18 みつる君の決意! 挑め、魔王へ!
みつる君の問いに、リンちゃんは声のボリュームを落として答えます。
「……うん、そうよ。ああして元気にしてるのをみると、嘘だと思っちゃうけどね……」
「……」
みおちゃんは楽しそうに折り紙を教えています。
咲音ちゃんの突拍子もない折り方には「ぶきっちょさんだね!」と驚いて首を傾げ、劉生君のちょっとした間違いには「だーめっ! それは谷折り! 山折りにしなくちゃダメなの!」とぷんぷん怒り、二人がうまくできると「みおの教え方がうまいんだもん!」と言いつつ、ハニかんでいました。
しかし、彼女の体には爆弾を仕掛けられています。解除しなくては、彼女は笑ったり怒ったりできなくなってしまうのです。
「……あっ! そうだわ! ねえ、蒼ちゃん」
リンちゃんはあたふたしながら橙花ちゃんに話かけます。
「あのね、お願いがあるの。向こうの世界に帰れるエレベーター作ってくれない!?」
「もう帰るの?」
「あたしたちは帰らないよ。そうじゃなくて、ミッツンをね」
お願いをすべて言い切る前に、みつる君は思わず口を開きました。
「やっぱりさ、俺、ここに残っていいかな?」
「え? けど、」
「咲音っちだけを置いていくのもなんか怖いし、料理は少しはできるからさ」
……それに、みおちゃんの元気な姿をみていると、自分も彼女を救いたいと、そう思ってしまったのです。
「あ、でも、足手まといになっちゃうかな? それだったから帰るよ」
「そんなことないわよ!」
リンちゃんは嬉しさのあまり、みつる君の手をぎゅっと握りしめました。
「ミッツンがいてくれるなら百人力よ! 五人合わせて五百人力、いや、千人力よ! ありがとうね!」
「そんな、ほめすぎだって。サポートは何とか出来るかもだけど、魔王退治まではできないよ。赤野っちや鐘沢っちみたいなかっこいい武器もないからね」
みつる君はちらりと劉生君の『ドラゴンソード』と吉人君のキャンディー杖を見ます。さすがにリンちゃんの黄色の手袋が武器だと気づかなかったようですが、リンちゃんも何らかの武器を持ってそうだとは思っていました。
しかし、リンちゃんはニヤリと笑います。
「ふっふーん。武器がないなら作ればいいのよ。サッちゃん! 一旦こっち来てくれない?」
折り紙を中断して、咲音ちゃんがこちらに来てくれました。
「どうなさったんですか?」
「サッちゃん、それにミッツン。あたしが持ってきてってお願いしてたもの出してくれる?」
みつる君は思い出すように目を細めます。
「えっと、俺たちが大切に思ってるものを持ってくるんだっけ? 自己紹介に使うのかと思ったんだけど、違うの?」
「ふっふーん、違うだよね! それじゃ、蒼ちゃん! よろしくっ!」
急に振られた橙花ちゃんですが、ある程度予測はしていたのでしょう。「それじゃあ二人とも、少しこちらへ」といって、いろいろと手ほどきを始めてくれました。
「さすが蒼さん。話が早いですね」
「ほんとほんと。教えるのも上手だし!」
すると、みおちゃんがハイハイっ!と手をあげます。
「みおも教えるの上手だよ! 弱虫おにいちゃんもそう言ってた!」
「うん! みおちゃんは将来先生さんになれるよ!」
「でしょ?」
みおちゃんはニコニコしています。すっかり劉生君と打ち解けたようです。劉生君も、弱虫おにいちゃんと呼ばれるのに慣れたようで、一緒にニコニコしています。
自然と、リンちゃんと吉人君にも笑顔が移ります。
「それでは、僕らもみお先生の折り紙講座を受講しましょうか」
「そうしよっか! みおちゃんみおちゃん、あたしね、ぴょんぴょんカエル折ってみたい!」
劉生君たち三人はみおちゃんと折り紙レッスンを、みつる君と咲音ちゃんは橙花ちゃんに異世界レッスンを受けることとなりました。
魔王から宣戦布告されているとは思えない、和やかな雰囲気です。
そんな彼らを、シャンデリアが輝く謁見室で眺めていた魔王は、軽く舌打ちをします。
『暢気なものだ。全く、これだから子供は嫌いなんだ』
見ているだけで腹が立ってくる暢気さです。お気に入りのマシュマロ座布団に爪を立ててしまうほどイライラしつつ、魔王リオンは子供たちを監視します。
彼の見立てによると、新しく入ってきた二人の子供は特別な力もない、ごくごく普通のお子様のようです。
『まあ、この作戦が日の目を見ることはないだろうがな』
なぜなら、あの子供たちは近いうちに自らの手のうちに落ちる運命なのですから。魔王はしっぽをぶんぶん振って含み笑いを浮かべました。
『さてさて。オレは楽しみを先にしておきたいタイプだからな。さっそく動くとするか』
大きく伸びをして、魔王はルンルンで王座から華麗に飛び降りました。