表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
1章 ミラクルランドへようこそ!
5/297

4 やるせない思いと、不気味な影?

 目的のエレベーターはすぐに見つかりました。あまり使われている様子はなく、ぼろくて古くさそうです。


 あまりに古びていましたので、劉生君は乗りたくないな、と思ってしまいました。だからといって階段を上るのも一苦労です。怖い気持ちをぐっと抑え、エレベーターに乗りました。


 エレベーターの中は予想通り古臭い作りでした。カビっぽい匂いと古くなった油の匂いがプンプンしています。エレベーターの中は狭いので、匂いがこもってしまって仕方ありません。


 リンちゃんは鼻をつまんで文句を言います。


「嫌な臭いね。耐えきれないわ。それに狭いっ!」


 さすがに吉人君も肩をすくねて頷きます。


「確かに狭いですね。これだと、双子ちゃん用のベビーカーも入れません。これぞ、不完全なバリアフリーでしょうか」

「さっさと上に行きましょう」


 リンちゃんは矢印ボタンを押して、閉じるマークがついたボタンを連打します。「そんなことしても閉まるスピードは変わりませんよ」と吉人君は笑います。

 劉生君もつられて笑っていると、


 ガタガタガタッ!


「ひ、ひいっ!」


 突然の爆音に、劉生君はひっくり返ってしまいます。

 ですけど特に変なことは起きていません。ただただ、騒がしい音を立ててエレベーターの扉が閉まっただけです。


「もうっ! リューリュー! 驚かさないでよ!」

「ご、ごめん、リンちゃん。びっくりしちゃって……わわわっ!?」


 ガガガガガッ!


 またもや鳴り響く爆音と、宙に浮かぶ感覚に劉生君は悲鳴を上げてしまいます。

 

「こ、今度は何!?」

「驚きすぎですよ。エレベーターが動いただけです」

「あっ、そっか……」


 これには劉生君も顔が真っ赤になってしまいました。


 吉人君とリンちゃんはコロコロと笑います。


「リューリューったら。怖がりさんなんだから」

「エレベーターより赤野君の声に驚きましたよ」

「うう、ごめん」


 ちなみにリンちゃんも吉人君も、劉生君をからかっているつもりはありません。いつものことだと笑っているだけです。


 ですけど劉生君は恥ずかしくて恥ずかしくて、二人の笑っている顔が見たくなかったので、横を向きました。


 これは失敗でした。劉生君が目を向けた先にあったのは大きな鏡だったからです。二人の顔がばっちり映っていますし、何なら自分のみじめな顔も映っています。


 彼は自分のみっともない顔をみて落ち込んでしまいます。しまいには涙が出そうになりました。


 そんなとき、エレベーターの中の光が一瞬暗くなりました。


「わあっ!」


 劉生君は叫ぶと、リンちゃんは呆れたように言いました。


「だから、驚きすぎだって。電球が切れかかっているだけよ」

「ち、ち、ち、違うんだよ。そうじゃなくて」


 劉生君は尻餅をついて、ぷるぷる震えながら鏡を指さします。


「か、か、か、鏡の中に、誰か知らない人がっ!」

「知らない人? 気のせいじゃないの?」

「常識的に考えて、目の錯覚か光の屈折ですね」


 そう言いながら二人は鏡を見ようとしました。


 ですけど、できませんでした。


 鏡を見るよりも、もっと大変なことがエレベーターの中で起こったのです。

 

「わあっ!」

「な、な、な!?」

「わああああ!!?? ゆ、ゆ、揺れてる!??」


 エレベーターがぐらんぐらんと上下左右に揺れ始めました。巨人がエレベーターを持って振り回しているようなひどい揺れです。

 電球は点滅を繰り返し、階数ボタンにいたってはまばゆい光を放っています。


 絶叫と悲鳴が反響する中、劉生君は恐怖のあまり目をぎゅっと閉じていました。


 助けてお母さん。助けて、お父さん……!


『……ふっ』

「え!?」


 不気味な笑みに驚いて目を開けると、鏡の中に人影が映っていました。影とはいっても、真っ黒な色をしていません。赤と黒の絵具をかき混ぜた色をしています。


 影は口のような窪みを緩ませて笑います。ですけど人影の笑い方は楽しくはなさそうで、とても、とっても寂しそうなでした。


 奇妙な人影の笑い方にぽかんとしていると、人影は鋭い目つきで劉生君を射抜きました。あまりにも鋭くて、劉生君は固まってしまいます。そんな彼に、人影は手を伸ばします。


「ひいっ!」


 赤黒い腕は鏡からするりと出てきたのです。ぬちゃり、ぬちゃりと歪な音をたてて、劉生君の方に伸びてきました。


 逃げなくては。


 劉生君は必死に後ろに下がろうとしました。ですが、まるで金縛りにでもあったかのように彼の体は動きません。


 なんで、どうして。


混乱する彼をあざ笑うかのように影は迫り、そして、


「っ!」


 エレベーターの電球がぴかっと光ると、金縛りが解かれました。


「い、いやっ!」


 彼は咄嗟に左手で腕をはじき返します。


すると腕が霧のように消え、鏡の奥の人影も瞬きの間に消えてしまいました。


「え?」


 あまりの手ごたえのなさに驚く劉生君。呆然と鏡に触れようとした、そのとき。もう一度電球が光りました。今度はさっきよりも断然強い光でした。あまりの強烈な光に視界は白く染まり、悲鳴さえも、音さえものまれていまいました。


 何も見えず、何も聞こえない。

 

 そんな時間がどれくらい経ったのでしょうか。十分とも、一時間とも思える時間が過ぎたのち、エレベーターの中にいた少年たちが目を覚ましました。


「……あ、あれ?」


 リンちゃんはぽかんと口を開けてしまいます。


「あたし達、生きてる……?」


 吉人君も自分の体をみて、ほっと一息つきました。


「よかった、怪我はないみたいです」


 劉生君も目を覚ますと、慌てて鏡を見上げました。ですが、鏡に映っているのは劉生君とリンちゃん、吉人君の三人です。あの影はいません。


 ぼーっとしていると、リンちゃんが驚いた声を上げました。


「あれ? リューリュー、怪我治っているよ!?」

「え? あ、本当だ」


 いつの間にか、膝の擦り傷がきれいさぱりなくなっています。

 これには吉人君もびっくり仰天です。


「ど、どうして、そんな、そんなことって。あ、赤野君。何かしたんですか!?」」

「し、してないよ。本当に! 何もしてないのに治ってたんだ」


 三人は目を合わせて戸惑いました。そんなとき、チンッと、安っぽい音がなりました。


「「「わああっ!?」」」


 なんとエレベーターの扉が開いたのです。


 扉の先は公園ではありません、ましてや三人が最初に乗った公園下の道でもありません。そもそも、風景なんてものがありません。何も書いていない紙のように、真っ白な世界が広がっています。


「「「……」」」

 

 三人は再び顔を見合わせました。


 しばらくの沈黙の後、リンちゃんがぽつりとつぶやきます。


「……あそこから、出てみる?」

「「えっ!?」」


 劉生君と吉人君は顔を真っ青にさせます。


「そ、そ、そそそそれって、大丈夫なの?!」

「そ、そうですよ道ノ崎さん。まずはエレベーターが動くかどうかを確認してからっ!」


 吉人君は必死にエレベーターのボタンを押しましたが、反応はありません。非常用ボタンも押してみても、音の一つもなりません。


「……そうだ、携帯! ああ、圏外……」

「やっぱり、ここ出るしかないわよ」


 リンちゃんは真っ白な外を見つめます。


「……」


 吉人君は苦虫をつぶしたような顔になりました。随分長く考えましたが、諦めたようです。


「……それしかない、ですよね……」

「えっ! ほ、本当に行く!?」

「それしかないわよ。大丈夫、あたしたちもいるから」


 不安そうに二人を見る劉生君ですが、残念ながら二人とも覚悟が決まってしまっています。そうなったら、自分も行かざるを得ません。本当は怖いけど、自分ひとりで残る方がずっと怖いのですから。


「わ、わかった……うん……! み、みんなでさ、いっせーのせっで行こうよ」

「そうね。そうしましょう。さすがリューリュー。ナイスアイディア」


 リンちゃんを中心にして、片手に劉生君、もう片方で吉人君と手をつなぎます。


「よし、準備はいい?」

「……うん」

「……ええ」

「それじゃあ行くわよ」

 

 ほんの少し緊張しながらも、リンちゃんはぎゅっと手を握ります。


「いっせーの、」

「「せっ!!!」」


 三人は、一歩、白の世界に足を踏み入れました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ