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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
3章 君のことを知りたいんだ! 食べ物いっぱいの国、マーマル王国!
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22 第一回戦! 料理の腕をふるうは、メシマズ系女子、咲音ちゃん

 チャレンジ一回目がはじまりました。


 しかし、沈黙は続いたままです。みんなだって、何かいいことを思いついていたら口を開くのですが、何も思いついていないからこそ、一言もしゃべれないのです。


 そんな中、マイペースな女の子が一歩前に出ます。


「わたくしにお任せください!」


 咲音ちゃんです。


「料理クラブの一員として、みおちゃんが美味しいと思ってくださる料理を考えてみせましょう!」


 勇気自体は素晴らしいです。どれだけ勇敢な男の子でも、これほどの緊張がはりつめる場で、こうも堂々と立候補できるものではありません。しかし、披露するのが咲音ちゃんの料理となると、ついつい不安を抱いてしまいます。


 劉生君とリンちゃんは顔を見合わせます。


「ど、どうしようか」「う、うーん。意外と咲音ちゃんみたいな料理が好きかもしれないからなあ。ミッツンはどう思う?」

「……いくら咲音っちの料理だとしても、ここの魔法のおかげで美味しくなるに違いないから、味は大丈夫だと思うよ。……うん」


 やっぱりみつる君はどことなくテンションが低いです。どうしてでしょうか。気にはなりますが、今はそれよりも料理のことを考えねばなりません。


「……よし」リンちゃんは決意をします。「咲音っち、お願いできる?」


 リンちゃん、賭けに出ました。咲音ちゃんは元気よく返事をすると、臆せず魔王に相対します。


「魔王さん魔王さん。わたくしお願いを叶えてください」

『わかったわかった』


 魔王はそこらへんに落ちていた小石をぽいっと咲音ちゃんに投げ渡します。すると、石は黄色の光をおび、咲音ちゃんの手元に吸い込まれていきました。


 光が消えると、彼女の手元には真っ白なお皿と、お皿の上に乗った謎の真っ白な塊がありました。お米ではなく、例えるならば雪の塊のようでした。しかもかなり大きく、バレーボールくらいあります。


「なに、これ?」


 リンちゃんはじっと目を凝らしますが、どうみても雪、そうじゃないとしても小麦粉をまぶした何かにしか見えません。


 みつる君も眉間にしわを寄せて、じっと料理を観察します。


「……もしかして、塩釜焼き?」

「さすが林君! その通りですわ!」


 リンちゃんは首を傾げます。


「しおがまやき? 聞いたことないわね」

「一応、昔からあるメニューだけど、給食には出てこないメニューだからね。聞いたことなくても仕方ないよ」

「塩釜焼ってことは、この白いのは全部塩なの!? さすがにこの量の塩を食べると体壊すわよ!?」


 こんな量の塩を全部食べるなんて、想像もできません。きっと、「塩分の取りすぎになるからスナック菓子を食べてはいけない」と説教していた保険の先生は泡を吹いてぶっ倒れてしまうこと間違いないです


「ああ、違うよ、道ノ先っち」みつる君は慌てて説明します。「この塩は全部食べないよ。塩を割って、中のものだけを食べるんだ」

「あ、そうなの?」


 それなら、保険の先生があまりのショックで気絶してしまって、病院送りになることもありません。リンちゃんはほっとしました。


「塩の中にはタイを入れるのが一般的だけど、これは違うみたいだね。何入れたの?」

「それは中を開けてみてからのお楽しみです! さあさあ、みおちゃん、どうぞ召し上がれ!」


 咲音ちゃんは自信満々の様子でみおちゃんに料理を出しました。みおちゃんも初めてみる料理だったのでしょう。興味津々の様子で眺めてくれました。


 これには橙花ちゃんも驚きの声をあげます。


「どんな料理でも関心なさそうにしていたみおちゃんが、あんな真剣に料理を見てる……!」


 もしかしたら、もしかするかもしれません。橙花ちゃんは期待していましたが、劉生君とリンちゃん、それからみつる君は塩釜の中のものを心配していました。


 普通に魚やお肉だったら、何も問題はりません。本来の塩釜焼は魚を使いますが、お肉を使っても旨味が増して美味しくなります。


 ですが、作ったのはほかでもない、咲音ちゃんです。何が起こってしまうかと、内心ヒヤヒヤしてしまいまっています。


 塩の覆いはスプーンやお箸では割れないほど固く作られていますので、ハンマーを使ってたたきます。


 軽く一二度たたくと、わずかなヒビが入ります。もう一度たたくとヒビが大きくなり、ついにはぱらりと、塩の塊が崩れ、中のものが姿を現しました。


「……これって……」


 緑色の大きな球に、黒いシマシマの食べ物が出てきました。


「そうです! スイカさんですよ!」

「なっ」


 リンちゃんは言葉を失い、みつる君は頭を抱えます。

 

「……スイカの塩窯焼きなんて聞いたことないよ……。ってか、スイカを焼いたってこと?」

「ええそうですよ! 最近流行ってるんですって!」

「……そうなんだ」


 どこで流行っているんでしょう。少なくともみつる君は聞いたことありませんし、はやっていたとしても、こういうやり方でスイカを焼きはしないことでしょう。


「ではでは、みおちゃん、どうぞ召し上がってください!」

「これ、このまま食べるの?」

「ああ、そうですね! 割らないと食べれませんよね! えい!」


 さっき塩を割ったハンマーでたたき割りました。まさかのアグレッシブな割り方です。スイカの破片は飛び散って、城の床を汚します。さすがの魔王もドン引きです。


『包丁を出してほしいならそう言ってほしいんだが……』


 文句を言いますが、マイペース咲音ちゃんは気にも留めません。


「ではでは、どうぞ! みなさまも食べてみてください!」


 断面ぐちゃぐちゃのスイカを配ってもらいました。


「……」


 劉生君たちは黙って顔を見合わせます。焼いたせいか塩のせいか、若干色は抜けてピンクになってはいますが、そこまで見た目は悪くありません。


 悪くはないのですが、食べたいかといわれると口を閉ざしてしまいます。


「ね、ねえ、ヨッシー」


 リンちゃんは恋に溺れる吉人君に振ります。


「どう? 食べてみれば?」

「……えっと、」


 さすがの吉人君もためらったいます。しかし、ここは片思いのパワーがさく裂するときです。


「……わ、分かりました。食べてみます」


 勇気を振り絞って、一口、かじりました。


「……」

「ど、どう?」


 吉人君は固まって、小さく呟きました。


「……しょっぱい……」

「だよねー」


 リンちゃんもかじってみます。


「わあ、ほんとだしょっぱい。けどあたしは意外とこういう塩辛い方がすきかも」


 続いて劉生君も食べてみました。確かにしょっぱいですが、しょっぱさの中に甘みもあります。焼いたおかげでしょうか、実の部分が柔らかくて食べやすいです。


「美味しい! 棒も好きだよ!」


 みつる君も「今までの料理と比べるとマシだ!」と驚いていました。橙花ちゃんはあまり好きな味ではなかったようでしかめっ面をしていましたが、食べれないほどのまずさではないみたいです。


 これなら、まさかまさかの奇跡が起きるかもしれません。劉生君たちは期待を胸に、みおちゃんを見つめます。


 しかし、


「みお、しょっぱいのやだ」


 スイカを一口も食べず、ぷいっとそっぽを向かれてしまったのです。


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