4 折り紙の馬に乗って、目指すはマーマル王国!
劉生君がエレベーターにうつった謎の人影について考えていると、吉人君が彼女に質問を投げかけていました。
「そういえば、マーマル王国へはどう向かうのですか? またフルーツバスでしょうか」
「いや、マーマル王国あたりは気流が安定していないから、空を飛ぶのはまずいかな。地上から行こう」
「歩いていくの? それとも走り? なら任せて!」リンちゃんが目をキラキラしますが、橙花ちゃんはあっさり否定しました。
「いや、徒歩ではいけないかな。リンゴ飴とガラスの森覚えている? マーマル王国はあそこの近くなんだ」
りんご飴とガラスの森といったら、劉生君たちと橙花ちゃんが初めて出会った場所です。キラキラと輝くガラスに、ツヤツヤに輝くりんご飴が美しい場所でした。
そこで魔物に囚われていた橙花ちゃんと出会い、彼らをムラへ連れてきてくれたのです。
あの時は雲に乗ってムラに行っていました。けれど、フルーツバスが危ないのならば、雲で行くのはもっと危ないことでしょう。
マーマル王国へ行く方法はちゃんと橙花ちゃんが考えていてくれていました。ちょっと待ってて、と橙花ちゃんがどこかへ歩いていくと、何かを手に戻ってきました。
「この子たちに力を借りようか」
橙花ちゃんが持っていたのは、折り紙で出来た二頭の馬です。片方は金色、もう片方は銀色のお馬さんでした。目の代わりに青色のボタンが貼ってあって、とても可愛らしいです。
劉生君は興味津々の様子で折り紙を見つめます。
「へえ、蒼ちゃんが作ったの?」
「ううん。これはね、ムラにいたある女の子が作ってくれたんだ」
友之助君はハッと息をのみます。
「それって、みおが作った奴か?」
「うん、そう。みおちゃんがボクにプレゼントしてくれたものだよ」
「……そっか。あいつはマーマル王国にいるからな。蒼たちをあそこに連れていくなら、あいつの想いがこもった折り紙の方が一番いい」
二人ともしんみりしてしまいました。
「……ねえ、橙花ちゃん。みおちゃんって子は魔物に捕まっちゃった子なの?」
橙花ちゃんは頷きます。
「うん、そうだよ。君たちがムラにいたときは、あの子もここにいたよ。けれど魔王ギョエイに捕まって、マーマル王国に引き渡されてしまったんだ」
橙花ちゃんは顔をうつむいてしまいます。
「まだ小学校に上がる前の女の子なんだ。大人びてるようにみえるけど、本当はとても甘えん坊な女の子でね、よく一緒に寝てあげていたなあ。だから、独りぼっちで寂しがってると思う」
「……それに、みおはあそこにいても、苦しいだけだしな。どうせなら、お菓子美味しいって楽しんでくれればいいのにな……」
リンちゃんは気の毒そうに二人に声をかけます。
「みおちゃんって、あんまり甘いもの好きじゃないんだね」
それだったら、お菓子のお城にいても楽しくはないでしょう。そう想像しての発言でしたが、友之助君は「あ、いや、違うんだ」と否定します。
「みおはな、食べるってことそのものが好きじゃないんだ。いや、好きじゃないってより、嫌いなんだ」
吉人君は小首をかしげます。
「食べることが、ですか?」
「ああ、そうなんだ。甘いものも辛いものも、すっぱいものも嫌いなんだ。どうしてだか分からないけどな」
「……そっか」リンちゃんはぽつりとつぶやきます。「それなら、なおのこと早く助けにいかないとね」
リンちゃんは「よーし!」と手を叩きます。
「いくわよ! いざ! マーマル王国へ!!」
「それじゃあ、馬に力を分け与えよう。えいっ!」
橙花ちゃんは杖を振りました。折り紙の馬は宙に浮くと、徐々に体が大きくなっていきます。そして、ついに折り紙の馬は本物の馬へと変化しました。
宝石のような美しい金と銀のたてがみを震わせ、海を映した目は優しく瞬きをしています。触ってみると、本物の馬のような温もりを感じました。
リンちゃんは声を弾ませます。
「わあ、すごい! ねえねえ蒼ちゃん。この馬に乗っていくの?」
「馬車のほうがいいかな。そっちの方が楽だろうし」
「……もし、どっちでもいいなら、乗ってみたいけど……。駄目、かな?」
「そうなの? それならせっかくだし、乗ってみようか」
劉生君たちからも異論が出ませんでしたので、馬に乗ってマーマル王国へ向かうことにしました。リンちゃんは「やった!」といってぴょんぴょん跳ねます。橙花ちゃんは暖かい眼差しを向けます。
「喜んでくれるならよかった。けど、乗るとしたら二人で一頭になっちゃうな。どうやって分けよ」
すかさず吉人君が口をはさみます。
「僕は蒼さんと一緒に乗りますよ。道ノ崎さんは赤野君と乗ってください」
劉生君とリンちゃんをくっつけ隊隊長の吉人君は、堂々たる提案をしました。ですが、橙花ちゃんは渋い表情を浮かべています。
「……その組み合わせは避けた方がいいかもしれない。別に、ボクが吉人君と一緒に乗りたくないってわけじゃないよ。ただ、魔物に襲われたとき、ボクと吉人君だったら対応できないかもしれないからさ。ボクと吉人君は他の子を助けるタイプの技ばっかりだからね」
四人は魔物と戦うために、三つの魔法の技を使えます。
それでは四人の技を紹介していきましょう。覚えていらっしゃる方はスルーで構いませんよ。
〇劉生君ー武器:炎をまとう剣、『ドラゴンソード』
技名
・<バーニングファイアー>:剣の火力を強くする技。どんな大きな敵でも一撃だ!
・<スプラッシュファイアー>:火の粉を散らして攻撃する技。たくさんの敵がいるときに使おう!
・<ファイアーウォール>:炎の壁をつくる。地面に使えば、下からの攻撃を防げるぞ! 魔力をたくさん使うので、注意しよう!
〇リンちゃんー武器:劉生君がプレゼントしてくれた、黄色いクマのぬいぐるみリュック。
技名
・<リンちゃんの バリバリサンダーアタック>:電気を身にまとって体当たりする技。技の出が早いぞ!
・<リンちゃんの <リンちゃんの ビリビリサンダーキック>:電気をまとった足で攻撃。リンちゃんの技で一番強いよ。
・<リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>:雷の玉を蹴って攻撃する技。百発百中だ!
〇吉人君ー武器:抹茶とミルクのぺろぺろキャンディー。今回も舐めたいのを我慢して持ってきた。ミラクルランドに来ると、一本の棒キャンディーに合体する。とても美味しそうな飴。
技名
・<ギュ=ニュー>:さっき劉生君に使ってあげてた回復技。とても万能だけど、魔力をたくさん使ってしまうぞ!
・<マッ=チャー>:葉っぱで攻撃する技。あまり威力はないから、魔王戦では使えないかも……?
・<マッチャ=ラテオーレ>:状態異常にする技。麻痺にさせたり、毒にさせたり、色々使えてとても便利!
〇橙花ちゃんー武器:杖。どうしてだか分からないけど、時々ナイフにもなる。不思議。
技名
・<トマレ>:時を止める技。弱い敵は行動自体を止めることが出来る。そうでなくても技の効果を一時的にストップできる。
・<ススメ>:時を早める技。自らの攻撃のスピードを速めるのに使う。
・<モドレ>:時を戻す技。杖に触れる位置にあるものにしか使えない技。
こうしてみると、橙花ちゃんの言う通り、彼女と吉人君は援護タイプの攻撃が得意なようです。ですので橙花ちゃんの言う通り、二人は別々の馬に乗った方がよいのでしょう。援護タイプが二人いたところで、何を援護していいやらよく分からなってしまいますしね。
橙花ちゃんは顎に手を当てて考え込んでいます。
「ボクと劉生君ペア、吉人君リンちゃんのペアになるか、それともボクとリンちゃん、吉人君と劉生君ペアのどっちかがいいかな。どうしようか」
軽い話し合いの結果、金の馬にリンちゃん&橙花ちゃんチーム、銀の馬に劉生君&吉人君になりました。
リンちゃんは嬉しそうに馬を撫でます。
「よろしくね、お馬さん!」
馬も嬉しそうにいななきます。リンちゃんもご機嫌です。
「ねえねえ蒼ちゃん! あたしが前に乗っていいかな?」
「うん、いいよ。二頭ともマーマル王国へ向かうよう教えておいてるから、迷子になることはないよ」
「わーい! それで、どうやって乗るの?」
「乗りたいって願いながらジャンプすると、馬も応じてくれるよ」
リンちゃんがぴょんと飛ぶと、うまく馬に乗ることができました。
「わー高い高い! 蒼ちゃん! 早く乗って乗って!」
「ごめん、ちょっと待って」
橙花ちゃんは踵を返して、寂しそうに一人佇む少年、友之助君の方を向きます。
「ん、なんだ? どうしたんだ?」
友之助君は寂しそうな表情を隠して、満面の笑みを向けます。橙花ちゃんも気づかないふりをして微笑み返します。
「ムラのこと、頼んだよ。……絶対に、無理はしちゃだめだよ」
「おう。そっちも、無理するなよ」
「うん、しないよ」
「嘘つけ。するくせに」
「……」
「おいおい、黙るなって」
友之助君はついつい笑みをこぼしました。
「ったく、そんなんじゃ俺も無理しなくちゃいけなくなるだろ」
彼は馬に乗っている劉生君たちを見上げます。
「蒼のこと、よろしく頼むぞ。絶対に、無理させちゃ駄目だからな」
「うん!」「頼まれましたよ」「大丈夫よ! あたしにかかれば朝飯前よ!」
「……ほんとに、頼んだからな」
友之助君は、橙花ちゃんに向きなおります。
「じゃあな。またな」
「……うん」
橙花ちゃんは馬に飛び乗ります。
「行ってきます、友之助君」
「いってらっしゃい。気を付けてな」
馬は走っていきます。
向かう先は、マーマル王国。狂暴な魔王リオンが巣食う恐ろしい場所です。
友之助君と他のムラの子たちは手を振ってお迎えします。
「……本当に、気を付けてな。蒼」
友之助君は、ぽつりとつぶやきます。
金と銀のたてがみが視界の先に消えていった後も、子どもたちがお見送りを辞めた後も、友之助君は彼女たちの向かった先を見守り続けていました。