7 第一住民と遭遇? 居住地にも潜入!
「ここでちょっと待っててね」
蒼ちゃんが三人を制止した場所は、劉生君たちが始めに足を踏み入れた桃雲のエリアでした。
吉人君は不思議そうに尋ねます。
「ここにムラがあるのですか?」
「ここにはないよ。ムラの場所は……。ほら、あそこ。あの時計塔のふもとだよ」
高い高い時計塔を指さします。あの時計塔まで行くにはかなり距離がありそうでしたので、吉人君は怖々と尋ねます。
「もしかして、あそこまで徒歩ですか……?」
「心配しなくても大丈夫だよ! 歩きでは行かないからね。今から準備するね」
蒼ちゃんは持ってきた虹色の枝で大きな円を描きます。四人が中に入っても十分余裕がありそうな大きさです。
描き終えると、蒼ちゃんはちょいちょいと手招きします。三人が訳も分からず中に入ると、蒼ちゃんはにっこりと微笑みました。
「それじゃあ、いくよ。それっ!」
彼女も円の中に入ると、虹の枝で桃色の雲を叩きました。
なんということでしょう。描いた線が虹色に光り輝き始めると、円の内側にある雲だけがふわりと宙に浮かびあがったのです。
「わわわっ! な、なに!?」
劉生君が慌てて下を覗き込むと、さっきまで彼らが立っていた場所が大きくくぼんでいました。
吉人君は息をのみます。
「僕達、雲の上にいるんですか!?」
「その通り。それでは飛んでけ、ボクらのムラへ!」
雲はスピードを上げると、ぐんぐん進んでいきます。
「すごい! はやい! って、リューリューしがみつかないでよ」
「だ、だってえっ!」
キャッキャとはしゃぐリンちゃんに、劉生君は情けなくしがみついています。先ほどの勇敢な姿がまるで嘘の様です。
蒼ちゃんは楽しそうに笑います。
「うっかり落ちてもすぐに助けるから心配しないで。それよりもほら、下をみてごらん。綺麗だよ」
リンちゃんと吉人君は下を覗き込んで、わあっと感動します。
「本当だ! 綺麗!」
「さすが異世界ですね……。まるで物語の中にいるみたいです。赤野君も見てみてくださいよ!」
「う、うん……」
二人に見守られつつ、劉生君は下を見てみると、彼は息をのみました。
「す、すごい……」
雲の下に広がる光景は、壮観そのものでした。
絵本に登場するような立派なお城に、観覧車・ジェットコースター、ドーム型の建物はこうこうとした光を放っています。宝石が輝く深い谷底や、空から見ても分かるほど大きな木だってあります。
蒼ちゃんは自慢げに一つ一つ指さして教えてくれます。
「あの城はおかしの城だよ。屋根もドアもおかしで出来ているんだ。チョコの噴水にマシュマロ入れて食べてたなあ。懐かしい」
「大きな観覧車が見えるでしょ? あれは遊園地だよ。ここからだと地上にあるようにみえるけど、実際は海の中にあるんだ。絶叫系マシーンがたくさんあるよ」
「右に見えるドームはコロシアム会場。前は運動会をやってたよ。ボクはどうも運動神経が悪いから、成績は下の方だったけどね……」
「下の方にある谷はお宝が眠る洞窟だよ。探検好きにはおすすめスポット! 宝石も綺麗だけど、恐竜の化石も埋まっているから、掘ってて楽しいよ」
「あそこに生えている大樹は音楽の木だよ。カスタネットやトランペット、太鼓が木の実みたいに成っているんだ。うまく演奏できなくても、鳴らすだけで楽しいよ」
「それであれが、僕らのムラのシンボル、時計塔だよ」
彼女が最後に指さしたのは、大きな時計が四方についた時計塔です。灯台の機能もあるのでしょうか。時計の上には青色の光がついたり消えたりしています。
「あれ? おかしいですね」と、吉人君が首を傾げます。
「時計の時間が三時のままで動いていませんよ」
さっきみたときも三時でした。壊れているのでしょうか? 吉人君の疑問を、蒼ちゃんが解決してくれます。
「いや、この世界は三時で時間が止まっているからね。これで合っているんだ。だから、ミラクルランドの空はいつも青空だよ」
リンちゃんは明るい声で言います。
「それじゃあ、いつでもどこでもおやつが食べ放題! ってことね。ずっと三時なら授業も始まらないから勉強もしなくていいし。遊び放題ね」
なんて冗談交じりでリンちゃんは言うと、蒼ちゃんはものすごい喜びようで何度も頷きます。
「そうでしょ? 毎日が三時っていうのは素晴らしいことだよ! 家に帰らなくてもいい、学校に行かなくてもいい、楽しい楽しい遊び時間だからね! 君にそう言ってもらえて嬉しいよ!」
「そ、そう?」
蒼ちゃんのはしゃぎっぷりに、リンちゃんは軽く引いてしまいました。
毎日が三時かあ、と劉生君は考えます。
もしそうならおやつもたくさん食べれてたくさん遊べて幸せかもしれません。
けれど、そうなると日曜日朝にやっている『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の放送が永遠に見れなくなってしまいます。
かといって毎日が日曜日朝というのも考えものです。そうなってしまうと、学校で友達に『ドラゴンファイブ』のすばらしさを語る時間がなくなってしまいます。
それなら宿題やらなくちゃならなくてもいいから、時間が動いていてほしいな。劉生君は呑気にそう思いました。