表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
3章 君のことを知りたいんだ! 食べ物いっぱいの国、マーマル王国!
49/297

1 暑い日の遊び場は、異世界がオススメです


 十月はあっという間に過ぎ去り、気づけば十一月のはじめになっていました。さすがにそろそろ寒くなってきて、紅葉やイチョウが綺麗に色づいています。


 しかし、なんと今日は季節外れの暑さ。先日は寒かったというのに、歩いているだけで汗がだらだらと垂れていきます。


 小学校のグラウンドでしゃがみこむ赤野劉生君も、暑くて暑くて堪りませんでした。


「あつい……。あつい……。このままじゃ枯れちゃうよ……」


 うなされたように呟くと、横にいた女の子は呆れたように肩をすくめます。


「本当の夏はもっと暑かったじゃないの」

「……けど暑い……」

「どうしても暑いってなら、水道の水を頭からかぶってきなさいな。気持ちいわよ!」


 女の子は、豪快に笑います。


 彼女の名前は道ノ崎リンちゃん。とても活発な女の子で、運動神経は抜群です。


「え、水道の水をかぶるの? 体操着濡れちゃうよ……」

「動いてればすぐ乾くわよ」

「けど……」

「あら、そうなの? ふうん、でもさ、リューリュー。『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の運動会シーンで、蒼井陽さんが頭から水かぶってなかった?」


劉生君の表情が豹変します。


「……確かに、第百五回放送、『運動会を制する者は、地球も制す!』の中盤シーンで、そういう描写がされていた……!」

「……そこまでは覚えてなかったわ。っていうか、そんなにやってるのね、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』」


 リンちゃんのつぶやきも、今の彼には届きません。


「そうだった、僕はなんてうかつなことをしちゃったんだ! 僕の夢は、『ドラゴンファイブ』の蒼井陽さんみたいな、かっこよくて優しいヒーローになることだもん! ようし、それじゃあ、水かぶってくるよ!!!」


 彼は迷いなく水道の方に走っていきました。


 その後ろ姿を、リンちゃんは苦笑しながら眺めます。


「ほんと、自分が好きなことには一直線なんだから」


 これは、劉生君最大の欠点です。劉生君は自分が好きなことと、自分が正しいと思ったことには真っすぐな男の子なのです。


 それって欠点なのか? と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。確かに、自分の好きなこと・正しいことに真っすぐなところは長所でもあります。


 ですが彼の場合、他人の迷惑を一切考えず、周りを巻き込みながら突き進んでしまうのです。


 もちろん、良い方面に進むときもありますが、自分勝手としか言いようがない振る舞いをすることも多々あります。幼なじみのリンちゃんからすると、悪い方向に行ってしまうケースの方が多く見受けられるので、『リューリューの真っすぐな性格は悪いところだよねえ』と思っています。


 今だって、全身水びだしになって、先生に激怒されても、「これは僕の夢に近づく第一歩なんです!」と熱弁しています。


「あちゃー。やっちゃった。あれじゃ持久走の練習時間が短くなっちゃうわ」


 リンちゃんが自分の言動を反省していると、ある男の子がリンちゃんの隣に来ました。


「全く、その通りですよ、道ノ崎さん。『ドラゴンファイブ』モードになった赤野君は頑固ですからね。授業時間が相当潰れますよ」


 ため息交じりで苦情をいう彼は、鐘沢吉人君です。リンちゃんと劉生君のように幼馴染同士ではありませんが、二人とよく遊んでいます。


 彼はとても頭が良く、中学受験を視野に入れて沢山お勉強をしています。勉強のし過ぎか家系かは定かではありませんが、目が悪く、いつも眼鏡をかけています。


 吉人君は眼鏡をくいっと上げます。


「待っている時間も惜しいので、ここで、クイズをしましょうか」

「出たわね、ヨッシーの恒例の挨拶、その名も地獄のクイズ勝負! さあ、かかってきなさい!」

「分かりました。では問題です。この地図記号は、何を示しているでしょうか」


 吉人君はグラウンドの上に〇の字を描きました。そして、丸の中に、×を描き加えます。


「なにこれ。盾っぽくてかっこいいわね」

「さすが道ノ崎さん、鋭いですね。そんな道ノ崎さんのために、特大ヒントをあげます。実は、中のバッテンは意味があるバッテンなのです。盾ではありませんが、また別の武器を現しています。さあ、なんでしょうか」


 リンちゃんはしばらく悩んでいましたが、思いついたのでしょう。はっと顔を上げました。


「分かったわ。これは怒ってる人の顔ね!」

「上のVが目で、下の逆Vが口ですか。そう言われてみるとそんな気がしてきました」

「やった! 正解ね!」

「いや、正解ではありませんよ……。答えは警察署です」

「おしい!」

「惜しくもありませんって」


 ちなみに、中のバッテンは警棒を交差した形を表しています。ただのバッテンだけですと、警察署ではなく交番の地図記号になってしまいますので、注意して覚えましょう。

 

 吉人君のクイズが終わると同時に、劉生君が涙目で帰ってきました。ついでにちょっぴりオコな先生もドスドス足音を鳴らして戻ってきましたので、みんなは列を整えて並びます。


 そこからは怒涛の持久走大会の練習です。いつもより気合が入っています。


 終わるころには、みんなへとへとになってしまいました。


「うー、疲れた……。あの鬼女、張り切りすぎよ」リンちゃんがぶつくさ文句を言います。


「まあ、仕方ありませんよ。あの先生は持久走大好きですからね」吉人君がフォローします。


「……あちゅい……」あちゅいしか呟かないロボットこと劉生君は、あちゅいと呟きます。


 あまりにあちゅいあちゅい言いまくるので、姉御肌リンちゃんは段々心配になってきました。


「大丈夫? もしかして熱中症? 保健室いく?」

「……あちゅい……」

「う、うーん。ヨッシーごめん。保健室に連れていくわ。それと、放課後のあれも中止にしよっか」


 熱中症になってしまったのならば、無理をしてはいけません。そう心配しての発言だったのですが、劉生君は目を見開き、ぶんぶん首を横に振ります。


「そこまでしなくても大丈夫! さっきお水たくさん飲んだから!」

「ほんと? 頭ぼーっとしてない?」

「してない! してないよ!」


 リンちゃんはなおも疑わしそうに劉生君の体をペタペタ触ります。


「うーん、まあ、熱はないみたいね。具合が悪くなったらすぐに保健室にいきなさいよ」

「うん! 分かったよ! だから、今日の放課後はミラクルランドに行こうね!」

「どんだけミラクルランドに行きたいのよ」


 リンちゃんも吉人君も苦笑いを浮かべます。


「ですねえ。今日の朝から『ミラクルランド行こうね!』と言い続けていましたし」

「うっ、だって……。久々だし……」


 吉人君の家庭教師つき授業やリンちゃんの家庭の事情などなどで、みんなの予定がうまく合わなかったのです。


 今日の放課後に三人で遊びにいくのも、一週間ぶりになってしまいました。


 ですので、劉生君は今日の放課後を待ち遠しにしていました。


 授業中もそわそわして先生から注意され、休み時間でも放課後のことについて話しまくり、リンちゃんたちに呆れられました。


 今日の授業が終わるチャイムがなると、劉生君は荷物を瞬時にまとめてリンちゃんと吉人君のもとに行きました。


「行こ! ミラクルランドに!」

「リューリュー、気が早いわよ」「よっぽど待ち通しにしていたんですね」


 二人に笑われてしまいましたが、それでも劉生君のそわそわは止まりません。


「だって、僕らじゃなきゃ魔王も倒せないんだよ! だから、早くいこ!」

「はいはい」「分かりましたよ」


 彼らの会話は、はたから聞いていると、ミラクルランドが舞台のゲームに熱中しているとしか聞こえないでしょう。


 実際、劉生君たちのクラスメイトたちはそう信じて疑いませんでした。


 しかし、劉生君たちが向かう先は、誰かの部屋ではありません。


 公園に設置されてある、小さなオンボロエレベーターです。


 劉生君たち三人はエレベーターに乗り込むと、迷いなく階数ボタンを押しました。


 エレベーターの扉が閉まると、徐々に上へと上がっていきます。ですが、二階に上がるわけではありません。エレベーターが震え、扉についている窓は真っ白な光を放ちます。


 非現実的な光景ですが、劉生君たちは驚きもしません。


 揺れが収まると、チンッと軽い音が鳴り、エレベーターの扉が開きます。


 エレベーターの外から見える世界は、ちりひとつもない、不気味なほどに真っ白な空間です。


「それじゃ、あたしいっちばーん!」


 リンちゃんは恐れもせず、駆け足で飛び込みます。


「では、僕は二番ですね」


 吉人君も早々とリンちゃんの後についていきます。


「わわっ、ちょ、僕一人にしないでよっ!」


 劉生君は急いで二人の後を追おうとして、はたと、足を止めます。


「……」


 彼はちらりと後ろを振り向きます。


 そこには、大きな姿見があります。丁寧に拭いていないのでしょう、それなりに汚れています。


 鏡に映っているのは、もちろん劉生君一人だけです。


「……やっぱり、気のせいだったのかな? うん、そうだよね。だって、僕よりも身長が大きくて、赤黒い影が鏡に映るなんてこと、ありえないもんね」


 劉生君は自己完結をして、白の空間に足を踏み入れました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ