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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
3章 君のことを知りたいんだ! 食べ物いっぱいの国、マーマル王国!
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8 お菓子の城と、非情な王様、魔王リオン!

 山盛りになった唐揚げに、黄金に輝くオムライス。クロワッサンやフランスパン、アンパンやジャムパンなどなどたくさんのパンが所せましと置いてあるお店に、たんまりとお皿に盛られたスパゲッティ。


 見渡す限りおいしそうなご飯でいっぱいです。


 リンちゃんは両手にハンバーガーを持ってウキウキしています。


「バイキングっぽくていいわね! 楽しい!」


 リンちゃんが持っているハンバーガーの一つはテリヤキバーガーです。ジューシーなお肉には濃厚なテリヤキソースがかかっていて、ふわふわの卵がお肉とテリヤキのうまみを包み込みます。


 もう片方はチーズバーガーです。とろとろのチーズにトマトの酸っぱさが絡みあい、お肉の美味しさをこれでもかと引き出しています。


「そうですねえ。もう少し甘いものも食べたいですが」


 吉人君は大学芋をもぐもぐと食べています。かたわらにバニラアイスが添えてあります。温かい大学芋と冷たいアイスを交互に口にしていると、いくらでも食べれそうな気がしてしまいます。


 劉生君もたくさんのお寿司をほおばって上機嫌です。


「たまご! たまご! たまごはおいしい!」

「リューリューったら、もっと高いもの食べればいいのに」

「だって、たまごが好きなんだもん……」

「はいはい。あたしのてりやきバーガーも食べる?」


 ハンバーガーを劉生君の口元に持っていくと、彼はぱくりとほおばります。


「おいしい!」

「口にソースついてるわよ。まったくもう、あわてんぼうさんなんだから」


 持っていたハンカチでふき取ってあげて、ニコニコと微笑みます。そんなリンちゃんを見ていた橙花ちゃんは、吉人君にこそこそと喋りかけます。


「ねえ、吉人君。リンちゃんとボクだったら断然リンちゃんの方が可愛いよね」

「どうして僕に聞くんです?」

「君だったらリンちゃんの方が可愛いってわかってくれそうだし。劉生君に対するあの振る舞い方、すごくかわいいと思わない?」

「可愛いというより、かっこいいではありませんか? 姉さん女房っぽさがありますね。どちらかというと蒼さんの方が可愛い系統かと思いますよ」

「ボクはそう思わないけどなあ……」

「……」


 そもそもそんなことを気にしている時点で十分可愛らしいと思う吉人君ですが、とりあえず黙っておきました。吉人君は大人ですから、そこらへんの配慮だって出来るのです。


 吉人君は別の話題に切り替えることとしました。

 

「そういえば、これから僕たちが戦う相手、魔王リオンは一体どういう方なんですか?」

「ああ、話してなかったね。劉生君たちも食べながらでいいから聞いておいて」

 

 橙花ちゃんはこれから戦う敵、魔王リオンについて説明をしてくれます。


「魔王リオンは、マーマル王国を治める百獣の王だよ。かなりの自信家で、……ちょっと偉そう、かな。自分の意見は常に正しいって思ってる」


 リンちゃんはハンバーガーをほおばりながら眉を顰めます。


「何それ。嫌な奴ね」

「まあ、そう思っても仕方ないかな」


 橙花ちゃんはわずかにハニカミますが、すぐに真面目な表情に戻ります。。


「魔王リオンの厄介なところは、勝つために手段を選ばないところだね。敵の情報だってしっかり集めるし、部下もうまく使う。どんな卑怯なことだってやってのける」


 より一層リンちゃんは嫌そうにします。


「うわあ、やっぱ嫌な奴ね。クラスメイトになりたくないわ」


 劉生君も顔を青ざめながら頷きます。もし知り合いで彼のような人がいたら、すごく意地悪してきそうです。ドッチボールで執拗に劉生君だけを狙ってきそうですし、テストで消しゴムを落としてしまっても拾ってくれなさそうです。


 吉人君はそこらへんで配っていたゴマ団子に舌鼓を打ちながら、疑問点を質問をします。


「それで、魔王リオンの弱点はあるんですか。魔王ギョエイは物理の攻撃に弱かったんでしたよね」

「魔王リオンも同じだよ。むしろ、魔王リオンの方が物理には弱いよ。劉生君とリンちゃんなら、技を一撃当てられれば倒せるくらいにね」


 揚げたて唐揚げを食べつつ、リンちゃんはびっくりします。


「えっ! そうなの! 弱っ! そこら辺の魔物くらい弱いんじゃない!?」

「防御の弱さだけをみたら、他の魔物と変わらないか、むしろ弱いね。ただ、攻撃は他の魔物と段違いで強い。それと、これは一番注意してほしいところなんだけどね、魔王リオンは他の魔王と比べるとすさまじく足が速い」

「へえ、そうなの」


 脚力には自信ありのリンちゃん、ルンルンで軽く飛び跳ねます。


「それなら是非あたしとカケッコ勝負してほしいわね! どんだけ速いの?」

「二キロを一秒で走れるくらい」

「あ、それは無理だわ」


 諦めが悪いリンちゃんも、さすがにあっさりと負けを認めます。


「とんでもなく速いわね……。そんなに速いんじゃ、攻撃も当たらないんじゃないの?」

「そうなんだ。そこが一番のネックだね。動きを止められさえすれば確実に倒せるけど、そうしないと一方的にやられてしまう」

「うーん。なるほどね。ちゃんと考えて戦わなきゃいけないってことね」


 リンちゃんはうんうんと唸りながら、唐揚げを劉生君の口に放り込みます。


「もぐもぐ。うんっ! サクサクでおいしい! やっぱ唐揚げはおいしいよねえ。それでそれで、蒼ちゃんは魔王リオンをどうやって倒してたの?」

「不意を突いたり、うまく魔法をつかって動きをとめたり、だね。ただ同じ手は二度は使えないから、あまり参考にはならないよ。どうにかこうにか考えないと」


 橙花ちゃんが顎に手を当てて考え込みます。劉生君も頑張って考えてみました。


 ですけど、やっぱりよく分かりません。


 何かヒントはないかなあ、と周りをキョロキョロしていると、ふと、劉生君は気づきました。


「あれれ? すごい大きい道に出てきたね!」


 ヌーの群れや象の家族が歩いていても、窮屈に感じないくらい余裕がある道幅です。道の終わりにはこれまた大きな門が待ち構えていました。


 そして、その先にあったのは門よりもっと大きなマーマル城です。


 マーマル城は、小さな何本もの塔と三つの大きな塔で出来ていました。一番大きな塔はアイスのお城です。色とりどりのアイスが積み重なって、一つの塔になっています。


 右にあるのは洋菓子の塔です。クッキーやパイ生地の塔に、カステラやマドレーヌがくっついています。生クリームのデコレーションがとても可愛らしいです。


 左にあるのは、和菓子の塔です。下の方は羊羹やどら焼き、最中などなど、よくお店で見かける和菓子でできています。上の方には、お花や動物の形をした綺麗で上品な生菓子が装飾されています。


 小さな塔は、一つ一つがケーキになってます。なめらかなチョコがふんだんにかかったチョコケーキに、みずみずしいフルーツがいっぱい乗ってるタルト、ショートケーキだってあります。どれもこれも美味しそうです。


「本当にお菓子のお城なんだね。食べてみたいなあ」


 子供なら誰でも一度は夢見る光景です。劉生君たち三人はうっとりとマーマル城を眺めてます。よだれがあふれだしそうです。許すなら、是非ともお城の側にかけよって、どこか齧ってみたいと思ってしまうほどでした。


 ならば橙花ちゃんに許しをもらおう! 橙花ちゃんなら許してくれるはず!


 劉生君は行く気満々で橙花ちゃんの方を振り返ります。しかし、彼女は食い入るようにマーマル城を睨み、訝しげに眉を顰めます。


「……おかしいな……」

「うん、おかしのお城だね」


 つまらないジョークを口にした劉生君に、リンちゃんからありがたい折檻のプレゼントです。


「いひゃい、いひゃい、ほっぺ、いひゃい」

「リューリューのことは気にしないでね」

「それで蒼さん、なにがおかしいんですか?」


 橙花ちゃんは真ん中のアイスの塔を指さします。


「あそこの塔なんだけど、前までは魔王自慢の飴の塔だったんだ」


 赤や青、緑に黄色の飴で作られた塔でした。塔にはバラや動物の装飾が施されており、太陽の光を反射してキラキラと輝いておりました。それはそれは美しく、魔王も好んでいました。


 ですが、今や飴の塔ではなく、アイスの塔になっています。単に気分転換をするために改装したのかもしれませんが、あの狡猾な魔王リオンがこんなタイミングでそんなことをするとは思えません。


 一体どんな意図があるのかと橙花ちゃんは思案してみましたが、答えを見つけ出すのを妨げるかのように、鐘の音がゴーンゴーンと鳴りました。


 それと同時に、マーマル城の兵士が大声で怒鳴りました。


『もうパーティーが始まりますよ! 参加される方は急いで会場に向かってください!』


 すると、魔物たちがちょっと慌てた様子で駆けだしました。


「わわわっ!」


 劉生君たちよりも大きな動物が一斉に動きだしたのです。劉生君たちも端によったりだなんだりだと抵抗しましたが、たまらず流れに流されてしまいました。


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