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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
2章 みんなで協力しよう! 水中の遊園地、フィッシュアイランド!
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22 勝利! やったね! 万々歳!―「油断大敵」って言葉、知っていますか?―

 魔王は地へと落ちます。わずかに身をうごかしますが、そのまま浮かび上がることなく、地面に伏せます。


「……やった」


 劉生君は歓声を上げました。


「やった!! 魔王を、魔王を倒したんだ!」

「やり、ましたね、赤野君」


 吉人君は棒付きキャンディーを杖代わりにして、笑みを漏らしました。


「あたしたちの作戦通りってことかしら」


 リンちゃんも膝をついて、なんとか起き上がりました。そしてそのまま橙花ちゃんによろよろと近寄ります。


「動かないでね、蒼ちゃん。<リンちゃんの ビリビリサンダーパンチ>!」


 拳に電気をまとい、橙花ちゃんを拘束する海藻を慎重に切り裂きます。


「……よし。蒼ちゃん、痛くない? ……わけないよね」


 体中がボロボロで、起き上がることさえやっとの様子です。思わずリンちゃんは視線をそらします。


「ごめん、あたしが魔王に捕まっちゃったせいで……」


 後悔に苛まれるリンちゃんでしたが、橙花ちゃんはふんわりと微笑みます。


「痛いけど、それよりもボクは嬉しいよ。みんなのおかげで、あの魔王相手に勝てたんだから。これで、あの子たちを解放できる。よかった、よかった……」


 橙花ちゃんの瞳から、涙が一筋流れ落ちます。


「……蒼ちゃん……」


 リンちゃんもついついもらい泣きしそうになります。慌てて目をごしごしとこすって誤魔化そうとします。


「あ、当たり前じゃない! あたしたちが力を合わせれば、魔王を倒すなんて朝飯前よ!」

『……そんな言われ方をされると、ボクが弱いみたいじゃないか』


 すねたような声が響きました。


 魔王がわずかに顔を上げて、恨めしそうにこちらを見ていたのです。


 一番近くにいた劉生君は慌てて剣を構えます。


「な、なに!? ま、まだ動けるの!?」


 もう劉生君たちに戦える力は残っていません。恐怖でがくぶるしていましたが、魔王はフッと寂しそうに笑います。


『いや、ボクはもう戦えない。体も、消えかかっているしね』

「あっ、本当だ……」


 魔王の体からはきらきらとしたちりが立ち上っています。それと同時に、身体も徐々に半透明になっていっています。


『時計塔ノ君とは何度も戦ったことがあるけど、ここまでやられたのは初めてだね。さすが、あっぱれだね』


 その言葉からは、怒りや憎悪といった感情がありません。諦めと、悲しさとがいりまじっています。


『ボクが消えたら、子どもたちをここに留めていられなくなる。……本当に、残念だ』

「何が残念よ」


 リンちゃんが威勢よく噛みつきます。


「無理矢理、こんな場所に子どもを押し込めてからに。っていうか、あんた、こんなとこに子供を閉じ込めて、一体何が目的だったのよ」

「……確かに、そうですね」


 吉人君が顎に手を当てます。


「遊園地に捕らえるだけで、特に子供たちを攻撃することもないですし。むしろ楽しませようとしている。一体、ここに閉じ込めてなんの利があったんですか?」


 魔王はうつろな目で、天を見上げます。


『……目的。そう、ボクの目的は、君たちを』

「それ以上の無駄話は止めてもらおうか。<ススメ>!」


 橙花ちゃんは石ころを投げつけます。


『っ!』


 魔王の体半分がちりとなって砕けます。


「あと一回で仕留められるね」


 橙花ちゃんが近くにあった石を拾います。


 全身全霊をこめて打ってやろうと構えますが、彼女の前に、劉生君が立ちふさがりました。


「待って橙花ちゃん! なんか可哀そうだよ。やめてあげようよ」

「可哀そう? こいつが君たちに、子どもたちに何をしたか、君は知っているだろう!」


 あんなにボロボロだったというのに、橙花ちゃんの瞳は怒りで溢れています。


 劉生君にも、橙花ちゃんの気持ちは分かっています。


「……でも、」


 確かに、魔王は悪い人なのでしょう。ですが、彼の過激な言葉の中に、時折暖かさを感じていました。


 そもそも、魔王が悪意しかない本当の悪党だとしても、劉生君は橙花ちゃんを止めたでしょう。弱いもの苛めをしているような気分になってしまうからです。


『君は、優しいね』


 魔王は呟きます。暖かさのこもった言葉です。


『……そんな君に、置き土産をあげようか』


 魔王は微笑み、そして、


 鋭い尾で、劉生君を貫きました。


「……え?」


 劉生君のお腹に、尾が突き刺さっていました。


「なっ?! リューリュー!」「赤野君!?」

「魔王っ! きさまあああああ!!!!」


 橙花ちゃんは杖をナイフに持ち替え、魔王に投げつけます。無惨に塵となり、劉生君を貫く尾も消えてなくなります。


 ですが、貫かれた事実はなくなりません。


「あっ……うっ……」


 不思議と痛みは感じません。


 ……もう、感じられなくなってしまっているのでしょう。


「リューリュー、リューリュー! しっかりしてリューリュー!」

「くっ、回復が、回復が追い付きません!」

「劉生君! 劉生君!!」


 みんなの声も、聞こえません。


 そのまま、劉生君の意識は、


 深い闇の中に、落ちていきました。


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