5 熱烈な歓迎!(悪い意味ですが……)
皆さんはご存知でしょうか。最近のゲームでは少ないかもしれませんが、昔のゲームでは場面転換の時にホワイトアウト(またはブラックアウト)をしていました。
この理由はゲームによって様々でしょう。感動的なシーンを際立たせるためかもしれません。緩急をつけたいだけかもしれません。ですけど、大体のゲームでは、ロードするためにホワイトアウトしていました。
彼らが白い世界に飛び込んだ時、まさにそんな感覚を彼らは覚えました、
一瞬の真っ白な空間の後、目の前には世界が広がっていました。
「わあ……」
誰かが声を上げました。誰かはわかりません。もしかしたら三人とも声を上げていたのかもしれません。それくらい、目の前の世界は彼らが見たこともないものでした。
最初に目に飛び込んできたのは、空に浮かぶ平面の五角形です。黄色い線で描かれています。その真ん中に、高い時計塔がそびえています。時計は三時を指していました。
足元を見てみますと、地面は桃色の雲で出来ていてふわふわしています。空気は清やかに澄み渡っていて、吸って吐くだけで心地よく感じます。
彼らの近くには雲しかありませんが、少し離れたところには飴細工やガラス細工でできた美しい花々が咲き誇っていて、もっと離れた場所、時計塔の奥には大きなお城や観覧車が見え隠れしています。
「すごいっ!」
リンちゃんは目を輝かせます。
「ここってきっと異世界よ異世界! わあ、すごい! 見てみて、雲の上に立っているわ! ふわふわしてる!」
「み、道ノ崎さん! そんな飛び跳ねて雲から落っこちたらどうするんですか!」
劉生君がびくっとして、片足を地面から離しました。ですが、リンちゃんはお構いなし。楽しそうにゴロゴロ転がります。
「ヨッシーは心配しすぎよ! 触り心地すごくいいわよ! 僕の家のお布団より気持ちい!」
「そ、そうなんですか?」
吉人君は慎重にぺたぺたと地面を触りました。崩れる気配はありません。
「本当ですね。ふわふわしています。まるでわたあめみたいな感じですね」
「それなら食べれるわね!」
「止めておいた方がいいですよ。お腹壊したらどうするんですか」
「ちぇー。ねえねえ、他の場所も見に行こうよ! お城とか遊園地とかさっ!」
「それよりも、元の世界に帰れるのかを確認しないといけませんよ」
劉生君はハッとなりました。そうです。この世界から帰れないといけません。
「か、か、帰れるんだよね!? い、一旦エレベーターに戻ってみようよ」
劉生君は二人の返事を待たずに、エレベーターに戻ろうとしました。ですが、彼はぴたりと足を止めました。
エレベーターの前に、大きな動物がいたのです。
ぱっと見は大きな柴犬のようです。ですが、毛並みと瞳の色が、彼らの世界にいる犬と全く違っていました。柴犬のようなパンの色でもなく、劉生君が怖がっている黒い毛の犬でもなく、白や茶色、灰色の毛でもありません。
その犬は、燃えるような赤い毛並みをしていました。肩の部分にはキリン模様のような五角形の印があり、目の色は白目もなく真っ黒に塗りつぶされていました。よくよく見てみると、犬の周りには赤黒いオーラがモヤモヤと漂っています。
三人は気づきました。
……あの犬はまずい。劉生君が怖がっていた黒犬なんて比ではない、と。
赤い犬は、歯をむき出しにして唸ります。
「ひいっ!」
「りゅ、リューリュー!」
「赤野君、逃げますよ!」
三人はエレベーターとは真逆の方向へ慌てて駆け出しました。