13 悪魔のゲーム、開始! しかし勝算は……?
魔王が口にした言葉は、彼らの想像をはるかに超えたものでした。耳には入っていたが脳がうまく処理できず、四人は固まってしまいました。絶句する四人を眺め、魔王は首を傾げました。
『ふむ? 驚かないのか? 爆弾だぞ爆弾。それも小さいものではない。確実にこの娘は木っ端みじんになるくらいの規模だ。明日までにゲームが成功できなかったら起爆させてもらおう』
「……それは、本当なのか」
橙花ちゃんの声は震えていました。怒りを通り越して、能面のような顔をしています。魔王の望み通りの反応だったのでしょう。いたずらがうまくいったときの子どものように喜びます。
『その通りだ。ちなみに、起爆条件はまだあるぞ? 解除条件だってゲーム終了以外にも用意してある。どうだ? 知りたいか?』
「……解除方法を吐け。その後すぐ血祭りにあげてやる」
冗談ではありません。本気の口調でした。しかし魔王はわざとらしく『怖い怖い』と怯えるそぶりをするだけです。
『まずは、起爆条件から教えてやろう。オレに危害を与えることだ。ということは、解除方法を教えた後に血祭りにあげられないようだな。いやはや、残念だな。はっはっはっ』
「……いいから解除方法を言え」
『ゲームに勝利する以外の解除方法はたった一つ。お前らが降伏することだ。ちなみに降伏後の処遇は決定してある。時計塔ノ君と、もやし以外のガキは記憶操作で許してやろう』
劉生君は息をのみます。
「ぼ、僕と橙花ちゃんはどうなる、の……?」
『そこのもやしは少々実験に付き合ってもらおう。危険性がなさそうだったら記憶操作。危険があったら幽閉だな。まあ、そう案ずるな。それなりの娯楽は提供してやる』
「……橙花ちゃんは?」
魔王は今日の天気を答えるように、あっさり言います。
『処刑だな』
「しょ、処刑!?」
それは即ち、橙花ちゃんの命を奪うという意味です。
『ああその通り。案ずるな。痛みは一瞬だ。苦しむ間もなく逝かせてやろう。それで、質問んはその程度が? どんどん聞いてくれ』
優しい口調で問うてきます。しかし、ハイハイと挙手できる空気ではありませんので、四人は黙ってしまいました。魔王は睨ウ橙花ちゃんと怯える劉生君をちらりとみて、満足げに微笑みます。
『では、明日この広間にこい。そこで雌雄を決しよう。楽しみにしているぞ』
それだけ言うと魔王は背中を向け、悠々と歩いていきます。敵の大ボスが隙を見せているというのに、誰も動くことはできません。
周囲の魔物たちも無表情ではけていき、広い会場に劉生君たちだけが残されました。どうやら今までわいわいがやがやしていた魔物たちは全て魔王の手先だったようです。
呆然とあたりを見渡す吉人君。その横で、劉生君が泣きそうな顔でリンちゃんを抱きしめています。
「リンちゃん、リンちゃん! 痛いよね。どうしようっ」
「全く、リューリューったら」リンちゃんは苦笑します。「あたしよりも痛そうな顔しないでって。大丈夫だから、心配しないでって。あたしよりもみおちゃんよ。橙花ちゃん、大丈夫なの」
橙花ちゃんは険しい表情えみおちゃんの体を優しく擦ります。
「外傷はないけど、魔王の言ってることは嘘ではないね。何らかの魔法がかかってる。ボクの力ではとてもじゃないけど解除できないくらい複雑なものだね……」
そこで、みおちゃんがぴくりと身動きしました。睫毛を震わせ、薄目を開けました。
「ん……? あれ? 蒼おねえちゃん?」
「みおちゃん! どこか痛いところはない? 立てる? 歩ける? 体調悪くなってない? リオンに変なことされてないよね」
矢継ぎ早に質問する橙花ちゃんに対し、みおちゃんは呑気そうにしています。
「痛くないよ。体調も悪くないよ!」
「そっか。……なんともないならいいんだ」
心底ほっとしたように橙花ちゃんは肩を降ろします。リンちゃんと吉人君も安心したように表情を緩めました。
「よかったよかった! これで、みおちゃんの好きな食べ物聞けるわね!」
「ええそうですね! てっきり、彼女をずっと眠らせておいて、僕らを困らせたかったのかと思いましたよ。もしかして魔王も失敗したんですかね!」
テンションの上がるリンちゃんと吉人君ですが、一方の橙花ちゃんは苦い顔をしています。橙花ちゃんの変化にも気づかず、リンちゃんがみおちゃんに話し掛けていました。
「ねえねえ、みおちゃん。みおちゃんの好きな食べ物って何?」
「みおの? ないよ」
「え? ないの?」
「うん。だってね、みおはね、食べるの嫌いだもん」
橙花ちゃんは暗い顔で言いました。
「あのね、みんな。みおちゃんは好きな食べ物がないんだ。甘いものも好きじゃない、辛い物も好きじゃない、そもそも食べることを嫌ってるんだ」
みおちゃんは明るく頷きます。
「そうだよ! 嫌いなの!」
みおちゃんとは裏腹に、リンちゃんは顔が青ざめてしまいます。
「……そ、それじゃあ、魔王のゲームって、もしかして、勝ち目なし?」
「……」
橙花ちゃんは深く頷きました。