12 ハートフルな世界に、残虐な魔の手! 魔王リオンの策略!
橙花ちゃんは叫びます。
「みおちゃん!」
橙花ちゃんは杖を構え、魔王に怒鳴ります。
「みおちゃんを返せ!」
『そう急かすな』
魔王リオンはみおちゃんを優しく下に降ろし、楽しげに喉の奥で笑う。
『今日のオレは機嫌がいい。話を聞いてくれるならこの娘を返してやってもいい。もし抵抗をするのなら、分かっているよな?』
ライオンの爪はすっとみおちゃんの頬を撫でます。ぱくり、と傷が開き、血がしたたります。
「分かった、分かったからそれ以上みおちゃんを傷つけないで!」
橙花ちゃんの悲痛な叫びに、魔王はますます楽しそうに高笑いをします。
『いい顔だ。だが、今のお前には何もできやしない。どうだ? 悔しいか? オレのことが憎いか?』
「……いいからさっさと言え」
『そう急かすな。まずは一つ、素朴な疑問なのだが、』
魔王リオンはちらりと劉生君の方を見ました。
『あいつはどっから連れてきた? 妙な力を持っているようだが』
劉生君はキョロキョロと辺りを見渡し、自分を指さします。
「ぼ、僕?」
『ああ。そこの軟弱もやし小僧だ』
「な、軟弱もやし小僧……」
ひどい言われ様です。とはいっても、劉生君は強く言い返せません。そういう役割は彼の幼なじみ、リンちゃん担当です。
「ちょっとあんた。なに偉そうなこと言ってるのよ。それ以上リューリューを馬鹿にしたらあたしがゆるさ」
『黙れ、小娘』
そのときです。目の前にいた魔王が姿を消しました。そして、リンちゃんの背後に立っていました。
『<ハイ・ブレッド・プレッシャー>』
血のように赤い爪がリンちゃんの背中を切り裂きます。
「リンちゃん!」
咄嗟に劉生君はリンちゃんを抱きかかえます。
「リンちゃん、リンちゃん!」
「赤野君、僕が回復します。<ギュ=ニュー>!」
吉人君はキャンディーの杖をふります。リンちゃんの傷口が白い光に包まれます。しかし、傷口は塞がる気配がありません。
「ど、どうして……!」
『オレの技、<ハイ・ブレッド・プレッシャー>は呪いを含んだ攻撃だからな。その程度の回復では効かんぞ』
<ハイ・ブレッド・プレッシャー>、つまり高血圧です。塩分のとりすぎや栄養の偏り、運動不足などでかかってしまう生活習慣病です。
高血圧が深刻になると動脈硬化に繋がり、最悪の場合血管が破裂してしまうおそれがあります。
そんな恐ろしい技を一身に受けたのです。リンちゃんは苦しげに荒く息を吐きます。体が震え、目からはボロボロと涙が溢れてきています。あまりにもつらそうなリンちゃんに、劉生君も涙目になってしまいます。
橙花ちゃんは歯を食いしばり、魔王リオンに吠え掛かります。
「……リオンっ! 貴様っ!」
『オレに吠えかかるな。あの小娘がギャーギャー騒いできたのが悪い。さあ、質問に答えろ、時計塔ノ君。あのもやしはどこから調達してきた? ひょっとしてお前が作り上げた人造人間か?』
興味深そうにじろじろと劉生君を見つめます。魔王は純粋に好奇心から劉生君を観察していますが、その眼から残虐な光ものぞいています。劉生君は恐怖のあまり足がガタガタと震え、体が縮こまります。
それでも、リンちゃんをしっかりと抱きかかえ、涙目で魔王を睨みつけます。
「僕は普通の人間の子供だよっ。じんぞーにんげんなんかじゃない!」
『普通の? にしては歪な魔力を持っているがな。……まあいい。本題はここからだ』
魔王はみおちゃんの頬を尻尾で撫でました。
『オレはしっかりと予習ができる男なのだ。だから、あのギョエイとどう戦ったのか、どう勝ったのかも理解している。貴様の弱点もな。なあ、時計塔ノ君。お前は自分の弱点は何だと思う?』
橙花ちゃんは答えません。ただただ、魔王をものすごい形相で睨みつけるばかりです。魔王は気を害した様子もなく、くすりと笑います。
『気高き王たるオレが教えよう。お前の弱点はガキどもだ』
ちらりと劉生君たちをみて、低く笑います。
『ギョエイと戦っていたときだってそうだ。そこのガキどもを人質にしたおかげで、あと一歩で倒せるとこまで追い詰められた。そこのモヤシにそそのかされて、絶好の機会をふいにしていたがな』
リオンはふんと鼻を鳴らします。表情はどこか苦々しげです。
『だからあいつは甘いんだ。そんなの無視してさっさとやってしまえば、消えずにすんだというのに』
「そんなのはどうでもいい」橙花ちゃんは冷たく言います。「さっさとみおちゃんを解放しろ」
『そう急かすな。まだ話は途中だぞ?』
コロコロと笑いながら、子供を諭すように言います。
『お前らはあの魚と楽しいお遊びをしたらしいな。なんだったか? 遊園地のアトラクションづくりだったか。聞いた当初は何を馬鹿なことをしてるんだと呆れたが、有能なオレはすぐに思い直したさ。年長者であるオレが、お前らのレベルに合わせてやるべきだとな。そこで、オレからお前らに楽しいゲームのプレゼントだ』
魔王は牙をむき出しにして笑う。魔王のプレゼントやらが劉生君たちのためになるわけがないと、一目で分かるくらい老獪な笑みでだった。
『ゲームの内容は至極簡単なものだ』
魔王は片足をみおちゃんの肩に乗せます。
『この小娘の好きな食べ物を探してくることだ。そうすればゲームクリア。オレと戦えるチャンスを与えよう』
「好きなもの?」
吉人君は拍子抜けしたように呟き、慌てて口を塞ぎます。リンちゃんの件があるので神経質になっていたのです。流石の魔王もそこまできつくあたるつもりはありません。
そもそも、魔王が一番関心を寄せているのは時計塔ノ君こと橙花ちゃんです。次点で劉生君でしょう。
それ以外の人間には興味などありません。リンちゃんのように激しく抗議してくるならともかく吉人君なんて眼中にありません。彼の目は橙花ちゃんだけを見つめていました。
『どうだ? 簡単だろう?』
しかし、橙花ちゃんは眉間にしわを寄せます。
「……分かって言ってるな?」
『ふっ、なんのことやら』
魔王はすっとぼけます。ニヤニヤした表情を崩さず、魔王は話を続けます。
『だがしかし、ゲームにはリスクがつきものだ。そこで、失敗した時の罰ゲームも用意しておいた。聞いて驚くなよ?』
魔王はもったいぶったように間を置いて、口を開きます。
『実はな、この娘に爆弾をしかけているんだ』