18 アトラクション大成功! そして、再戦へ
「どうよ! 魔王!」
リンちゃんはふふんと自慢げに胸を張り上げます。
「あたしが考えた、ストーリー性のあるアトラクション! 面白かったでしょ?」
吉人君も満面の笑みをします。
「僕が考えた魚クイズも好評でしたね。まあ、当然ですけど」
一方、劉生君はちょっとふてくされています。
「本当は『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の等身大フィギュアを置きたかったんだけどな。でも、最後のドラゴンはかっこいいよね! あれは僕が考えたんだ!」
『別にいいとは思うけど、アトラクションの題名に悪意を感じるね』
魔王ギョエイはくすくすと笑います。
『ほんと、よくやってくれたよ。ありがとうね。っと、そうだ。アトラクションを遊んだ子たちの評価が届いたよ。今から発表するね』
「「「……!」」」
三人が黙り込み、かたずをのんで魔王を見上げます。
「「「……」」」
『……評価は……』
「「「……」」」
『……』
「「「……」」」
『……』
「……なにもったいぶってんのよ!」
リンちゃんが怒ると、魔王は大声で笑います。
『はっはっはっ、ごめんごめん。君たちがあんまりにも緊張してたんだから、面白くなっちゃって。そんなびくびくしなくても大丈夫。評価は上々だったよ』
魔王はトビビに集計させたデータを見せてくれました。おおむね三点をつけていて、かなりの高評価でした。
『伊藤友之助君も、三点満点をつけてくれていたよ。ボクもアトラクションの中でみてたけど、リピーターの子も多かったね。遊園地にも活気が戻ったよ! これで、君たちを遊園地に幽閉しても、楽しめそうだね。よかったよかった』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
リンちゃんが目を吊り上げます。
「あたしたちと結んだ約束忘れてんじゃないの!」
『もちろん忘れてないけど、諦めてもいいよ。道ノ崎リンちゃんも痛い思いはしたくないでしょう?』
「なーんで負ける前提なのよ!」
『まあまあ。遊園地だって盛り上がっているし、ここにいたとしても、楽しめるはずだよ』
ですが、劉生君は小さく首を振りました。
「ううん。僕は、そう思わないよ」
『……なんだい? またそんなこというのか』
魔王は不満そうに殺気を放ちます。劉生君は少し怯えつつも、たどたどしく答えます。
「きっといつか、あのアトラクションにも飽きちゃうと思うんだ。それもそうだよ。だって、毎日ずっと休みみたいなものだもん。最初はよくても、段々つまらなくなっちゃうよ」
吉人君も劉生君の意見に賛同します。
「ええ。日本には『ハレ』『ケ』という言葉があります。『ハレ』は特別に楽しい日、『ケ』は日常生活のことです。この双方が存在してこそ、『ハレ』を全力で楽しめますし、『ケ』の生活を頑張れるのです。それがないこの遊園地にいたら、それはそれは気が滅入ってしまうことでしょうね」
リンちゃんもうんうんと頷きます。
「そうそう。やっぱり、日が当たっている方が楽しいもんね!」
「道ノ崎さん、そういう意味で使っていませんよ」
すかさず吉人君が突っ込みを入れますが、リンちゃんはスルーします。
「つ・ま・り! たとえあたしたちが完璧なアトラクションを作ったとしても、あんたを全力で倒してみせるってこと! 覚悟しなさいよ、魔王ギョエイ!」
『……君たちがそこまでいうなら仕方ない。いいよ、引き受けよう。最初に戦ったあそこに移動しようか』
「ええいいわよ!」「ですがその前に」「橙花ちゃんと一緒に作戦会議してもいい?」
『うん、いいよ。それじゃあ待っているからね』
魔王はふわりと浮くと、遊園地のどこかへと消えていきます。残るは、劉生君と吉人君、リンちゃんに橙花ちゃんです。橙花ちゃんは、魔王の姿が完全になくなるのを確認してから、劉生君に笑みを向けました。
「君たちに任せてよかった。ありがとう」
橙花ちゃんに褒められて、三人は照れくさそうに頬をかきます。橙花ちゃんは優しいまなざしで彼らを見つめますが、ぎゅっと杖を握りしめると、真剣な表情になりました。
「ここからは魔王との戦いだね。大丈夫。君たちは戦う必要はないよ。代わりにボク一人でなんとかする。ボクは魔王と相性がいいからね。君たちを守りつつ、魔王も倒せ……。……どうしたんだい? みんな」
橙花ちゃんは戸惑ってしまいます。
それはそうでしょう。リンちゃんは頬を膨らませ、吉人君はあきれ顔。劉生君は何とも言えない微妙な表情をしているのですから。
「……全く、蒼ちゃんったら。まだあたしたちのことを子ども扱いするんだから」
吉人君も肩をすくめ、やれやれと言いたげに首を横に振ります。
「ええ本当に! 僕らがどうしてあんなにいいアトラクションができたのかってところを聞き逃してはいませんか?」
二人ともご立腹のようですが、橙花ちゃんはどうして彼らが怒っているのかが分かっていないようです。困ったように眉を曲げています。
「えっと、君たちが知恵を出し合って力を合わせたから、だったね」
「だから、橙花ちゃんとも知恵を出し合って、力を合わせたいなって思っているの」
橙花ちゃんは顔をしかめます。
「それは危険だ。さすがの魔王も次は本気を出してくるに違いない。ボク一人でなんとかしてみせ」
「駄目ったら駄目だよっ!」
劉生君は大声を叫びます。
「だって、僕らは四人で魔王を倒そうって約束してきているんだよ? なのに橙花ちゃんだけに戦ってもらうわけにはいかないよ。だって、僕たちと橙花ちゃんは友達なんだからっ!」
「……ともだち……。ともだち?」
きょとんとする橙花ちゃんに、リンちゃんが唇を尖らせて抗議します。
「ちょっと。あたしたちのことを友達だと思ってなかったの? まあ、なんかそんな感じはしてたけどね。こう、年上感っていうの? プンプンに出してたわよね」
吉人君も小さくため息をつきます。
「確かに、蒼さんは魔力も強いですし、頭も切れます。ですけど、僕らにとってあなたは友達なんです。そう思っているからこそ、僕らは一生懸命アトラクションを考えたんですから」
「ねえ、橙花ちゃん」と、劉生君がじっと橙花ちゃんを見つめます。
「もし、僕らが橙花ちゃんの足手まといになっちゃうなら、……僕らは頑張って隠れることにする。けど、少しだけみんなで考える時間をくれないかな。いっぱいいっぱい作戦を練ってみて、それでもなんともなれないなら、諦めるから。いいでしょ?」
「……」
橙花ちゃんは反対するつもりでした。それほどまでに、彼らを人質にとられたショックがまだ尾を引いているのです。
ですけど、彼らの真剣なまなざしを見ていると、絶対に彼らは引く気はないのだろうと察することが出来ました。
そんなことが分かってしまうほどに、橙花ちゃんは彼らの輪の中にいたのです。
「……はあ……。駄目っていっても、ついてきそうだね。分かったよ。ただし、どうしてもうまく作戦が考え付かなかったら、諦めてよ」
「うん!」「わかったわ!」ではでは、考えましょう!」
三人はあれやこれやと話し合いを始めました。
そんな彼らを、トビビはニコニコとしながら眺めています。
『魔王様のために生きるワタシとしては、魔王様に勝利していただきたいって思わなくてはいけないんでしょうけど、どうしてでしょうか。あの子たちが勝ってほしいなって思ってしまいます。ふふっ、おかしなトビビ』
せめて彼らの心が穏やかになるようにと、トビビは彼らの声が届かない場所に移動します。話し合いが終わるまで、優しいまなざしで彼らを見守り続けました