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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
3章 君のことを知りたいんだ! 食べ物いっぱいの国、マーマル王国!
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2 振り返り終了! おや? ムラの様子に変化が……?

 瞬きひとつすると、白い世界が夢であったかのようになくなり、目の前に風景が広がります。


 まず目に飛び込んできたのは巨大な時計塔です。塔は天高くまで伸びています。この世界のどこにいても見えるほどに大きな時計塔ですが、残念なことに正しい時は示していません。秒針もついているはずですが、一秒たりとも動くことはなく、ただただ、三時を指し示すのみです。


 塔を囲むように、小さなテントがいくつも立ち並んでいます。パッと見は一人しか入れないように見えますが、中は子供が十人入っても広々暮らせそうなくらい広い空間が広がっています。


 テントの脇に生えている木々も、ただの木ではありません。なんと、木の実代わりにミニカーが実っているのです。木の下の子供たちは、どのミニカーを摘み取ろうかと悩んでいます。


 何一つ普通ではない、この世界の名は、ミラクルランド。


 願えばなんでも叶う、夢のような世界です。


 あらためて、リンちゃんは感嘆のため息をつきます。


「さすが夢のような世界! すごいわね!」

「どうせなら痛さも感じなければいいんですけどねえ。魔王退治で受けた傷は中々痛かったですから……」


 吉人君は、まるで自分たちが傷を受けてきたかのように言っています。


 吉人君の発言は比喩表現でしょうか?

 いいえ、違います。そうではありません。


 この世界ミラクルランドには、魔物や魔王が本当に存在しているのです。


 魔物たちはこの世界にいる子供たち(この世界に大人はいませんので、この世界の住民とも言い換えられるでしょう)を執拗に攻撃してきます。


 子供たちの生命を奪うことこそありませんが、その代わりに子どもたちを誘拐し、魔王それぞれの領地に閉じ込めてしまいます。


 一度囚われたら、自力で脱出するのは到底不可能です。


 そこで、子どもたちを助けるために、劉生君たち三人と、彼らを導く女の子が立ち上がりました。


 苦戦を強いられながらも、四人の力を合わせることでフィッシュアイランドの魔王ギョエイを倒し、子供たちを救出できました。


「あと魔王は四人だよね。うー、ドキドキするなあ」

「……赤野君、例の件は内密にお願いしますよ」


 吉人君が釘を刺すと、劉生君は慌てて頷きます。


「う、うん。分かってるよ。あの件については、内緒だもんね!」

「ええ。道ノ崎さんも、いいですよね?」

「……」


 リンちゃんは顎に手を当てて考え込み、首を傾げました。


「あれ? 何の話?」

「ええ! 忘れたんですか! あれですよ。眠り病の話です」


 後半は誰にも聞こえないように、リンちゃんの耳元で囁きます。


 リンちゃんはようやく思い出したのでしょう。「ああっ!」と声を上げます。


「魔神の呪いにかかっちゃった子は眠り病になっちゃうって話ね!」

「道ノ崎さん! 道ノ崎さん! 声が大きい!」

「わっ! ごめん! つい!」

「そうですよ! 魔神の呪い『一日七時間寝てしまう呪い』にかかった子は現実世界で眠り病にかかってしまって、さらに魔王に囚われてしまったら病気が重くなってしまうなんて、そういうことを大声で話さないでくださいよ!」

「ヨッシー! 話してる! 話しちゃってるよ!」

「……ああっ!」


 吉人君とリンちゃんが思いっきりヘマを犯している間に、眠り病についての解説をいたしましょう。


 眠り病とは、文字通り、眠り続けてしまう病気のことです。


 これにかかるとずっと眠り続け、目覚めることはないのです。


 今年の二月に最初の患者さんが見つかって以来、徐々に広がりをみせています。原因も感染経路も不明、地域もバラバラ、唯一の共通点は、病気にかかってしまう人は中学三年生よりも下の子だという点だけです。


 偉い人が一生懸命研究を続けていますが、未だ何も分かっていないとのことです。


 ですが、なんと、劉生君たちは眠り病の原因を突き止めたのです。


 それは、魔王を統率する魔神の呪いが関係しているのです。


 魔神はミラクルランドの子供たちにある呪いをかけました。


『一日七時間寝てしまう呪い』です。


 これだけをみれば、「なんだ健康的じゃないか」と思うことでしょう。


 しかし、ミラクルランドでこの呪いにかかった子は、なんと現実世界で眠り病にかかってしまうのです。


 そして、魔王に囚われている子たちは、症状が悪化してしまうことです。


 これを知っているのは劉生君と吉人君、リンちゃんの三人だけです。つまり、子どもたちを眠り病から助けられるのも、劉生君たち三人だけなのです。


 劉生君は、彼の武器である『ドラゴンソード』(元は細く丸めた新聞紙、今はかっこいい白い剣)を握りしめます。


 不安がないわけではありません。


 魔王と戦うことは、とても怖くて、思い出しただけでも足がぶるぶると震えてしまいます。


 しかし、劉生君たちは使命感で燃えていました。


 自分たちが魔王を倒し、ミラクルランドと子供たちを救うんだという強い意志が芽生えていたのです。


「……よし! リンちゃん、吉人君、僕ら三人と、橙花ちゃんで、魔王を倒そうね!」


 二人は迷いない笑みを向けます。


「当然っ! パパッと終わらせて、ささっと家に帰っちゃうわ!」

「ええ。そろそろテスト勉強もしなくてはなりませんからね!」

「うっ、嫌なこと思い出させないでよ……」


 三人は楽しそうに笑いあいます。


 ひとしきり笑った後に、リンちゃんがぱんっと手を叩きます。


「さてっと! 魔王退治に行く前に、蒼ちゃんに会わないと」

「ですねえ。魔王の情報も聞かないといけませんし。……えっと。僕らはムラの中にいるんですよね」


 吉人君はキョロキョロとあたりを見渡します。


 彼らが現在いる場所はムラと呼ばれており、魔物たちの襲撃から逃れた子が集まっています。


 劉生君たちはここに来たことがありますが、最初に来た時よりもテントの数が多くなっていますし、花もたくさん生えていました。フィッシュアイランドにいた子が植えてくれたのでしょう。とてもきれいです。学校で植物委員会をしている劉生君は、思わずニコニコほほ笑みます。


「わあ、綺麗だなあ。何の花だろ。ちょっと見てくるね」


 劉生君はてこてこ走り出します。リンちゃんもついつい緊張をほどきます。


「なんか、魔王に戦うって感じしないわねえ」

「……」


 しかし、吉人君は返事をしてくれず、じっと空を見つめていました。


「……どうしたのよ?」

「道ノ崎さん。見てみてください。空の五角形を」

「五角形? ……あれ?」


 リンちゃんはビックリしました。


「五角形じゃなくなってる!」


 ミラクルランドの空には、平面の五角形が浮いていました。それはリンちゃんも覚えています。


 しかし、今、リンちゃんと吉人君の上空にあったのは、五角形ではありませんでした。五角形のうち、一つの角とそこから引かれる線がなくなっていたのです。


 その代わりに、角があった場所に星のような青い点がキラキラと瞬いていました。


「これは……。どういうことなんだろう?」


 ごくりと生唾を呑み込みます。


 ミラクルランドでは、黄色の五角形は魔神の印となっています。前に橙花ちゃんはこう言いました。空に浮かぶ黄色の五角形は、ミラクルランドが魔神の領域内にある証なのだと。


 それが崩れたということは、……悪い予兆でしょうか。二人に緊張が走りました。そんなときです。


「あれ? リンちゃんと吉人君! 来てくれたんだね!」


 のほほんとしながら、一人の女の子がこちらに来てくれました。

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