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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
2章 みんなで協力しよう! 水中の遊園地、フィッシュアイランド!
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21 魔王VS橙花ちゃん、ではないのです!

 <リサーキュレーション>の動きが止まります。しかし、それだけではありません。魔術はまるで巻き戻しをするかのように魔王の元に戻っていったのです。


『おっとっと!』


 魔王が慌ててかわします。間一髪、魔王の魔術は彼をかすめて岩にぶつかりました。


 彼女の三つ目の術、<モドレ>。

 文字通り、時を戻す術です。この術は、壊れてしまったものも元に戻すことが出来ますし、魔術だって相手にお返しすることができます。

 

 ですが、杖で触れられる距離にないと使えません。ですので橙花ちゃん自身もあまり使いたがらない技です。


 魔王戦でも一二度しか使ってこなかったので、彼は油断してしまいました。


 その隙を見逃す橙花ちゃんではありません。


 彼女は懐から何かを取り出すと、大声で叫びます。


「<ススメ>!」

 

 次の瞬間、魔王のヒレに何かが貫きました。


『なっ!』

  

 じんわりと痛みが広がり、魔王を苦しめます。石ころによる技ではありません。一体何で襲われたのかと魔王は橙花ちゃんを観察し、息をのみました。


『その銃は、赤野劉生君たちが作ったアトラクションのっ!』

「フルーツ銃だよ」


 彼女はブドウ銃を手に持っていました。


「あのアトラクションの評価が終わった後に、一つ拝借したんだ」

『しかし、ビーム銃ならボクに効かないはずっ』

「普通の遠距離魔法ならね。だけどこの銃は普通の魔法ではない」


 橙花ちゃんは優しい眼差しで劉生君たちを見ます。


「この銃は魔物を倒したいっていう願いがこもった銃だ。劉生君たちだけじゃない、あのアトラクションに参加した子たちの願いがこもっている」

『……なるほど。それを見越して、ああいうアトラクションにしたんだね。見かけによらず、中々の策略家だね』


 表情を歪める魔王ですが、そんな彼の考えを否定するように、橙花ちゃんはくすりと笑います。


「いや、あの子たちはそこまで考えてなかったよ。ただただ、ボクを助けたい、子どもたちを助けたい、魔王や魔物を倒したいって願いを込めて作ったんだ」


 純粋で、危なっかしい、子どもじみた願い事。


 橙花ちゃんはそう思っていました。

 けれど、


「だからこそこんなにすごいものを作り出せたんだ。ボクは、そんな彼らの願いを無駄にはしない。絶対に、ね」

『確かに、君は一人で戦っているわけではないみたいだ』

「そういうこと。時よ、<ススメ>!」


 彼女はレーザー銃を放ち、その上加速魔法をかけます。ただでさえ早いビームは光の速さで魔王を貫きます。


『くっ、<離岸流>!』

「無駄だよ。光は押し流されない!」


 <離岸流>の力はレーザーには効きません。次々と魔王は的の餌食になります。


 襲い掛かるレーザー銃の連撃をもろにうけ、魔王はフラフラと宙を漂います。


「よし、これで止めだ魔王!」


 橙花ちゃんは真っすぐ魔王の心臓部分を狙います。

 そこさえ撃ちぬければ、橙花ちゃんの勝利……いや、橙花ちゃんたちの勝利です。


 ですが、魔王はゆらりと赤い目を灯し、叫びます。


『……そうはさせない。絶対に……! <離岸流>!!!!』

「だから無駄だと、っ!」


 橙花ちゃんは息をのみます。


「なっ、地面がっ!」


 渾身の<離岸流>は、橙花ちゃんではなく、辺りの地面に向かっていきました。そして、爆音とともに地面をめくりあげ、岩たちが宙へと浮かんだのです。


 四方八方の岩は橙花ちゃんを押し潰そうと迫ってきました。


「<トマレ>!!」


 流れを止めようと杖を振ります。なんとか一部の岩は動きを止められましたが、真上から急速におちてくる岩は止められませんでした。


 何重もの<離岸流>で押し流しているのでしょう。一つ一つを止めるのは至難の業です。


「なら、これでっ!」


 橙花ちゃんはギリギリまで粘り、そして、目と鼻の先まで来た岩に杖を向けました。


「<モドレ>!!」


 青い光が岩を包み込みます。岩は一瞬宙に止まります。


「よかった、これでっ……なっ!」


 なんと、岩は猛烈なスピードで下に落ちていくではありませんか。真下にいた橙花ちゃんは抵抗する暇もなく、地面に叩きつけられます。


「がっ……!」


 岩も砕けるほどの威力に、橙花ちゃんは声にならない悲鳴を上げます。


『ハア、ハア……っ。これで、本当に止めだ。<フットエントラップメント>!!』


 足に海藻が絡みつき、強烈な水圧が上から襲い掛かります。


「っ……! あっ……!!」


 体がきしみ、全身が悲鳴を上げます。遠慮なんてない、強烈な一撃です。


 魔王も全力を振り絞ったのでしょう。倒れこみそうになりながらも、橙花ちゃんの側まで泳いできます。


『……ハアッハアッ。油断、したね。あの岩は、君の真下の地面をえぐって、つくったものなんだ。そんなものの時を戻したら、こうなるに、決まっているよ』


 悲鳴さえも上がらなくなってから、ようやく魔王は術を解きます。


『……これで、君も年貢の納め時だ』

「……」


 橙花ちゃんはうつろな目を魔王に向けます。わずかな力も残っていませんが、彼女は手繰り寄せるように地面に落ちた杖をとろうとします。


 しかし、彼女の指が杖に触れる前に、魔王が<離岸流>で杖を吹き飛ばします。


『無駄な抵抗はよしなさい。……さて、最後の締めだ。あの子たちを拘束しようか』


 一応、海藻で橙花ちゃんを縛り上げてから、彼は劉生君たちの方を向きます。


『さて、待たせたね。それじゃあ今から君たちを』

「<マッ=チャー>!」


 突如、葉っぱの嵐が襲いました。視界を埋めるほどの葉っぱの大群に、魔王は少し驚きます。


『おや、鐘沢吉人君ったら、まだ術を使える余裕があったんだね』


 魔王にとっては吉人君の<マッ=チャー>は痛くもかゆくもありません。魔王は葉っぱの隙間に見えた吉人君へ、即座に術を使います。


『<リサーキュレーション>!』

「うわっ!?」


 渦は吉人君に当たり、彼の小さな体と葉っぱを散らします。


「今度はこっちよ!」


 後ろから聞こえてきました。振り返ると、びりびりと体に電流を走らせているリンちゃんがいました。吉人君の<マッ=チャー>に巻き込まれたのでしょう。体の到るところに葉っぱがくっついてしまっていて、かっこいいとは言えない姿でした。


 魔王は哀れんだ目でリンちゃんを見ます。


『時計塔ノ君が倒れてしまって、ヤケでも起こしたのかい? 確かにボクは接近戦が苦手だけど、逆に言うと接近戦への択策は万全なんだよ』


 あともう一歩のところで、魔王は無慈悲に魔法をつぶやきます。


『<フットエントラップメント>!』

「っ!」


 既に地面には炎の壁はなく、リンちゃんの足は海藻に囚われてしまいました。


『さあ、これで、終わりだ!』

「……そう思ったら、大間違いよ」


 リンちゃんは、にやりと笑いました。


 その笑みの真意は、すぐに分かりました。


 リンちゃんの背中には、たくさんの葉っぱがついていました。


 魔王は疑わなかったのです。それが偶然ついてしまったものだと。


 ですが、それが間違いでした。


「今よ! リューリュー!」

『なっ!』


 背中にいたのは、劉生君でした。吉人君の葉っぱで身を隠していたのです。


「いっけえええ!! <リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>!!」


 劉生君に雷をまとわせ、そのまま思いっきり魔王に投げつけました。


「おりゃああああ!!!!」


 彼が手に持つは、赤く燃える『ドラゴンソード』です。


『っ、<離岸流>!!』


 跳ね返そうとする魔王ですが、劉生君のスピードは落ちません。魔王の<離岸流>が負けてしまったのです。


 なにせ、橙花ちゃんとの戦いで、魔王の力は削られに削られていたのですから。


『……まさか、』


 魔王は気が付きました。


『鐘沢吉人君も、道ノ崎リンちゃんも、時計塔ノ君でさえも、おとりだったのかっ』


 そう、全ては、この一振りのための序章。


 そして、これが、最後です。


「『ドラゴンソード』!! いっけええええ!! <ファイアバーニング>うううううう!!!!!」

『<リサーキュレーション>!!!』

「おりゃああああああ!!!」


 燃え盛る炎は渦を切り、そして、


 魔王の体に、その刃を深く差し込みました。


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