32 お城の攻略は難しい! 最大の難所、アイスキャンディーのスロープ!
ただのスロープではありません。アイスキャンディーソーダ―味タイプのスロープです。何本ものアイスキャンディーが横向きに並んでいます。
劉生君は目を輝かせます。
「わあ! アイスが一杯! 美味しそう!」
本音をいうとミルク味のアイスの方が好きですが、ソーダ味のアイスも大好きです。特に夏祭りのときに食べるソーダ味アイスは絶品です。
「かじってみてもいいかな?」
「だめ。おなか壊すでしょ」
「う、うう……」
「赤野っちに道ノ崎っち……。今はそれどころじゃないって」
みつる君は困ったようにスロープを見上げます。
「こんな急だと、滑って登れないよ」
試しに咲音ちゃんが「よいしょよいしょ」と上がってみますが、ずるずると下に落ちてしまいました。
「あわわ。上に上がれませんね」
吉人君が「ほかの階段はありませんか」と訊ねますが、橙花ちゃんは難しそうに表情を硬くします。
「あるにはあるけど、ちょっと遠いんだよね。だけど、これじゃあ登れないし……、仕方ない。移動しよう」
「ちょっと待って!」
リンちゃんが屈伸して、腕を伸ばします。
「要は、滑る前に登り切ればいいんでしょ? あたしに任せなさい! おりゃあ!」
リンちゃんは全身に電気をまといます。
「これであたしが一人ずつ上に運べばいいってことよ。まずはリューリューからね!」
「え?」
劉生君に何の了承も得ずに背負うと、リンちゃんは高速でスロープを駆け上がりました。
「わああ!」
突然の浮遊感に、劉生君はぎゃあと叫びます。叫んでいる間にスロープを登り切り、劉生君を下ろします。
「はい成功! さっすがあたし!」
「び、びっくりした……!」
劉生君は腰を抜かしてしまいました。リンちゃんがみんなを運び終わって、ようやくふらふらと立ち上がれました
「どうよ! すごいでしょ!」
みおちゃんはキャッキャと嬉しそうです。
「うん! 楽しかった! もう一回! もう一回!」
「仕方ないね。いいわよ!」
「待って、リンちゃん」嫌な予感がして、橙花ちゃんは慌てて止めます。
「ひとまず急ごうよ。ここにいたら魔物たちが来るかもしれないし」
「えー」
リンちゃんが「また後で遊んであげるから」と取り繕いますが、みおちゃんは不満げに唇を尖らせます。
それでも、みおちゃんは聞き分けのいい方ですから、渋々頷きます。
そんな良い子のみおちゃんに天が味方したのでしょうか。次の階に行く階段も、アイスキャンディーのスロープでした。
「よかったわね、みおちゃん」
「うん!」
素直にはしゃぐみおちゃんに、リンちゃんはくすりと微笑みます。
「それじゃあ、いくわよ、えい!」
「わーい! 早い!」
さらに、次の階段もアイスキャンディーのスロープでした。
「あら、またなの? ま、いいわ。いくわよ、みおちゃん」
「うん!!」
次の階段も、アイススロープでした。
「……多いわね。えーいっ! みおちゃん! いこ!」
「うん!!!」
次の階段も、スロープでした。
「……」
その次の階段も、またまた次の階段も、それまた次の階段も、なんとその次の階段も、
「これまた次の階段もスロープってどうなってんのよ!!!!!!」
幾度目かのスロープのふもとで、リンちゃんが叫びました。
「さすがに疲れたわ!!!!」
みおちゃんは「楽しい! 楽しい!」と喜んでいますが、リンちゃんはもう限界のようです。力なく地面にしゃがみ込みます。
「ダメ……。これ以上登れる気がしない……。蒼ちゃん、いつになったら頂上につくのよ……」
「おかしいな。もうそろそろのはずなんだけど……」
「ほんと!」
リンちゃんは飛び起きます。
「それなら頑張れるわ! よーし、いっけ! <リンちゃんの バリバリサン」
しかし、技を出そうとした途端、くらりと体が揺れます。
「あ、あれ?」「リンちゃん!」
劉生君が慌てて抱きかかえます。
「うー……。なんか、力が出ない……?」
吉人君が不安そうにりんちゃんをのぞきこみます。
「大丈夫ですか。もしかして、魔力切れ……?」
「なんか、そんな感じする……」
普通に立ったり座ったりすることはできますが、技を出そうとするとどうにも力が受けてしまいます。
「うう、これじゃあ一人も上に運べないわ……」
「橙花ちゃん、どうしよう? 他の階段あるかな?」
「……そうだね。他の階段をさがそ」
探そうか、と言葉を続けようとしましたが、橙花ちゃんはぽかんとスロープの上を見上げてました。
他の子も不思議に思って見上げ、固まりました。
『よいしょ、よいしょ』
タヌキとアライグマの魔物は、巨大なアイスの塊を運んでました。スロープのすぐそばまで運ぶと、掛け声と共にアイスをスロープから落としました。
アイスの塊はゴロゴロと転がると、劉生君たちに振りかかってきました。
「う、うわああ!」「つぶされるっ!」
「みんな、こっち!」
橙花ちゃんがみおちゃんの手を引いて右側に逃げようとします。しかし、行く手を犬の魔物たちが塞ぎます。
『ここは通さん!』『踏みつぶされてしまえ!』
「こんにゃろ! あたしがやっつけてやるわ!」
飛び出そうとするリンちゃんを吉人君が制止します。
「待ってください、道ノ崎さん! 今の道ノ崎さんは術を使えませんよ!」
「あっ! そうだったわ!」
急ブレーキをかけて、一歩大きく後ろに下がります。そうこうしている間にも、アイスの塊が迫ってきてます。
「っ、出し惜しみはできないかっ」
橙花ちゃんは塊の前に立つと、杖をまっすぐ向けます。
「時よ、<トマレ>!」
塊は停止してくれました。しかし、魔物たちはそうはいきません。牙を向いて襲い掛かってきました。
劉生君は懸命に『ドラゴンソード』を振ります。
「えーい! <ファイアースプラッシュ>! <ファイア―バーニング>!」
効き目は抜群! ばっさばっさと魔物をなぎ倒していく! ……といいたいところですが、どうやら犬の魔物たちは今までの魔物とは違うようです。劉生君の技が来ると全力で逃げ、隙をついて襲い掛かってきます。
「もう! どうして当たらないのっ!」
劉生君は悲鳴のような声をあげます。
「どうやら、赤野君の攻撃パターンを熟知しているようですねっ!」
そういう吉人君のパターンも知られているようです。敵に状態異常を与える技を使うと、魔物たちは遠くへ逃げ、逆にそれほど強くない攻撃技<マッ=チャー>を使った時には、魔物はおくせずこちらに攻撃を仕掛けてくるのです。
もしここにリンちゃんやみつる君、咲音ちゃんが助力できるならまた違ったのでしょうが、三人とも魔力切れで身動きが取れません。
このままでは、劉生君や吉人君までもが力を使い果たしてしまいそうです。橙花ちゃんは必死に周囲を見渡し、魔物たちの数が少ない箇所に目を付けます。
「みんな、あっちに逃げよう!」
しかし、敵が手薄だったのはどうやら彼女たちを誘導するためだったようです。そちらの道を進み始めたとたん、上から凶器のように鋭いつららが降ってきたのです。
「ぎゃあ! <ファイアウォール>!!」
劉生君、渾身の炎の壁をみんなの頭上に張ります。
仕掛けられていた罠は、それだけではありませんでした。
つららのみちを抜けると、今度は落とし穴だらけの道に出たのです。
「ここはわたくしにお任せください!」咲音ちゃんが力を振り絞って、トビウオを召喚します。そのおかげで落とし穴の道は切り抜けられました。
ですが、そのあとも罠の道は続きます。
魔物が急に現れる迷路や、つるつる滑る床、棘だらけの道も決死の思いで乗り越えて、
たどり着いた場所は、
「またスロープかい!!!!」
アイスの塊が落ちてきた道に戻されてしまっていたのです。