34 魔王リオンの裏をかけ!
頂上から一階下にいる魔物たちは、武器を手にしながらも暢気そうに廊下を歩いていました。
『それで? 時計塔ノ君一行はどこにいるって?』
『まだまだしたのほうだってさ。下の階の奴らからの報告だと、うまく罠に嵌まってくれてるらしい』
『ちぇー。それじゃあオレらの仕事ねーじゃん」
豚の魔物がブーブーと鼻を鳴らします。
『モー、そういうなって』
牛の魔物がモーモーと鳴いて宥めます。
『どれもこれも、魔王様の作戦なんだからな』
みおちゃんを使った例のゲームで、まさか自分が負けるとは魔王も思っていませんでした。しかし、だからといって、何も対策しないなんてことはしません。もし奇跡が起きて、劉生君たちが勝利をあげたとしても、自分が倒されないようにといくつもの細工をしていたのです。
『それにして、驚いたモー。城の外見も中身も変えて、時計塔ノ君を倒すためだけに仕掛けを作っておくなんてねー』
頂上へと続く階段は二つを除きすべて破壊。しかも二つのうち一つは魔王に忠誠を誓った人しか見えないように術をかけ、もう片方は分かりやすい場所に配置してはいますが、普通には登れないようにアイスのスロープにしておいたのです。
魔王から即日工事を頼まれ、部下たちは内心「マジかよ」と冷や汗を流していましたが、夜を徹してなんとか完成させることができました。
牛の魔物は時計塔ノ君、またの名を橙花ちゃんを足止めできたことに安堵していますが、豚の魔物はまたもやブーブー文句を言います。
『時計塔ノ君一行はまだ下の方なんだたら、上の方の仕掛けはやり損になっちゃうよ。もったいないなあ』
『モー、君ったらー。そんなこと言わない! こういうものは使わない方がいいんだよ。そもそも、国王様を守るために色々作ったんだし』
『ブー……。そうだけど……』
せっかく作った罠には是非とも引っかかってほしいなあ、なんて豚の魔物が不満そうに鼻を鳴らしていました。
雑談をしながら暢気に歩いていると、牛の魔物が『うん?』といって足を止めました。
『なあ、外が騒がしくないか?』『言われてみれば……』
牛と豚の魔物が何気なく窓を覗き込んみました。
すると、
「いっけいけー!!!」「いえーい!!!」
子供たちの騒ぎ声が聞こえてくると同時に、金色の何かが窓を通り過ぎていきました。
『な、なんだあ!?』
豚の魔物が窓を乗り出してみようとしましたが、豚の魔物に何か銀色のものがぶつかって、盛大に吹っ飛んでいきました。
『ぶ、ぶ、豚あああああああ!!!』
『ぶううううう!!!!!!』
豚の魔物は、青空に向かって飛んでいきました。
一方そのとき、劉生君はキョトンとした顔で空を飛ぶ豚を眺めていました。
豚は、時計塔を背景に、ぐんぐん飛んで行き、そのまま落ちていきました。
「ミラクルランドの豚さんって、もしかして空を飛ぶのか……うわわ!」
「リューリューったら、しっかり捕まってないと危ないわよ!」
彼らは一体どこにいるのでしょうか。
それを探るためには、先ほど豚を飛ばした白い何かに着目すればすぐに分かることでしょう。
アイスの壁を駆けるのは、金銀色の毛並みを持つ美しい二匹の馬でした。バニラやチョコのアイスを蹴りあげ、颯爽と上へ上へと登っていました。
もちろん、普通の馬は垂直方向に走ることはできません。上にまっすぐ登れるように、馬の背中には、ピンっと真っすぐ伸びたかっこいい翼が取りついていました。
ちなみに、こちらの翼も普通の翼ではありません。折り紙のプロみおちゃんが、劉生君に誠心誠意こめて教えてあげた飛行機の翼なのです。
ですので、マーマル城周辺の乱れた大気にもそこまで動じません。城壁を走ることで風の抵抗を受けないのもあって、二匹の馬は軽々と上に登っています。
そのうちの一匹、豚を跳ね飛ばした方の馬に乗っているのは、吉人君と橙花ちゃん、それからみつる君です。
そして、銀馬の前を走っている金色の馬には、劉生君とリンちゃん、咲音ちゃんが乗っています。
劉生君は必死にしがみ付き、リンちゃんはハイテンションで「いいぞいいぞっ!」とはしゃいでいます。
咲音ちゃんはいつも通り優しい笑みを浮かべて、のほほんと手綱を握ります。
「このお馬さんはとってもお利口さんですね! わたくしの指示にしっかりと従ってくれますし!」
「ミラクルランドの馬は心の中で思った鳥に動いてくれるんだっけ? 便利よねえ」
ですが、咲音ちゃんは意外そうに驚いています。
「そうなんですか? 知らなかったです! びっくりですねえ」
「あれ? 知らなかったの? ならどうやって馬に言うこと聞かせてたの?」
「現実世界のお馬さんと同じように動いてもらっているんです。こうして体を右に倒すと、お馬さんも右に行ってくれますよ」
実際に、咲音ちゃんが右に体を倒すと、まるで咲音ちゃんに応えるように曲がってくれました。
「わあ! 本当だ! さすがミラクルランドの馬ね!」
「いえいえ! わたくしたちの世界のお馬さんも同じように動いてくれますよ!」
「あら、そうなの? それじゃあ、あっちの馬もこんな感じで壁走れるの!?」
「さすがにそれはできませんけど、これくらいの悪路なら余裕で走ってくれますし、」
咲音ちゃんがのんびりと返事をしていると、突然、劉生君が叫びます。
「ちょ、咲音ちゃん咲音ちゃん! 前! 前!」
上の方の窓から、魔物たちが氷のつぶてや巨大アイスを投げつけてきたのです。さすがにあんなのに当たったらひとたまりもありません。
劉生君は心臓が飛び出るくらいドキドキしていましたが、やっぱり咲音ちゃんはいつも通りのんびりしています。
「わたくしが細かく指示を出してあげたら、このような障害物もお手の物です!」
軽やかに手綱を引くと、馬はひょいひょいと避けていきます。まるで最初から落ちてくる場所が分かっているようです。
リンちゃんは「すごいすごい!」と大興奮。劉生君は「ぎゃあ!」と大きな悲鳴をあげます。
「劉生さんにリンさん! わたくしにしっかり捕まってくださいよ」
咲音ちゃんは華麗な手綱さばきでほとんどの障害物から逃れます。たまにうっかり当たりそうになったときもありましたが、そういうときは劉生君が剣をふるってみんなを守っています。
ついにはてっぺんの巨大な窓を突き破り、劉生君たちは頂上にたどり着きました。