20 みおちゃんの過去! 美味しくご飯を食べられない訳!
「多分ね、食べるのが嫌になった原因は、みおちゃんのお家が複雑だからだと思ってるんだ
けどね、別にみおちゃんのご両親はあの子のことを嫌ったり、暴力を振ったりしたわけじゃないんだ」
むしろ、一人娘の彼女を溺愛していました。だから一生懸命仕事をしていましたし、みおちゃんの欲しいものはなんでも買ってあげていました。
けれど、両親同士は、お互いのことは愛せなかったのです。
二人は休日の夕飯時しか顔を合わせません。仕事が忙しいのでその時くらいしか言葉を交わせませんでした。
そういうときに限って、二人は大喧嘩。怒声が飛び交う食卓になってしまいます。
二人の怒りがみおちゃんに向かうことは一度もありません。そうはっても、子ども心ながらに、両親には仲良くしてほしいと思い願っていました。
一度、みおちゃんは必死に訴えました。
喧嘩は辞めてほしいと。仲良くしてほしいと。
そうお願いすれば、両親の仲が良くなると考えたのです。だって、他の願い事は何でも叶えてくれるのです。それだけ出来ないことはないと思い込んでいたのです。
しかし、みおちゃんの願いはかなわず、両親は喧嘩を続けました。
そんなある日、みおちゃんはあるおぞましい言葉を耳にしてしまいました。
どっちが言い始めたかは分かりません。ですが、確かに、二人はこう話していたのです。「離婚をしよう。もう二度と会わない」と。
……みおちゃんの願いはかなわない、それどころか、より最悪な事態に転がり始めてしまったのです。一番叶ってほしい願い事は、無残に投げ捨てられました。
みおちゃんは苦しみました。悲しくなりました。泣いて泣いて、泣きはらして、気が付いたらミラクルランドに来ていたのです。
ミラクルランドに来てからは、いい子にしてた反動でしょうか、みおちゃんは荒れに荒れました。けれど友之助君をはじめ、ムラの子が優しく彼女を癒してくれました。特に、橙花ちゃんはまるで自分の妹のように愛してくれました。
そのおかげで、ちょっと我儘にはなってしまいましたが、みおちゃんは元の明るい女の子に戻れたのです。
しかし、一度ついた傷は中々治らないものです。
両親が喧嘩していたのがいつも食卓で、独りぼっちな自分を再認識してしまうのも食卓でしたので、未だにみおちゃんは食べることを嫌ってしまうのです。
「あの子がポロって漏らした話をつなぎ合わせただけだから、細部は違うかもしれないけど、大筋は合っていると思うよ」
橙花ちゃんは苦しそうに肩を落とします。
「……いつかは楽しく食事をとれるようになるって、そう願ってたんだ。まさか、こんなことになるとは思わなかった」
沈黙の中で、みつる君は「そっか」とため息のような声音で言います。
「……そんなに辛い思いを、あと一日でどうにかできるのかな」
「……」
みつる君の弱気な発言に誰もが口を閉ざします。思った以上に困難な状況だと分かってしまったからでしょう。
しかし、劉生君だけは違います。
「とにかく、行動あるのみだよ! まだ一日もあるんだから、いい方法見つかるよ!」
劉生君の言葉に根拠はありません。ありませんが、こういう根詰まった時は引っ張ってくれる人がいればやる気も上がるものです。
暗くなってしまったみつる君も、劉生君の無鉄砲な元気に笑みが戻ります。
「……そうだね。みおちゃんの嫌な思い出を打ち消せるくらい美味しいご飯を考えればいいだけだもんね」
「そういことならお任せください!」咲音ちゃんが腕まくりします。「わたくしが独創性ある料理を思いついてみせますから」
「……え?」劉生君はうろたえます。
「そ、それはやめた方が……」「そ、そうよ。リューリューの言う通りよ」
びびる二人に、吉人君は怪訝そうにします。
「珍しいですね。道ノ崎さんはともかく、誰の意見でも大体は賛成する赤野君が反対するなんて」
「あ、あはは」
劉生君は笑うしかありません。
「と、ともかく、先に作戦会議をしてみる?」
「そうねえ。考える時間はいっぱいあるものね。なんだって、この国はどこもかしこも食べ物だらけで、調理する時間を考えなくてもいいもんね。いやー楽でいいわね」
リンちゃんは心の底から喜んでいます。しかし、彼女の言葉に、みつる君は複雑そうな表情になりました。
「……調理する時間がいらない、か。確かにそうだよね。……うん」
どこか浮かない顔をしています。劉生君はキョトンとみつる君を見つめます。そういえば、と劉生君は思い起こします。
みおちゃんの好きなものを探しているときも、最初の方は素直に楽しんでいましたが、途中からなんだか納得いっていないような表情になっていた気がします。
劉生君が「どうかしたの?」と訊ねようと口を開きましたが、その前に、別の声が割って入ってきました。