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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
1章 ミラクルランドへようこそ!
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6 目覚めよ、『ドラゴンソード』! 泣き虫な劉生君の男気!

 桃色の雲を抜けると、ガラスと飴の植物が生える森にたどり着きました。白い土の上にはたくさんの雑草に似た飴細工が生えています。木々は赤や青、オレンジのガラスで出来ており、リンゴ飴がなっています。太陽の光がガラスや半透明の飴に反射して、それはそれは綺麗な森です。


 しかし、三人たちは幻想的な風景を楽しむ余裕なんてありません。


 吉人君が後ろを振り返り、悲鳴をあげます。


「まだあの犬追いかけてきていますよ!」

「しつこいわね、あの犬もどき!!!」

「うううっ、なんで僕ら追いかけられているのーっ!」


 犬は鬼気迫る様子で追いかけてきています。追いつかれたら確実に襲われてしまうでしょう。犬の口から覗かせる白い牙がそれを物語っています。


「ああもう、これじゃあ追いつかれちゃうわ! 何とかして反撃しないと……」

「うわっ!」


 吉人君が木の根っこにつまづいてしまいました。


「ヨッシー!!」


 リンちゃんが吉人君を引っ張ろうと急いで駆け寄りました。ですが、後ろからはものすごい勢いで犬が襲い掛かってきています。もう間に合いません。


「……っ!」


 劉生君は踏みとどまりました。


 自分の力では、到底あの犬には勝てません。


 それでも劉生君はリンちゃんたちをかばう様に赤犬と向かい合いました。手に持つのは、ベルトにさしていた新聞紙の剣、『ドラゴンソード』です。


「く、く、くるならこい!」


 劉生君の声は震えていて、足も震えています。なんなら『ドラゴンソード』を持つ手も震えています。怖くて怖くて仕方ありません。涙もあふれてきます。


 ですけど、このまま吉人君とリンちゃんが襲われてしまうほうが、彼にとっては怖いことでした。


「う、うわあああああ!」


 せめて、せめて気をそらすだけでも!


 劉生君は勇気を奮い立たせて、『ドラゴンソード』を振りかざしました。


 その時です。

 

 突如、『ドラゴンソード』が光を帯びました。


「へ!?」


 驚く劉生君の目の前で、『ドラゴンソード』は徐々に姿を変えました。


 ただの棒だった新聞紙は持ち手とツバができ、刃はしなやかで鋭く、真っ白な光沢を放っています。

 剣を守るように覆っているのは、真っ赤な炎です。一番近くにいるはずの劉生君は全く痛くありませんし、怖くもありません。


 ですが、どうやらあの赤犬には効果てきめんだったようです。


『ぎゃうっ!?』


 赤犬は悲鳴を上げると、よろよろと倒れてしまいました。まさに一撃必殺。たった一振りで倒してしまったのです。


赤犬は苦しげに呻きますが、力なく倒れ、赤いヒカリの粒となって消えていきました。


「すっっっっっっっっごい!! すごいじゃないのリューリュー! なにその剣! かっこいい!!」


 リンちゃんは目をキラキラさせて『ドラゴンソード』を見つめます。


 一方の吉人君は相当驚いてしまったのでしょう、ぽかんとしています。


 しかし一番驚いているのは劉生君です。呆然と立ち尽くし、固まっています。


「僕にも分からない。頑張らなくちゃって思ったら、『ドラゴンソード』が変身したんだ。どうしたんだろう……?」


 剣を見つめていると、吉人君がハッと息をのみました。


「あ、赤野君!後ろ!」

「え?」


 もしや新手かとビビってそちらを向き、劉生君はぽかんとしました。


 犬の消えた場所に、一人の女の子が立っていたのです。


「うっ……。ひどい目にあった……」


 劉生君たちの方を向くと、申し訳なさそうに肩をすくめました。


「ごめんね、来たばっかりなのにこんなことに巻き込んでしまって。助けてくれてありがとう。怪我はない?」

「え?う、うん。ないけど……」

「そっか。よかった」


 ほっとしたように息をつきます。


 見たところ敵ではないようですが、普通の子供でもないようです。


 その子は肩まで伸びた長い髪に、幼さを残した真ん丸お目目をしています。身長もそこまで高くありませんので、おそらく劉生君たちと同い年くらいの子でしょう。服は魔法使いが着ているような白いローブを着ています。


 ですが、上で説明したような外見は、彼らの頭に一切入ってきません。


 なぜなら、ある一点が異様なまでの存在感を誇っているからです。

 リンちゃんはおそるおそる尋ねます。

 

「ねえあんた。その頭に生えてるのって……なに?」

「あー。これはまあ、……気にしないでね」

「いやいやいやいや、気にするわよ」


 彼女の頭の上には、立派な鹿の角が生えていました。青い光によって形作られています。


右側に一本だけしかありませんが、それでもとんでもないインパクトです。リンちゃんの言う通り、気にしないなんてことはできません。通学路でこんな人が歩いていたら二度見していまいますし、転校生で彼女みたいな子が来たら、あだなが『鹿角ちゃん』になります。


 リンちゃんの冷静な突っ込みのおかげで、ようやく正気に戻った吉人君は質問を投げかけました。


「あ、あなたは何者ですか! どこからでて来たんですか!?そもそもここはどこですか?あの化け物は一体なんですか!」

「……えっと、ごめん。聞き取れなかったから、もう一回お願いできる?」

「Watts! Your! Name!!!」

「……あい、あむ、とうか、あおい……?」

「Where are you from!!」

「うぇーあーゆーふろむ……ふろむ……えーっと、出身国?日本だよ」

「あ、いえ、どうしてあの犬の化け物がいなくなったとこに出てきたのかなあと思いまして……」

「どうやって、かあ。うーん。あい、あむ……じゃないか。あい……かむ……」


 劉生君とリンちゃんは、こそこそお話しします。


「よく分からない子だけど、いい子みたいね」

「そうだねリンちゃん。英語はそこまで得意じゃないみたいだね」

「あたしたちと比べたらわかってる方だけどね」

「だねだね!」


 劉生君とリンちゃんには、彼女の話した英語はひとつたりともわかりません。当然ながら、吉人君の話した英語も理解できません。


 と、いうわけで……。


「ごめん、そこの女の子!もう一回名前聞かせて!」

「え? ああ、うん。ボクの名前は蒼井橙花あおい とうか。蒼って呼んでほしいな」

「蒼井!?」


 劉生君は思わず声を上げます。


「も、もしかして君って、蒼井陽さんの御知り合いだったりする!?」

「……あー」


 蒼井陽の名前を聞いた途端、蒼ちゃんの表情が曇りました。ですがちょうど三人は変化に気づきませんでした。リンちゃんは劉生君に突っ込みを入れています。


「リューリューったら何言っているのよ。蒼井陽って作品の中の苗字でしょ? 本当の名前はまた別にあるんじゃないの」

「え!?そうなの!?がーん、そうだったんだ……」


 劉生君は落ち込んでしまいました。


「……えっと、」


 蒼ちゃんは場を取り持とうと声を張り上げます。


「君たちの名前を教えてよ。まずは、炎の剣を持っている君から」

「……僕は赤野劉生。小学校四年生だよ……」

「同じく! 小学校四年生、道ノ崎リンでーすっ!」

「初めまして。僕の名前は鐘沢吉人です。よろしくお願いします」


 蒼ちゃんはうんうんと頷きます。


「道ノ崎リンちゃんに、鐘沢吉人君。それと、赤野劉生君か。はじめまして」

「それで、蒼さん」吉人君は食い気味に問いかけます。


「この世界は一体何なんですか。あなたはこの世界の住民なんですか? それと、……この世界から現実世界に帰る方法を早急に教えてください」


 吉人君の最後の言葉に、劉生君とリンちゃんは血相を変えました。


「あ!そういえば僕たちってどこから来たんだっけ!?」

「分かんなくなっちゃった!」


 必死に逃げていたせいで、この世界に来たエレベーターの場所がどこだか分からくなっていました。


 顔面蒼白の三人に、蒼ちゃんはニコニコとした笑顔で答えます。


「この世界はミラクルランドだよ。僕はこの世界の住民ではない。長居はしているけどね。こっちの世界から君たちの世界には普通に戻れるから安心して」


 それと、といって、蒼ちゃんは言葉を続けます。


「向こうとこっちじゃ時間の流れが違うから、それも安心していいよ。多分、あっちの世界はまだ一分すらかかってないね」

「あっ、そうなんだ……よかった……」


 蒼ちゃんの気の利いたプラスαコメントに、門限キツキツ系男子である劉生君はほっと肩をおろします。

 吉人君はまだ聞きたいことがあるらしく口を開きますが、それを蒼ちゃんが制します。


「これ以上はちょっと込み入った話になるから、場所を変えようか。ボクらのムラに案内するよ。そこなら魔物も来なくて安全だし」


 彼女はちらっとあたりを見渡してから、しゃがみこみます。


「うーん、っと。これがいいかな。三人とも、ボクについてきて」


 虹色ガラスの枝を拾うと、木の根を飛び越えてスタスタと歩きだしました。三人は一瞬顔を合わせましたが、悪い子でもなさそうですし、ついていくことにしました。


 三人も足元を注意しながら蒼ちゃんの後をついていきます。その途中、うっかり劉生君が転んでしまいます。


「いたっ! う、うーん。やっぱ両手使えないと歩きづらい……」


 右手には未だメラメラ燃え盛る『ドラゴンソード』が持っています。見た目ほど重くはありませんが、バランス的な問題でうまく動けません。


「鞘があったらいいんだけどなあ。こう、かっこいい奴!」


 なんて口にすると、『ドラゴンソード』が一瞬ピカッと光りました。


「え?」


 ぽかんとしているうちに、いつの間にか『ドラゴンソード』は鞘に収まっているではないですか。それもかなりかっこいいです。白を基調として、ドラゴンの絵が赤色で描かれています。


「……??」


 よく分かりませんが、サイズも若干細くなったのでベルトに差し込みます。


「なんだか不思議……」


 彼は首を傾げつつも、他の三人の後をおいかけました。

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