6 光る角の女の子についていき、いざマーマル王国へ
流れていく風景が草原から森へと変わる頃、馬は徐々に失速していき、ついには止まってしまいました。どうしたのだろうかと劉生君と吉人君が馬を降りると、なんと、馬は折紙に戻ってしまいました。
「あれ!? なんで戻っちゃったの?」
「もしかして、どこかに魔物が出てきたのでしょうか」
ギョッとして辺りを見渡しますが、魔物の影は一切なく、のんびりとした空気が流れています。
劉生君が折紙を元の馬に戻そうとぶんぶん振り回していましたが、全然うまくできません。
そうこうしているうちに、橙花ちゃんとリンちゃんが追いついてきました。リンちゃんは不思議そうにびしょ濡れの劉生君たちを眺めます。
「どうしたのよ」
「池に落ちちゃったの」「僕のせいではありませんよ」
「あー、そういえば落ちてたわね」
「うん、うっかり落ちちゃったの」「僕のせいではありませんよ」
吉人君はちょっとご機嫌斜めで唇を尖らせています。リンちゃんはこれまた不思議そうに首を傾げます。
「喧嘩でもしたの?」「え? そうなの?」
劉生君は驚いて吉人君を見ます。吉人君は何とも言いづらいのでしょう。そっぽを向いてふてくされます。
「別にそんなことありませんよ。僕たちよりも、あなたたちはどうだったんですか?」
「あたしたちは仲良しになったもん。ねー、蒼ちゃん!」「ふふ、そうだね」
二人は仲良さそうにほほ笑み合います。そんな二人を、吉人君は遠い目で見つめます。
「……この分け方で割を食ったのは僕だけですか……」
ちなみに劉生君は特に悪びれもなく、のほほんと会話をします。
「橙花ちゃん橙花ちゃん。馬さんが折紙に戻ったけど、どうかしたの? まさか、池に落ちちゃったせい?」
「いや、そうじゃないよ。すぐそこがマーマル王国だから、ここら辺で止まるように指示を出してたんだけ。ほら、そこだよ」
橙花ちゃんは斜め上を指さします。
その先には、高い高い城壁と、雲に覆われててっぺんが見えない大きな大きなお城がありました。
あまりの大きさに、劉生君たちは圧倒されます。
「すごい! 高いなあ。僕が百人いても届かなさそう」「何の材質でできているんでしょうかね? つるつるです」「冷たくて気持ちいわねえ」
三人とも興味津々の様子でペタペタ触ります。橙花ちゃんは馬たちを元の折紙に戻してから、みんなに語り掛けます。
「ここの第二城門をくぐれば、城下町に入れるよ。あの魔王の性格からするとこんなところで襲ってくるとは思えないけど、一応警戒しておいてね」
橙花ちゃんの言いつけ通り、劉生くんたちは武器に手を添えます。劉生くんなんかはビビってキョロキョロ辺りを見渡します。
けれど、橙花ちゃんはそこまでピリピリしていないようです。迷いも恐れも警戒もなく、門を潜ります。
魔王リオンがこんなところで襲撃してこないと確信しているからでしょう。
吉人君も張りつめていた緊張を和らげ、橙花ちゃんの後を追いかけます。
「前から気になっていたのですが、蒼さんって魔王とお知り合いなんですか?」
「知ってはいるけど、仲はよくないよ。敵同士だからね」
橙花ちゃんは、にこりと笑います。
門の先はトンネルになっていました。橙花ちゃんは颯爽と先導してくれます。他の三人の後をおいながら、劉生君はじっと橙花ちゃんの背中を見つめます。
劉生君の頭によぎっていたのは、橙花ちゃんが魔王ギョエイと親しげにお喋りしていた場面でした。
「……」
前にフィッシュアイランドで魔王と戦っていたときのことです。劉生君たちが魔王ギョエイを倒したと油断していた途端、魔王の反撃にあい、劉生君は魔王の長い尾に貫かれてしまったのです。
しかし、劉生君は命を落とさず、過去のミラクルランドの光景を見せられたのです。
過去の世界のフィッシュアイランドは、観覧車もなければジェットコースターもない、ただの街のようでした。
魚たちが日常生活を送る中、魔王は親しげに橙花ちゃんをお喋りしていました。
敵同士で戦っていたとは思えないほど、仲が良さそうにしていたのです。
「……どうかしたの? 劉生君」
「え?」
橙花ちゃんが振り返りかえってきました。
「ボクの髪に何かついてる?」
「い、いやいや! 何でもないよ。何にもついてないよ! 鹿の角ならついてるけど!」
薄暗いトンネルを進んでいるせいでしょう。橙花ちゃんの頭から生える角は、いつもよりも青くきれいに輝いていました。
リンちゃんはまじまじと角を見つめます。
「蒼ちゃんの角って便利よねえ。懐中電灯いらずじゃないの」
「そこまでの明るさはないよ。もう少し光が強かったら、懐中電灯代わりになれるんだろうけど。まあ、その話はそれくらいにして、」
トンネルの終わりがすぐそこにありました。橙花ちゃんは一足先に外に出ると、にっこりと笑います。
「ここがマーマル王国の城下町だよ」