもり?」
『何を言っている? そもそもオレサマは逃げてなどいない。戦略的撤退をしたまでだ』
「それは逃げてるって意味だよ」
『心外だな。どこでそんなこと覚えてきたんだ』
「学校だよ」
『……ふん、時計塔ノ君は何から何まで腹が立つな。そんなにオレサマの獲物になりたいのならば、いいだろう』
魔王は紅い目をぎらりと光らせ、劉生君を睨んだ。
『オレサマが今ここでギタギタに引き裂いてやろう!』
吠えるとともに、魔王の姿が一瞬見えなくなり、劉生君のすぐ目の前に現れました。
『<ハイ・ブレッド・プレッシャー>!』
前にリンちゃんが受けた技です。
「ひい!」
情けない悲鳴を上げていますが、劉生君は反射的に『ドラゴンソード』で防御してどうにかこうにか攻撃を防ぎます。
橙花ちゃんが追い打ちをかけようと杖を振ります。しかし、魔王リオンはひらりと身を翻して素早く後退します。
『ふん。オレサマの攻撃を防ぐか。つくづく図々しいガキだ』
どうせまぐれで防いだのでしょうが、スピーディーにやってしまいたかった魔王は不満げに鼻を鳴らします。
『ならば、他の有象無象を消すまで』
魔王は獲物を吟味するように愉悦にわらう と、ふっと、姿を消しました。一陣の風は劉生君たちの間を通り抜け、咲音ちゃんのすぐ後ろで収まります。
殺意がすぐ背後から感じ、咲音ちゃんは慌てて振り返ります。しかし、そのときにはもう手遅れ。魔王はにたりと笑います。
これで群れの一匹は倒した。そう確信して、魔王は呪文を口にします。
「<ハイ・ブレッド・プレッシャー>!」
ですが、魔王の勝利に待ったをかける子供がいました。
劉生君です。
「えいやっ!」
『ドラゴンソード』で咲音ちゃんを守り、そのまま攻撃に転じます。
「<ファイア―バーニング>!」
炎の剣による、ダイナミックな攻撃です。残念ながら魔王はたちまちに後退してしまいましたので、劉生君の攻撃はかすりともしませんでした。
それでも、魔王の自尊心はいたく傷つけました。
『……オレサマの攻撃を見破ったか……』
さすがに二回ともなると、ただのまぐれで片付けることはできません。
『……やはり、そこのガキはそこらの普通のガキとは違うようだ』
橙花ちゃんですら、魔王の攻撃をここまで読み切ることはできません。それを考えると、潜在能力は彼女以上のものを持っているといえるでしょう。
ですが、同時に魔王は彼が橙花ちゃんよりも劣っている点も察していました。
橙花ちゃんはいわゆる知略家で、攻撃の節々から知性を感じ取れます。一方の劉生君は本能と直感で動いている上に、自分の能力をうまく扱いきれていないようです。
今だって、劉生君は不思議そうに首を傾げていました。
「あ、あれ? 防げた?」
「すごいじゃないリューリュー!」「劉生さん、ありがとうございます」「どうして鳥谷さんが攻撃されると分かったんですか!?」
子供たちからの質問に、劉生君は困惑します。
「僕も分からないよ。僕じゃない誰かが狙われちゃうって思ったら、体が勝手に動いたんだよ……。こう、僕じゃない誰かに操られたみたいな感じ」
『ならば、その誰かさんとやらに感謝するといい。おかげで、お前らの寿命がほんの少しばかり伸びたのだからな』
魔王は余裕そうな表情を一切崩しません。赤い光を全身にまとい、魔王は瞬間移動をします。劉生君は魔王が来る場所を察して剣を構え、攻撃をはじきました。
ですが、魔王もそう何度もおなじ手をしてきません。魔王はにやりと笑うと、二つ目の呪文を放ちます。
『<メタボリックシンドローム>っ!』
メタボリックシンドロームといったら、どんな人を指すと思いますか?
脂肪がたくさんついている人でしょうか。それも間違いではありませんが、正しくもありません
というのも、脂肪がついているだけではメタボリックシンドロームと判断されないのです。血圧や血糖、血清脂質のなかで二個以上が基準よりも悪い意味で超えていないといけないのです。
ですが、魔王の技<メタボリックシンドローム>は、体を大きくすることに特化していたようです。魔王のしっぽが赤い光につつまれると、鉄骨のように巨大になりました。