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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
3章 君のことを知りたいんだ! 食べ物いっぱいの国、マーマル王国!
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24 第二回戦! 料理の腕をふるうは、お姉ちゃんのリンちゃん!

 リンちゃんはつかつかと魔王の前に行きます。


「魔王! あたしが思い描く料理を出してちょうだい!」

 

 今度は返事もせずに、そこらへんにあった木の歯を放りました。葉っぱは黄色の光に包まれ、一枚のお皿が現れました。


 アルミでできた銀色のお皿の上には、たくさんの料理がよそっていました。


 みつる君が好きあ村井素もありますし、小さいですが咲音ちゃんの好きなクロワッサンもあります。リンちゃんの好きなフライドポテトもあります。


 ハンバーグカレーはありませんでしたが、小さな可愛らしいハンバーグものっかっています。小さなマグカップにはたっぷりなコーンスープがありますし、蜜柑の小さなゼリーもちんまりと端っこの方に置いてあります。


 個々にみればてんでバラバラな料理たちです。しかし、オムライスに刺さった国旗がすべての料理を一つにまとめていました。


 そう、この料理は子供ならだれでも大好きな、あの料理です。リンちゃんがネタばらしをする前に、劉生君が目をキラキラさせて答えを言ってくれました。


「わあ! お子様ランチだ!」


 そうです、お子様ランチです。どのファミリーレストランにもある、小学生以下の子供向けのメニューです。小さな子供を対象にしているだけあって、量こそ少ないのですが、いろいろな食べ物が並んでいて見ているだけで楽しい気持ちになります。


 吉人君は懐かしそうに料理を眺めます。


「昔頼んでましたねえ。玩具がついてくるのがうれしかったですね」

「だよね!」劉生君は満面の笑みです。「僕は今も頼んでるよ! 楽しいおもちゃいっぱいあって楽しいよ!」

「あっ、そうですか……」


 吉人君は、『けどこの年齢になると中々恥ずかしくて頼みにくいです』と続けようとしていましたが、この思いはそっと胸に押し殺すこととしました。


「もしなんだったら、僕が味見すよ!」

「だーめ。リューリューは我慢しなさい。これはみおちゃんのものなんだから」


 劉生君をなだめて、リンちゃんはみおちゃんの前にアルミのお皿を置きました。


「はい、どうぞ!」

「……」


 みおちゃんはじっとお子様ランチを見つめます。今までの料理は興味なさそうにするか、嫌々一口食べておいしくないと切り捨てていたのに比べると、格段の違いです。


 もしかしたら、今度こそもしかするかもしれないとみんなが思っていたら、みおちゃんがぽつり、ぽつりと話しだします。


「みおね、レストランでこういうごはん食べたことあるんだ。久々にパパとママと一緒に行ったごはんだったの。みお、すごくワクワクしてたの」


 しかし、みおちゃんは小さく首を横に振ります。


「……でもね、ご飯食べてるときに、また喧嘩しはじめたの。……だからね、みおはね、あんまり食べたくない」


 料理を見ていたのは関心からではなく、トラウマが刺激されたからなのでしょう。


「……そっか」


 リンちゃんはポンポン、とみおちゃんの肩をたたきます。


「無理して食べなくてもいいからね」

「……うん」


 本当に嫌だったのでしょう、みおちゃんはホッとしたように笑顔になります。彼女を責めることはできませんが、みんなの表情は複雑そうな表情になってしまっています。


 それもそれで仕方ありません。なんだって、もうチャンスは一回きりなのです。それも失敗してしまったら、最悪な事態になってしまいかねません。


「……」


 橙花ちゃんは杖を握りしめます。臨戦態勢を整える橙花ちゃんでしたが、劉生君は慌てて彼女の手をぎゅっと手を握りしめます。


「駄目っ! 駄目だからねっ! 絶対ダメ!」

「……劉生君。これが一番いい方法なんだ。お願いだからリンちゃんたちと一緒に逃げて」

「まだあと一回チャンスがあるんだよ」

「きっと最後の一回も失敗する。だって、みおちゃんの好きな食べ物はないんだから」

「……」


 ぴくりと、みつる君の眉が上がります。彼の変化に気づくことなく、劉生君が必死に反論します。


「そりゃあ、こんなに美味しい料理ばっかの国でも好きなものなんてなかったって、みおちゃん言ってたけど、それでもやってみようよ! 橙花ちゃんだけが傷つくなんて絶対嫌だよ!」

「いや、失敗するのがわかっててこれ以上あがくわけにはいかない。ここの料理は君たちの世界にある料理よりもレベルは格段に高い。なのに見つからなかったんだよ? もう彼女の好きなものはないにきまってるよ」

「それでもやるの!」

「だから、やっても意味ないって、」


 魔王の耳に入らないようにする配慮すら忘れ、二人は激しく言い争います。


 とはいっても、魔王に隠そうしていたときだって、彼はしっかりと橙花ちゃんの作戦を聞いていました。ライオンの耳は人よりも良いのです。


 彼らが逃げ出さないようにマーマル城入り口にゾウやサイなどの大型動物を配置し、橙花ちゃんと劉生君を捕らえるためにパワーのある魔物たちを近くに潜めています。勝負を放棄して逃げたとしても、すぐにひっとらえることができます。


 もしも劉生君の作戦を決行したところで、失敗は確実です。そもそもみおちゃんをゲームの対象とした時点で、彼らを勝たせる気なんて一切ありません。


 悔しがる橙花ちゃんを諸手を挙げて喜んでから、予定通り起爆させてから彼らを捕まえるか、起爆しない代わりに無抵抗投降を要求しようという魂胆でした。


 どっちに転んでも都合がいい結果になります。どちらかというと逃げ出してくれた方が面白くなることでしょう。ゲームを放棄したペナルティだとかなんとか言って、橙花ちゃんの目の前でだれか適当な子供を引き裂けば、彼女も大いに傷ついてくれることでしょう。


 そんな非情なことを考えながらわくわくしていた魔王ですが、劉生君と橙花ちゃんのけんかはまだまだ終わりそうにもありません。お互い本気で怒鳴りあっています。


「全ての料理が集まってるこの国で何も好きなものが見つからなかったんだから、最後の一回でどうにもならないよっ」

「そうかもしれまないけどっ嫌なんだもんっ」

「嫌だ嫌だっていっても、なにもうまくはいかないよ!」

「でもっ」「でもじゃないっ!」

『……』


 最初の数秒は楽しんで聞いていましたが、足も速いですが飽きも早く、好きなものは最初に食べる派の魔王のことです、だんだん待つのが面倒になってきました。


 終わりも見えないことですし、適当な脅し文句を吐きかけて状況を進めようと、魔王は口を開きました。


『お前ら、さっさと進めないと』

 

 ですが、魔王は最後まで言葉を続けられませんでした。


「そんなことはない!」


 みつる君は叫びました。

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