26 リンちゃんのお家に、お邪魔します! 温かいご飯は、心もポカポカになるね!
「お邪魔しまーす! リンちゃん、入るね」
リンちゃんのお家は六人家族で暮らしています。二つあるお部屋のうちの片っぽがリンちゃんと双子ちゃんの部屋、もう片っぽが弟君と赤ちゃん、リンちゃんのお母さんの部屋です。
お母さんの方の部屋で、リンちゃんは赤ちゃんを宥めていました。
「ごめんねー。びっくりさせちゃったねえ。よしよし。……ああ、リューリュー。あの子たちは?」
「うちでご飯食べてると思うよ!」
「……やっぱりかー」
リンちゃんは頭を抱えます。
「リンちゃんと赤ちゃんもおいでっていってたよ! 行こう!」
「あたしはいいよ。この子にご飯あげなくちゃいけないし。最近、食べ遊びしはじめたから、さすがにうちで食べさせたいし」
「でも、赤ちゃん寝ちゃったよ」
「え!?」
さっきまであんなに泣いていたというのに、赤ちゃん目を閉じて寝ていました。
「あー、寝ちゃったかあー。こうなると起きないのよねえ……」
「すごい寝つきいいもんねえ」
「そうそう。前にママが、『この子、眠り病にかかったんじゃないの?』って心配するくらいなんだから」
がっくりと肩を下すリンちゃん。フォローを入れたい気持ちになりますが、それよりも、話さなくてはならないことを切り出します。
「……その眠り病のことなんだけどさ」
ついつい声を潜めてリンちゃんに友之助君の件を話しました。全て話し終えると、リンちゃんは戸惑ってしまいました。
「友之助君が眠り病? 一か月前に? けど、ミラクルランドでは元気そうだったわよ。リューリューの見間違いじゃない?」
「本当の本当に友之助君だったよ。だからさ、うちでテレビみてこようよ。ごはんも食べたいし! 赤ちゃんはうちのお布団に寝かせてあげてさ」
リンちゃんの顔が曇ります。
「さすがに迷惑よ」
「迷惑なんかじゃないよ!」
「……何度も言うようだけどね、おばさんはリューリューのお母さんであって、あたしのお母さんじゃないの。どれだけ優しくしてくれても他人の子供なんだよ。そんなのが押しかけてきても、迷惑でしかないでしょ。お金も一円も渡せてないし」
「えー。でも……」
「でも、じゃないの。本当はあの子たちも引き上げたいくらいなんだから……」
リンちゃんは断る気満々です。もし、これが吉人君なら、リンちゃんの気持ちを読み取って、「それじゃあ止めておきましょう」といえるのでしょう。
ですが、劉生君はちょっぴり自分本位な男の子でしたので、彼女の気持ちを思いやることはせず、ニコッと笑って手を差し伸べました。
「いこっ!」
「……いや、だから、あたしは」
「でも、お腹ペコペコになっちゃうよ! ほら、いこいこ!!」
「……」
こうなると、劉生君は絶対に譲りません。
リンちゃんだってそのことくらい分かっていました。
「……はあ。全く、リューリューったら。ほんと、自分勝手なんだから」
「えっ? そ、そうなの」
「そうよそうよ。人の気持ちってもんを考えてないよね」
「ご、ごめん……。とりあえず、僕んちにいこうか」
「そういうところよ」
「え!?」
そう言いながらも、リンちゃんの顔は綻んでいます。
「……そうね。あの子たちが食べ過ぎないように見張らなくちゃいけないし。一度行くわ」
「うん! ハンバーグ、半分分けてあげるからね」
「それはリューリューが食べなさい」
軽く支度をして、リンちゃんは劉生君ちに行きました。
入ってすぐ、リンちゃんはぺこぺこと劉生君のお母さんに頭を下げます。
「おばさん、ごめんなさい。急に来ちゃって」
「いいのよ。実はねえ、牛乳やら水やら足してたら量増えちゃって、どうしようって思ってたところだったのよ。逆に助かるわ。それよりもあなたたち、ちゃんと手洗いうがいしなさいよ! ……この距離で手洗いうがいって必要なのかしら? まあ、して損はない! 手洗いうがいしてきなさいよ」
「ごめんなさい、お借りします」
リンちゃんは洗面所に入っていきます。
劉生君のお母さんは優しいまなざしでリンちゃんを眺めます。
「ほんと、いい子よねえ。劉生もあれくらい気遣いできるようになりなさいよ」
「はーい! それじゃあご飯食べてく」
「手洗いうがい!」
「……はーい」
しっかりと手洗いうがいをして、食卓につきます。リンちゃんの妹弟たちはもうご飯をむしゃむしゃ食べています。さすがリンちゃんの妹弟だけあって、いっぱい食べています。
「もぐもぐもぐ。おいしい! おかわり!」
「だから、遠慮というものを……」
リンちゃんが慌てて注意しますが、劉生君お母さんは「いいのよいいのよ! リンちゃんもたくさんお食べ!」とニコニコしています。
ちなみに、劉生君お母さんは本心で「たくさん食べてほしいなあ」と思っていますし、本心でリンちゃんたち姉弟を歓迎しています。
お母さんもリンちゃんのお家の境遇を分かっていますし、自分が節約してでも、リンちゃんたちに笑っていてほしいなあ、と思っているのです。
劉生君の優しい性格は、お母さん譲りなのです。
スマホをいじる時間と、ゲームをする時間の制限、門限と手洗いうがいさえ守れば、とても優しいお母さんなのです。
それでもリンちゃんは気が引けるのか、身を縮めてご飯を食べています。給食の時間にはたくさんおかわりするのに、今回は一度もおかわりしません。
たくさん食べればいいのになあ、なんて思っていたら、テレビのニュースで先ほどと同じ映像が流れました。
劉生君はちょいちょいっとリンちゃんの肩を叩きます。
「ほら、あれだよあれ」
「……あっ、本当だっ!」
リンちゃんは息をのみます。正真正銘、友之助君だと分かったのでしょう。
「どういうことよ」
「僕にもどうしてだか分からないよ。どうしよう。吉人君に電話して聞いて見よっか?」
「うーん。この時間は勉強してるんじゃなかった? 確かヨッシーのお家って九時にご飯たべるみたいだし」
「へえ、そんなに遅いんだ!」
「どちらかというとリューリューんちがすさまじく早いだけよ」
とりあえず明日、学校で聞いてみることにして、ひとまず二人はごはんを食べることとしました。
ちなみに劉生君のハンバーグは、弟君たちに食べられてしまっていました……。