19 魔王との再戦!! みんなで力を合わせて!
魔王は海をぼんやりと漂っていました。視界の先には空が映っています。いつもと変わらない、いや、ずっと変われない、日が沈むこともなく、上がることもない、綺麗でいびつな空です。
物思いにふけりながら眺めていると、扉を叩く音がしました。
『……このままどこかへ逃げるかもしれない、って思っていたけど、素直に来てくれたんだね』
魔王が振り返ると、そこには橙花ちゃんたち一行がいました。リンちゃんと吉人君が先頭に立ち、真ん中には劉生君、一番後ろには橙花ちゃんがいます。
リンちゃんは腕を腰にあてて、ニヤリと笑います。
「そりゃあそうよ。なんだって逃げる必要なんてないんだから。そっちこそ逃げなくていいの?」
『ふふっ、道ノ崎リンちゃんはかっこいいね。……さて、ここに来てくれたってことは、準備ができたんだね?』
吉人君は棒付きキャンディーを片手に、口元を緩めます。
「ええ。準備万端です」
劉生君も『ドラゴンソード』をぎゅっと握りしめます。
「僕だって、準備万端だよ!」
『おや? 君たち全員でかかってくるのか? へえ、それは意外だった。時計塔ノ君はそれでいいの?』
橙花ちゃんは迷いなく頷きます。
「もちろん、構わないよ」
「そうそう! あたしたちも一緒に戦うわよ」リンちゃんは声を張り上げます。
「ええ。なんだって、僕たちと蒼さんは友達なのですから」吉人君も自信満々に言いました。
「うん! 一緒に子供たちを助けようって約束してたもん!」劉生君も顔をほころばせます。
『……そっか』
魔王は優しく微笑みます。
『いいねえ、友達かあ。ああ、残念だ。状況が良かったら、君たちの友情に免じて願いをかなえてあげるのに。悪いけどそれはできないんだ。ごめんね』
「別にいいわよ」「頼んでいませんしね」「……僕はそうしてもらえると嬉しいけど」
若干一名弱音を吐いてはいるものの、みんな覚悟を決めて武器を構えます。
『それじゃあ仕方ない。さあ、戦闘を始めようかっ!』
先手必勝といわんばかりに、魔王は力を溜めて叫びます。
『<フットエントラッ』
「させない!」
劉生君が『ドラゴンソード』を地面に刺しました。
「<ファイアウォール>!」
『ドラゴンソード』を中心に炎の壁が地面に広がります。ギョエイが地から伸ばした魔の手は、劉生君の術によって防がれます。
『……なるほど。<フットエントラップメント>を封じたか。けど、これで赤野劉生君は身動きがとれなくなっちゃったね』
それならば、と、魔王は大声で命じました。
『ゆけ魚たち。彼らを攻撃せよ!』
魔王の号令により、なん百匹もの魚が飛び出してきました。
『この前はあっさりやられちゃったけど、赤野劉生君が動けない今、彼らに勝てるかな?』
相当な数の敵ですが、リンちゃんと吉人君は不敵な笑みを漏らしています。
「このくらい余裕よ余裕!」
「ささっと倒してみせましょう。行きますよ道ノ崎さん!」
「えいっさ! いくよ! <リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>!」
雷をまとったボールを、リンちゃんが蹴っ飛ばします。さらに吉人君は杖をふるいます。
「<マッチャ=ラテオーレ>!」
緑の白の力はまじりあい、緑の球が現れます。術が向かう先は魚たちのほうではありません。なんと、リンちゃんの放ったボールへと向かいます。
『何?』
緑の球はふわりと大きくなり、リンちゃんのボールを包み込みました。そのままボールは真っすぐ魚に向かい、爆発します。
直撃した魔物は言わずもがな、きりとなって消えてしまいました。
ですが、それだけではありません。
爆発したボールは、緑の粉をまき散らしたのです。それも、リンちゃんのボールが発した爆風に乗って、魚たちの上に降り注ぎます。
粉に触れるや否や、魚たちの体は痺れ、動かなくなってしまいました。
『……ほう。合体技ってことかな』
「そういうことです」
「もういっちょ! <リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>!」
『さすがに二度もさせないよ。<離岸流>!!』
リンちゃんの技をはじき返そうと、魔王は激しい流れを作り出します。
が、しかし。
「時よ、<トマレ>!」
流れる水は動きを止め、魚たちへの攻撃を防ぐことが出来ませんでした。リンちゃんと吉人君の魔法で、魚たちは無惨にきりへと変わります。
『それなら、<リサーキュレーション>!』
直接リンちゃんたちを攻撃しようとしますが、これも橙花ちゃんに阻まれます。橙花ちゃんはじっと魔王を見つめています。一挙一動を見逃さないと言いたげな、真剣なまなざしです。
魔王は彼女たちの作戦を悟ります。
『攻撃は二人に任せて、君と赤野劉生君でボクの術を無効化しようとしているってわけだね? よく考えたものだよ』
「ふっふーん。どんなもんよ!」
「僕たちの力が合わされば、あなたなんて朝飯前……いや、おやつ前ですよ」
リンちゃんと吉人君は魔王を挑発します。その間もリンちゃんは攻撃を重ねていますし、吉人君に至っては<ギュ=ニュー>を使い劉生君を回復してあげています。
『……これは、ちょっと本気を出さないとまずいかな。全員! 下がって!』
わずかに生き残った魚たちを退避させます。
リンちゃんと吉人君は体勢を立て直し、魔王に対して武器を構えます。
『ここからは、ボクとお手合わせ願おうか』
「よし。いかせてもらうわ!」
リンちゃんはジャンプをすると、大きな声で叫びます。
「<リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>!」
リンちゃんは電気の球を魔王に思いっきり蹴りつけます。しかし、魔王は尻尾でボールをはじき返してしまいます。
「なっ! 撃ち返されちゃった!?」
「それなら今度は僕がっ!」
吉人君は呪文を口ずさみます。
「茶の葉よ、僕に力を! <マッ=チャー>!」
吉人君の周りに葉っぱが浮かび上がります。彼が魔王に杖を向けると、葉は魔王に襲い掛かります。ですが、魔王はヒレで薙ぎ払うと、葉っぱが力なく落ちていくではありませんか。
「え!? どうしてっ!」
『そっか。この情報は時計塔ノ君も知らなかったか。実はね、君たちが使ったような技はボクには効かないんだ。というのも、ボクは魔法攻撃に耐性があるからね』
「なっ! そうなの!?」「で、ですが前のときは僕らの技が通っていたはず……!」
リンちゃんと吉人君が戸惑っていると、魔王ギョエイはあっさり答えます。
『前の時は君たちも物理の攻撃が多かったからね。自分の弱点をさらけ出しちゃうけど、ボクは物理攻撃には弱いんだ』
「……た、確かにそうだったわね」
前に戦ったときはリンちゃんが体当たりをし、橙花ちゃんが石を投げつけて攻撃していました。どちらも物理攻撃でした。
吉人君は困惑した表情で橙花ちゃんを振り返ります。
「蒼さん、本当にそうなんですか」
「……今にして思うと、そうかもしれない」
『時計塔ノ君は攻撃用の遠距離魔法が使えないからね。分からなかったのかもしれない。まっ、今気づけても遅いだろうけど。さあ、今度はこちらの番だよ。<リサーキュレーション>!』
魔王は渦の塊を作り出します。即座に橙花ちゃんは反応します。
「時よ、<トマレ>!」
橙花ちゃんの魔術によって、渦の塊は消えかけました。ところが、魔王はまた魔力を込めて叫びます。
『まだまだっ! <リサーキュレーション>!』
一個、二個、三個と、渦の塊が続々と現れたのです。
橙花ちゃんは杖を握りしめ、全ての技に<トマレ>をかけようとしましたが、
『彼らに向かって流れてね? <離岸流>!』
「なっ!」
渦の塊は強い水流に乗って、リンちゃんと吉人君たちに向かって突撃してきました。
橙花ちゃんは呪文を唱え、<離岸流>の流れを防ぎます。しかし、一度勢いがついた<リサーキュレーション>の全てを解除できません。
「っ! 間に合わない……! ボクは劉生君を守る! 二人はなんとか逃げて!」
杖を振り、劉生君と自分の元に来る技は消していきます。
二人も慌てて逃げようとしますが、
「わっ!」
吉人君の真上に、渦が迫ります。
「ヨッシー!!」
リンちゃんの叫び声と同時に、爆発音がしました。リンちゃんが息をのんでいたそのとき、ヨッシーの声が耳に届きました。
「大丈夫です! なんとか、避けられました!」
慌てて横に飛びのき、どうにかこうにか避けることができていたのです。
「よかったっ」
思わずほっとしたリンちゃんに、魔王は楽しげに笑います。
『人を心配する前に、自分の心配をしなさい。<リサーキュレーション>! <離岸流>!』
「っ!」
<離岸流>こそ橙花ちゃんの力で解除できましたが、<リサーキュレーション>の雨がリンちゃんを襲います。
「えいっ! <リンちゃんの ビリビリサンダーパンチ>!」
電気をまとった爪での攻撃です。渦の一つをかき消すことには成功しましたが、まだまだ魔王の術が振ってきます。
「ううっ! もう! 逃げるが勝ちよ! <リンちゃんの バリバリサンダーアタック>!」
本来なら電気を身にまとった体当たり技ですが、今回は避けるために使います。
光の速さでリンちゃんは<リサーキュレーション>から逃れます。
「<離岸流>がないなら、このくらい避けられるわね! よし、作戦にはなかったけど、このままアタックかキックでっ!」
その時です。魔王がにんまりと笑いました。
『道ノ崎リンちゃん。足元注意、だよ』