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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
2章 みんなで協力しよう! 水中の遊園地、フィッシュアイランド!
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24 勇者の帰宅! ちょっとした謎を、そっと残して

「……せいくん。劉生く……。劉生君っ!」

「んっ、」


 目を覚ますと、そこには心配そうに覗き込むみんなの姿がいました。


「リューリュー!」


 リンちゃんは劉生君に抱き着きます。


「よかった、よかった、気が付いてくれた!」

「全く、焦らせないでくださいよっ」


 リンちゃんも吉人君も涙声です。


「あれ? ここは……?」


 周りには観覧車やジェットコースターが建っています。どうやら遊園地まで上がってきたようです。


 ぐずぐずと鼻を鳴らす二人に代わって、橙花ちゃんが話してくれます。


「ボクらの魔力では劉生君を治せなかったから、回復薬を探しに上に戻ってきたんだ。途中で目を覚ましてくれてよかったよ。魔王が倒れてくれたおかげか、魔物たちもどこかに行ってしまったから、襲われる心配もないし。……それにしても、魔王め。守ってあげた劉生君に攻撃なんて、ひどい真似を……」


 橙花ちゃんはカンカンに怒っています。過去の世界でみたような、気弱な女の子の姿はどこにもありません。


「……あのさ、橙花ちゃん。実は、」


 劉生君が過去の世界の話をしようとしましたが、その前に、誰かが走ってきました。


「蒼っ! 蒼!!」

「……友之助君?」


 彼はぜいぜいと息を吐いて、橙花ちゃんを見上げます。


「よかった、無事だったんだな! ってあれ? リンと吉人と、それに劉生もいるな」


 友之助君は驚いたように目をぱちくりさせます。


「もしかして、お前らも捕まっちまったのか?」

「しょ、友之助君」


 リンちゃんはこわごわと彼に聞きます。


「あたしたちのこと、分かるの?」

「? 分かるに決まってるだろ」


 吉人君がほっと息をつきます。


「よかった、記憶が戻ったんですね!」

「記憶? ……もしかして、俺、お前らのことを忘れたのかっ」


 友之助君は血相を変えます。


「っていうことは、俺は魔王に負けてフィッシュアイランドに捕まってたのかっ!」


 橙花ちゃんは頷きます。


「うん。ボクらのムラが魔王に襲われたとき、友之助君たちはやられてしまって、魔王に誘拐されてしまったんだ」

「そう、だったのか」

「……ごめん、友之助君」


 彼女は視線をそらします。


「ボクがもっと強かったら、友之助君も守れたのに。ボクのせいで……」

「そんなんじゃないよ!」


 友之助君はぶんぶんと首を横に振ります。


「俺が、もっと強ければ、こんなことにはならなかったんだ。蒼ばっかが頑張って、蒼ばっかが傷ついて……。そんなの、もう嫌なんだ。同じムラの友達なのに、蒼がつらい目にあうのはもう嫌なんだっ!」

「……」


 橙花ちゃんは友之助君の両手をそっと握ります。


「ごめん、友之助君。みんなを守ることばっかに気をとられて、君の気持ちに気づけなかった。いや、もしかしたら、気づいていても無視をしていたのかもしれないね。友之助君も、みんなも、ボクが守らなくちゃいけないって、勝手な使命感を持っていたんだから」


 彼女はふんわりと微笑みます。


「けど、劉生君たちが気付かせてくれた。みんなで力を合わせれば、どんな敵でも勝てるってことを。だから、これからは友之助君も力を貸してほしい。みんなでボクたちのミラクルランドを守っていこう?」


 友之助君は、ぽっと顔を赤らめます。 


「……お、おう。そう、だな。うん……」


 吉人君は二人をチラチラ見て、驚きます。


「おや、なるほど。お二人ってそういう感じだったんですね。へえ、はあ、なるほど。ほおほお」

「……? ヨッシー、そういう感じって、どういうことよ」

「そういう感じはそういう感じですよ」

「???」


 リンちゃんは首を傾げています。当然のことながら、劉生君も首を傾げていますし、橙花ちゃんもいまいち意味は分かっていません。


 ただ一人、友之助君だけは顔を真っ赤にさせて怒りました。


「ち、ちげーよ! そういうのじゃねえよ!」

「またまたぁ、照れないでくださいよ。応援してますから」

「だからちげーよ!!」


 橙花ちゃんが慌てて二人の間に入ります。


「よく分からないけど、喧嘩はよしなって」

「……ううー……!」


 友之助君は地団駄を踏みます。こうしてみると、友之助君もなんやかんやいって小学生っぽいなあ、と吉人君は思いました。


 そうこうしていると、他の子どもたちも橙花ちゃんの元に駆け寄ってきました。みんな、橙花ちゃんとの出会いに喜んでいます。


「蒼ちゃん! うわーんっ! 蒼ちゃん!」

「よしよし。怪我してない?」

「してないよっ」


 女の子がぎゅっと橙花ちゃんに抱き着きます。


「うん、うん。よかったよかった」


 橙花ちゃんは嬉しそうに頭を撫でます。一人ひとりの子に声をかけて、笑いあって、時には慰めています。全員とあいさつし終わると、ようやく橙花ちゃんは劉生君たちの元に戻ってきました。


「ごめん、待たせたね」


 リンちゃんと吉人君はニコニコ微笑みながら首を横に振ります。


「別にいいわよ。久々の再会だったんでしょ?」

「むしろ、もっと長くお話しされても構いませんよ」

「ふふっ、ありがとう。でもその前に、ちょっと友之助君に確認したことがあるんだ」


 橙花ちゃんは険しい表情になります。


「ねえ、友之助君。君と一緒に囚われた子たちって、フィッシュアイランド以外の場所に運ばれたの?」

「え? いや、そんなはずは……」


 友之助君は子供たちを見渡します。そして、顔を青ざめます。


「ほ、本当だ。何人かいない……。ちょっと待ってくれ。他の子に聞いてみる。おーいみんなっ!」


 子供たちを集めると、誰々がどこに行ったか知っているか、とみんなに聞きました。すると、一人の子が「私、知ってるよ!」と声を上げます。


「あのね、魚の魔物さんに連れてかれてるときに、ライオンの魔物さんが来たの。その魔物さんが、その子たちを連れて行っちゃんだ」


 橙花ちゃんは眉間にしわをよせます。


「ライオンの魔物……。まさか、マーマル王国の魔王リオンか」

「魔王、リオン……?」


 吉人君が呟くと、橙花ちゃんはこくりと頷きます。


「ああ。お菓子の城、マーマル城を拠点にしている魔王だよ。だけど、あいつは魔王ギョエイみたいに甘くはない。子供相手に一切の容赦をせず、多少のズルもいとわない魔王だ。そっか、あそこに運ばれてしまったか……」


 橙花ちゃんは不安そうです。それほどまでに、魔王リオンは曲者なのでしょう。


 そんな橙花ちゃんを元気つけようと、リンちゃんはニッと白い歯を見せます。


「それじゃあ、次の敵は魔王リオンってやつね。ようし、リューリュー、ヨッシー! 頑張るわよ!」

「ええ! 頑張りましょう!」「うん! あっ、でも、もう帰る時間かな」


 劉生君が首を傾げると、橙花ちゃんが思い出したようにハッとしました。


「そうだったね。友之助君はちょっと待っててね。劉生君たちはこっちへ」


 橙花ちゃんは劉生君たちをつれて、遊園地の入り口にある噴水まで来ました。


「よし、これにしようか。道よ、開いてね」


 彼女がこんこんっと杖で噴水を叩くと、低い音とともに噴水から何かが出てきました。


 そう、劉生君たちが元の世界に帰るためのエレベーターです。

 噴水の水も引いてくれましたので、エレベーターまで濡れずに行けそうです。


 三人は橙花ちゃんにお礼をいい、エレベーターに乗り込みます。


「次にミラクルランドに来るときは、ボクたちのムラに来れるようにしておくよ。それじゃあ、またね」

「「「またねー!」」」


 エレベーターの階数ボタンを押すと、ミラクルランドから元の世界へとエレベーターが進んでいきます。


 リンちゃんは大きく伸びをして、エレベーターに座り込みます。


「あー、疲れた。体がボロボロ……。家帰ったら、うちのチビのために料理作らなくちゃいけないのに、体力が持たないわー」


 吉人君も神妙に頷きます。


「これから勉強しなくてはなりませんねぇ。疲れました」


 一方の劉生君はニコニコします。


「僕も疲れたけど、なんか、心がポカポカするよね。やってやったぞーっ! みたいな気持ち」

「リューリューの言う通りね。いいことしたなって感じするわ」

「それは達成感という感情だと思いますよ。僕も同じ気分です」


 三人ともたしかに疲れ切ってはいました。それはそうでしょう。魔王とあんな乱闘をした後です。

 ですが、それ以上に、満ち足りた気持ちになっていました。


 リンちゃんはぴょんと立ち上がります。


「よし、あと魔王は四体だよね? そいつらもパパーッと倒して、子どもたちもババーッと救ってあげちゃいましょ!」

「おー!」


 リンちゃんと劉生君は元気よく掛け声を上げます。しかし、吉人君は乗ってきません。リンちゃんは吉人君をつんつん突きます。


「ちょっと、ヨッシー。一緒に掛け声しようよ」

「え? ああ。ごめんなさい。少し考え事をしていました」


 吉人君は顎に手を当てて何か考えているようでした。


「どうかしたの? 何か心配事?」

「心配事なんて大層なものではありませんが……。ほら、魔王ギョエイが赤野君を騙し打ちする前、魔王に質問してたではないですか。どうして子供たちを遊園地に閉じ込めるのか、と」

「……そうだったっけ?」


 リンちゃんはきょとんとしています。劉生君が倒れてしまったことがあまりに衝撃でしたので、前後の記憶をすっかり抜けていました。


 吉人君もそれくらいの事情は分かりますので、特にからかうこともなく頷きます。


「ええ。そのときの回答を得られなかったな、と思いまして。どうして魔王ギョエイ含む魔王軍は子供たちを閉じ込めておくんでしょうか」


 劉生君も、吉人君のように疑問に思ったのでしょう。首を傾げます。


「うーん、そうだね。どうしてだろ……。子どもの精神エネルギーを吸い取って世界を乗っ取ろうとしている、とかかな」

「それってもしかして、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のネタ?」リンちゃんが呆れたように尋ねると、劉生君はプンプン怒ります。


「違うよ! 『紳士ヒーロー ジェントルマン=ハンドレッド』だよ!」

「なにそれ!?」


 説明しよう! 『紳士ヒーロー ジェントルマン=ハンドレッド』とは、『ドラゴンファイブ』が始まる前に放送していた、ヒーローものなのであるっ! 

 

 百人のヒーロー敵と戦うという、非常に攻めた内容で巷の話題になった作品だ!


 しかし! 『百は英語でワン・ハンドレッドじゃなかった?』という保護者のクレームが殺到したことにより、放送が取りやめになってしまったのだ!


「それでね、命が尽きるその寸前に、主人公はこういうんだ! 『百人の想いを、俺が一人で背負って見せる』ってね!」

「結局最後は一人になるんじゃないの」

「『瀕死ヒーロー ロンリージェントルマン』ですね。……その話は置いておいて、魔王の話に戻りましょう。赤野君の言葉通りかもしれませんが、それにしてはみんな元気そうですし……」


 リンちゃんも唸り声を上げます。


「うーん。なんだろうねえ。どうせろくな考えじゃないんでしょうけど」


 話し合っているうちに、チンッと軽い音がなりました。


 現実世界に到着したのです。

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