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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
3章 君のことを知りたいんだ! 食べ物いっぱいの国、マーマル王国!
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26 みんなで楽しんでお料理お料理

 学校の調理場よりも大きいキッチンでしたので、みんなで一斉につくりはじめてもごちゃごちゃしません。広々とのんびり楽しみながら、野菜を切ったりお肉をこねたりしています。


 まるでキャンプ実習中のこどものようです。わいわいがやがやしている子供たちをみて、魔王は目を瞬かせます。


『……オレは何を見せられているんだ?』


 橙花ちゃんを絶望させたいと思って立てた作戦だというのに、子供たちはどうにも楽しげです。


『……ふん、まあいい……』

 

 不満ではないといったら嘘ですし、できるなら今すぐにでも彼らを血祭りにあげて、無様に泣き叫ぶ様を眺めながらホットミルクでもすすりたいとは思っていました。


 しかし、魔王はグッとこらえることとしました。どうあがいても、みおちゃんの好きなものを見つけるなんて不可能だと思っていたからです。なぜなら、彼女はマーマル王国全てにある料理を食べてもなお、好きなものはないと断言したからです。


 魔王はちらりとみおちゃんに視線をやり、不愉快そうにしっぽを振ります。


 この王国は美味しい料理とお菓子であふれています。それだけでもなかなか素晴らしい国だと魔王は自負していますが、それにおごることはせず、子供たちが飽きてこないように日々美味しい料理を研究しています。


 そのおかげでしょう。多少記憶を改善しただけで子供たちは言うことを聞いてくれますし、自分を王と崇め奉ってくれます。


 橙花ちゃん達にはきつい態度と口調をとってはいますが、なついてくる子供は可愛いものです。自国の子供たちを彼なりに大切に扱ってはいましたし、ほかの魔王の根城なんぞよりも自国の子供の方が何倍も幸せな監禁生活を送っていると思っていました。


 フィッシュアイランドの魔王ギョエイから適当な理由をつけて半ば強引に子供をかっぱらった時だって、『水の中なんて陰気な場所に連れて行くよりも、我が国にいる方がこいつらも喜ぶだろう』とウキウキしていました。


 ですが、みおちゃんの存在は魔王リオンの誇りにわずかながらもヒビを入れました。


 マーマル王国に連れてきても何も食べず、無理に食べさせてもぶーぶー文句を言うのです。部下には『ミラクルランドにいる子供は食べ物を食べずとも大丈夫なのだから、放っておけばいい』と進言されましたが、すべて無視をして、国中の料理をかき集めて食べさせました。


 そんな苦労をしたにもかかわらず、彼女の食指は一向に動きません。結局、リオンも匙を投げざるをえませんでした。


 これはプライドが高い魔王にとって屈辱的でした。細部まで完璧な自身の王国に生じた一点のシミでした。みおちゃんの姿をみるたびに悔しい気持ちが腹から湧きあがってきます。


 だからといって、彼女をこの国から追放することはできません。そんなの負けを認めたも同然です。他の魔王になんていわれるか、分かったものではありません。


 彼が毛嫌いする鳥の魔王なんかは関心すらしめしてこないかもしれませんが、性格の悪い爬虫類の魔王ならぐちぐちちくちくと嫌みを言って来るに違いません。それだけは絶対に避けたかったので追い出すことはできずに困っていたのです。


 そういうこともあって彼女をゲームの対象にしました。


 だから、橙花ちゃんたちがどんなに努力しても無駄なのです。


 素人が作った料理なんぞに、この国の料理が負けるわけないのですから。


 無駄なおままごとを見ていても全然楽しくありませんが、まあ、仕方ありません。ひと時のお遊びを楽しませてあげることこそ、魔王の貫禄といったところです。


 若干イライラしながらも、魔王は見守ってやることとしました。その間も劉生君たちのクッキングは進んでいます。


「えいえいっ!」


 みおちゃんはニコニコしながらジャガイモを四等分にします。楽しくやってるのはいいことですが、ちょっぴり危なっかしい切り方をしていましたので、橙花ちゃんが慌てて止めに入ります。


「みおちゃん、みおちゃん、猫の手だよ! 猫の手!」

「猫の手……?」


 みおちゃんは首を傾げて魔王の手を見つめます。しかし、視線に気づいた魔王は眉間にしわを寄せて手をおなかに隠して伏せをしてしまいました。


 仕方なく橙花ちゃんに聞くこととしました。


「……猫の手ってどんな手?」

「えーっと。グーの途中みたいな感じかな」

「んー……」


 橙花ちゃんの言う通りにやってみましたが、うまくできずじゃがいもがコロコロと転がってしまいます。みおちゃんはふてくされてしまいます。


「むー。いいよ猫の手なんて。そんなことしなくても切れるもん」

「みおちゃんの手が傷ついちゃうから駄目だよ! うーん、どうやって教えれば……」

「それならあたしにお任せ!」


 カレーソース作りが終わったリンちゃんが飛んできてくれました。


「多分、力を入れすぎてるのよ。軽く食材をおさえる感じで、ゆっくりと切ってみて」

「うんしょ、うんしょ、えいっ!」


 なんとかうまく切れました。


「できたよ!」「おみごと! センスある!」

「うん! みおはセンスあるの!」


 ふふんと胸をはっています。


「それじゃあ、この切ったお芋はリューリューたちのとこに持っていこっか!」

「分かった!」


 たくさんのじゃがいもを炒め係の劉生君・吉人君ペアに持っていきます。


「どうぞ!」「ありがとうね! せっかくだから、みおちゃんもやってみる?」「うん!」


 ジャガイモやニンジンをせっせといためます。この世界は暑さを感じないはずですが、料理をしているからでしょう、汗がたらりとたれます。


 それでも、みおちゃんは嫌がらずに、楽しそうにいためます。


 お肉の色が変わったら、お湯の中に野菜を入れて、ルーを溶かしていきます。リンちゃんが作ったカレーソースもここで投入です。


「あたしんちはこんな手の込んだソースつくらないでルーだけにしてるわ……。みつる君の家はこんな面倒なことしてるの?」

「やる気があるときはスパイスから作ってるよ。ルーだけでも十分美味しいから、そこまでこだわることもないよ」


 リンちゃんがコトコトと煮込んでいると、側でみおちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねます。


「みお! やる!」

「おっ、やってみる? いいわよ。ゆっくりかき混ぜてね」

 

 足場をもってきて、みおちゃんにバトンタッチです。

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