33 敵を知り、敵を倒せ! お話合い、開始!
「……お、俺、もう限界……」
みつる君がへたりこんでしまいました。
「わたくしも、ちょっと……」
咲音ちゃんも一歩も歩けないとばかりに、壁にもたれかかります。諦めが悪いリンちゃんや吉人君、劉生君でさえも、あんなにきつい罠を乗り越えたのに元の道に戻ってしまい、意気消沈しています。
「そ、そんな……。今までの苦労が水の泡だっての……?」
「橙花ちゃん橙花ちゃん。他の階段ってもしかしてないのかな……」
「……」
橙花ちゃんは、何も答えられませんでした。
彼女は何度かマーマル城を攻めていますので、内部の構造は大体頭に入っています。この塔自体は最近リフォームしたので前といくつか違う点はありますが、それでも部屋の位置や階段の位置が大幅に変わってはいないと踏んでいました。
しかし、どうやら橙花ちゃんは楽観的に考えすぎていたようです。
「……ひとまず、このスロープを乗り越える方法を探さないと……」
彼女はスロープの方に歩きます。その足取りがふらついているのに、みおちゃんが気づきます。
「……蒼おねえちゃん。お休みしたほうがいいよ」
みおちゃんは心配そうに橙花ちゃんの袖を引っ張ります。
「いや、そうは言ってられない。ここで待ってても、魔物に襲ってくれといっているようなものだ。早くなんとかして上に行かないと……」
ですが、スロープの下からみた限り、一つ上の階はまだ頂上ではなさそうでした。ということはつまり、まだまだ上に登らなくてはならないということです。
他の階段を見つけ出そうにも、道には罠や魔物でいっぱいで、悠長に探せません。
……それに、もし一つ上が頂上だとしても、これから待ち受けるのは魔王との戦いです。それに備えられるほど、みんなの体力はありませんでした。
みんなの胸中に、絶望が広がります。せっかくみおちゃんを助けられたのに、こんなところで負けてしまうのでしょうか。
「……っ」
劉生君はネガティブな思いを振り切るように、自分の頬を軽く叩きました。
みんなで力を合わせてがんばってみて、それでも駄目だったら、どうするか。
劉生君はその答えを、みつる君から教えてもらったばかりでした。
「ねえ、みんな。ひとまず、魔王リオンのことをもっとよく知ってみようよ。そうしたら、何かいい案が思いつくかもしれないよ! みおちゃんのときみたいにさ!」
みおちゃんのことを知って、はじめて突破口を見出したみつる君のように、劉生君もまずは魔王のことをもっとよく理解して、それから魔王への対策を考えてみよう。そう思い立ったのです。
「……確かに、リューリューのいうとおりね」
リンちゃんは橙花ちゃんの方に顔を向けます。
「魔王のことで、あたしたちが知らないことってある?」
「うーん。君たちが見たまんまって感じかな。傲慢で、自信家で、ボクらのことを下に見てる」
吉人君が「それと、」といって言葉を続けます。
「意外と僕たちのことをよく調べていますね。先ほど犬の魔物の群れは、明らかに劉生君の戦い方を調査していたようですし」
「いつもならそんなことしないだろうけど、劉生君は魔王ギョエイに止めをさした子だから、魔王リオンも珍しく警戒したみたいだね」
咲音ちゃんが「いつもはあまり警戒なさらないんですか?」と問うと、彼女は頷きます。
「ボクはまた別だろうけど、他の子どもたちは自分よりも弱い存在だって思ってるからね。だから、咲音ちゃんやみつる君はもちろんのこと、リンちゃんや吉人君のこともそこまで調べてはいないと思う」
突破口があるとするなら、そこかもしれません。
しかし、現状からするとそこにかけるのも厳しそうです。なにせ、みんな魔力をことごとく失っています。けた外れの魔力を持つ劉生君はまた別ですが、彼の攻撃は見抜かれてしまっています。
「……」
考えはじめてはみましたが、アイディアを思いつくことは難しいようです。咲音ちゃんは小さく息をつきます。
「いっそのこと、外から頂上に行けたら一番楽ですけどね……」
「外から? ああ、いいじゃないのそれ!」
リンちゃんの表情が明るくなります。
「それでさ、サッちゃんが鳥の動物を召喚すればいいのよ! そうすれば、階段なんか使わなくても一っ飛びでいけるじゃない!」
なかなかの名案と自負するリンちゃんですが、咲音ちゃんは表情を曇らせます。
「……ごめんなさい、リンさん。わたくし、鳥さんを召喚できないみたいなんです」
「ええ!? そうなの? それまたどうして? まさか、あまり鳥は好きじゃないの?」
「いいえ! そんなことあありません! むしろ、動物の中で鳥が一番大好きですよ! ですから何度も召喚しようと頑張ってみたんですが、どうやらお魚さんしか呼び出せないみたいなんです」
「そっか……。魚じゃ空は飛べないもんね……」
落胆するリンちゃんに、さらに橙花ちゃんが申し訳なさそうに追い打ちをかけます。
「それと、もし鳥類を呼び出せたところで、マーマル城の外は飛べないかな。マーマル城付近は大気が乱れてて、空を飛べないようになってるんだ。だから、普通に飛んだところで、風にもみくちゃにされるだけになっちゃうと思う」
「……あーそうだったわね。だから、フルーツバスじゃなくて折り紙の馬で来たんだったわね。うー、思いつかないものね……」
リンちゃんは腕組みをして、口を閉ざします。
他の案が出てくることもなく、またもやみんな黙ってしまいました。
沈黙すると、またどこかからか魔物が来るのではないか、トラップが襲い掛かってくるのではないかと、気が気でなくなってきます。
出口の見えない焦燥感にかられる劉生君たちでしたが、一番小さなみおちゃんはなんとも気楽そうです。氷の地べたにおしりをつけ、鼻歌まじりで折り紙を折り始めます。
誰に教えてもらうでもなく、手を止めることもなく、みおちゃんはあっという間に折り紙を完成させます。
劉生君はついついすごいなあ、と改めて感動します。魔王リオンはみおちゃんのことを小娘だなんだと蔑んでいましたが、劉生君や橙花ちゃんにはみおちゃんみたいに折り紙をきれいに折ることはできません。
そもそも、ここに来れたのも、みおちゃんが丁寧に折ってくれた馬の折り紙のおかげです。劉生君たちだけの力ではこんなに早くたどり着けられなかったことでしょう。
「ん……?」
劉生君の頭に、良さそうなアイディアが降ってきました。
「ねえねえ、みおちゃんの折り紙の力を使えば、どうにかなるんじゃないかな」
当の本人はきょとんと劉生君を見上げます。
「みおの折り紙?」
「うん!」
劉生君は満面の笑みでこう言いました。
「みおちゃんの力を借りれば、すぐに魔王のもとまで行けるよ!」