14 救世主登場! 新メンバー登場です
劉生君たちは、たこ焼き屋さんのベンチにいました。ソースがきいた美味しいたこ焼きを食べているというのに、四人の表情は明るくありませんでした
「……ごめんね、みんな」
橙花ちゃんがたこ焼きをいじくりながら、ぽつりと呟きます。吉人君はたこ焼きを半分に割りながら首を横に振ります。
「蒼さんが悪いわけではありませんよ」
リンちゃんも、豪快にたこ焼きをほおばりながら、強く頷きます。
「うん。みおちゃんだって悪くないわよ」
マーマル城から出て一時間、みおちゃんの好きなものを見つけようと必死に駆け回りました。ですが、どれを食べても、みおちゃんは「これ嫌い」とはっきり答えるのです。食べれないわけではありません。嫌々一口食べて、プイっとそっぽを向いてしまいます。
挙句の果てには、「疲れた」とむくれてしまったので、一旦ここで休憩しているのです。みおちゃんは橙花ちゃんの膝を枕にしてスヤスヤと眠っています。目にかかりそうな髪の毛を耳にかけてあげて、橙花ちゃんは弱気な笑みを浮かべます。
「うん。みおちゃんは悪くない。……けど、このままだと……」
「……」
劉生君はみおちゃんのことを思いながら、たこ焼きを口の中にいれます。「……っ」とんでもなく熱く、劉生君は身もだえます。劉生君の苦悩に気づかず、橙花ちゃんはうつむきます。思いつめた様子で、彼女は口を開きました。
「……ねえ、みんな。相談があるんだけど」
その発言に、劉生君は嫌な予感がしました。劉生君はたこ焼きを頬に含みながらも、瞬時に拒否をします。
「いや」
「……へ?」
「また橙花ちゃんだけつらい目に合おうとしてるでしょ。僕は絶対にはんた、ごほごほっ!」
たこやきがうっかり喉に入って、せき込んでしまいます。リンちゃんが慌てて近くの蛇口から飲み物を汲んできてくれました。
ごくごくと飲んで、ぶーっと噴き出しました。
「なにこれ!? あっま!」
「わっ! ごめんこれ甘酒だった!」
余計にせき込んでしまいました。あたふたする二人を見て、吉人君はくすりと笑います。
「ほんと、どこまでも締まらないですねえ。そんな彼に免じて、馬鹿なことはやめときましょうね、蒼さん」
リンちゃんも劉生君の背中をさすりながらですがうんうんと頷きます。
「そうよそうよ。また一人で突っぱしらせないわよ。あたしたちは友達なんだから、一緒に考えましょうよ!」
「リンちゃん……吉人君……それに劉生君も……」
橙花ちゃんはふんわりと微笑みます。
「……ありがとう。みんな」
彼女の喜びを表すかのように、青い鹿の角が優しく輝きます。劉生君も嬉しくなって勢いよくたこ焼きを食べ、悶えます。
「あふい、あふい!!」
「はい、お水」
今度はちゃんとお水です。リンちゃんが劉生君を介護している間、吉人君は真面目な質問を橙花ちゃんに振ります。
「ですが、今回ばかりは力を合わせるだけでは乗り切れなさそうですね」
「……うん、そうだね」
橙花ちゃんと吉人君は悩み、あれこれ意見を出し合いました。ですが、これならなんとかなりそうだと思える案は出てきません。時間だけが過ぎていきます。
時間がとまるか、それとも遅くなってほしいものです。そんなことを吉人君が考えていたら、吉人君がハッと何かを思いつきました。
「そうですよ! 僕らだけでもいいから、一旦あっちの世界に帰りましょう! そうしたら前の時のようにいい案が思いつくかもしれませんよ! 向こうならじっくり考えられますし!」
「ああ、いいわね! どうかしら蒼ちゃん」
橙花ちゃんはしばし考え、小さく頷きます。
「そうだね。うん。そうだね。その方がいいかもしれない。……また君たち三人だけに任せることになっちゃうけど……」
「それくらいいわよ! まっかせておきなさい!」
リンちゃんはポンと胸を叩きます。さすが生来のお姉ちゃんです。特に根拠もありませんが、リンちゃんになら頼ってもいい気がしてきます。
「うん! 僕らに任せてね!」
劉生君も元気よく胸を炊きます。よく見ると胸にソースが飛んでいます。さすが末っ子気質。初対面の人なら「こんな子に任せて大丈夫かな」と不安になってしまうことでしょう。
しかし、リンちゃんも吉人君も、劉生君だってとても頼りになることを橙花ちゃんは理解していました。彼女は迷いなく微笑みます。
「それじゃあ、おねがいできるかな」
「うん!」「いい案見つけてきますね」「いってきます!」
橙花ちゃんは元の世界に戻るゲートを作ってくれます。今回のゲートはドーナッツ屋さんのオブジェでした。あの穴の部分をくぐると、薄暗く古臭いエレベーターの内部となります。華やかなマーマル王国と繋がっているとは到底思えないでしょう。
橙花ちゃんと別れを告げ、劉生君たち三人はあちら側の世界へと帰ります。
エレベーターの中で、リンちゃんはうんうんと唸ります。
「ほんと、みおちゃんの好きなものをどうやって探せばいいのかな」
吉人君も腕組みします。
「料理の数は人の数ほどありますからね。探すのも一苦労ですね」
「そうねえ。けどまあ、前回みたいにね、こう、うまい具合にひらめくかもしれないしね! 期待してるわよリューリュー!」
「え? 僕?」
劉生君は素っ頓狂な声を上げます。
「そりゃそうよ。前回だって、リューリューの一言があったから最高の遊園地が作れたんじゃないの」
「そんなの、たまたま思いついただけだよ」
「ほら、よく言うじゃない? 二度あることは三度あるって」
「僕、まだ一度目なんだけど」
「一度も二度もそう変わりないわよ」
あまりに強引なリンちゃんの提案に、劉生君は自信なさそうに体を縮めてしまいます。不憫に思った吉人君は励ましてくれます。
「気負いしすぎず、落ち着いていればいい案も思いつきますよ。もちろん、僕も道ノ崎さんもしっかりと考えておきますから」
「うー……」
それでも、劉生君は何かいい案が出てこないものかと頭をひねりました。元の世界に戻って、お家に帰って、お風呂に入っている間も、どうやったらみおちゃんに納得してくれるのかと思い悩んでいました。
劉生君だけではありません。吉人君も考えていましたし、リンちゃんだって家事の合間にちまちま悩んでいました。
ですが、三人ともいい案は思いつきません。
結局、その日は一つも考えつかず、次の日になってしまいました。さすがに翌日になると呑気な三人でも焦りが生じます。
このままでは、何も浮かばずミラクルランドに向かうことになってしまいます。それだけは避けなくてはなりません。
ですので、翌日の中休みのとき、劉生君たち三人は図書室に向かうこととしました。ともかくたくさんの料理をみれば何か思いつくだろうかと、料理本を机いっぱいに並べてみました。
おいしそうな料理の写真とレシピはたくさんあります。劉生君が大好きな肉汁たっぷりハンバーグのレシピもあります。リンちゃんが好きなフライドポテトのレシピもあります。吉人君の好きなお寿司のメニューこそありませんが、手巻きずしのレシピならあります。
けれど、みおちゃんが好きそうなメニューは載っていないような気がします。
リンちゃんは椅子にもたれかかり、うめき声を上げます。
「うー。文字の読みすぎで頭パンクしそう。もうやめやめっ! こんなの見てもどうしようもないじゃない。どんなにおいしいご飯を作っても、みおちゃんが納得してくれない限りどうしようもなくない?」
吉人君は頁をぺらぺらとめくります。
「そこなんですよね。どうやってみおちゃんが納得できるメニューを見つけ出すか。これがほんとうに難しいです」
「ほんとねえ……。リューリューはどう思う?」
「……スピ―、すやすや、ぐーぐー」
「……」
リンちゃんは無言で劉生君のほっぺたを抓ります。
「いたっ! あれ? ここどこ!? 僕は誰!?」
「赤野君、うるさいです」
ぴしゃりと吉人君に怒られてしまいました。ついでに図書委員の子も迷惑そうな顔で寄ってきました。
「すみません、図書館ではお静かに……って、あれ? 赤野っち?」
「あれ? 林くん?」
そこにいたのは、ふっくらとして優しそうな男の子、林みつるくんでした。
劉生君は首を傾げます。
「林くんって、保健委員さんじゃなかったの?」
「あはは……。本当はそうなんだけど、代理を頼まれてね。そ、それにしても、アトラクションの次は料理にはまってるの?」
話をそらしたいのでしょうか。これ見よがしに本を眺めます。
「へえ、こんなレシピ本もあったんだ。今度の料理クラブで何か作ってみようかな」
「料理クラブ? あ、そういえば林くんは料理クラブに入ってるんだったね」
林くんはそうだよーとのんびり答えてくれた、その直後。リンちゃんと吉人君が突然立ち上がりました。
「林くん!」
「ミッツン!!」
「「いいところにきてくれた」ました!!!」
リンちゃんはガシっと林くんの手を握ると、図書室に響く大声で叫びました。
「あたしたちに教えて。ご飯食べるの嫌いな子でも美味しいって思える料理を!!!!!」
「え? 料理? 俺が? なんで?」
呆然とする林くん。吉人君が説明をしようとしましたが、図書室の司書の先生がにこやかに三人の肩をつかむと、耳元で囁きました。
「……今スグ、出テ行ッテ下サイ」
「「「……は、はい……」」」