17 挑め! 魔王へ!(アトラクションの中の話です)
やってきた子供のうち一人は、短髪で活発そうな女の子です。彼女はオノっぽいおもちゃを振り回して、棒読み気味で声を張り上げます。
「やあやあ! あたしは魔王様の従者なり! この先を進みたくば、あたしの部下を倒してからよ!」
「わ、わー大変だ。ここからは相当厳しい戦いになるぞー」
もう一人の男の子は、緊張して声が固くなっていますが、一生懸命台詞を読んでいます。
「みんなの力を借りたいから、このフルーツバスに乗って、魔王の部下を、た、倒そう! さあ、乗って乗って!」
男の子はみんなを誘導します。向かった先にあったのは、二人乗りの乗り物です。バスというほどの大きさではありませんが、それぞれの乗り物はフルーツでデコレーションされていて、とても可愛らしいです。
バスには色んな種類がありましたので、友之助君はブドウのバスに乗りました。
全員が乗るのを確認したのでしょう、魔王の従者設定の女の子が子どもたちの前に再度現れます。
「ふっふっふ、確かに、フルーツバスに乗せてある未来型ビーム銃はかなりの威力だけれども、確かに、魔物の弱点をつかれてしまったらかなりのダメージになるけれども、当たらなきゃ意味ないってものなのよ!」
「ぐぬぬ、魔王の従者め! こうなったら、みんなで力を合わせて戦うんだ! いくぞ、しゅつげーき!」
フルーツバスが動き出しました。コンブのカーテンをくぐった先は、魔王城の中です。
その中には、赤いオーラに染まった恐ろしい怪物たちがいます。本当に生きているかのように動きまわっています。
よくできたアトラクションだなあ、と友之助君が感心していた、そのときです。
突然、叫び声をあげて魔物が襲い掛かってきたのです。
「う、うわあ!?」
慌てて身をかがめると、魔物は友之助君の頭すれすれにすれ違っていきます。本当に攻撃してくるわけではないようです。それでも心臓がバクバクと鼓動します。
「あらあら大丈夫ですか少年!」
先ほどの女の子がエイに乗って登場してきました。
「ふっふっふ、ここは敵に砂糖を送るような気持ちで教えてあげましょう。あのですね、車の中のビーム……」
そこまで言うと、彼女は固まってしまいました。自分のことを驚いたように見つめています。
「……? よく分からないけど、これで魔物を倒せるってことか?」
車内にあった銃を手に取ります。こちらもバス同様にレモンの断面が描かれています。ぱっ見はおもちゃっぽく、魔物を倒す武器としては使えなさそうな気がします。
「なあ、本当にこれで倒せってうお!?」
そう言おうとしたとき、タイミングよく魔物が襲ってきました。
「くっ! ええい、当たれ!」
友之助君はブドウ銃を放つと、銃口から紫色の光が放たれました。
「うわっ!」
光は魔物に当たると、きりとなって消えました。
「す、すげー……!」
友之助君は目をキラキラと輝かせます。
「こんなに強いのか! 見た目は全然なのに!」
「……ま、まあね。せ、せいぜいそれで魔物でも倒してなさい! それじゃあ失礼するわ!」
女の子はエイをポンポンと叩くと、どこかへ消えていきました。
「ようし、じゃんじゃん倒すぞ!」
友之助君もちょっと大人っぽいとはいえ、れっきとした男の子です。こんなに強そうな武器を持って興奮しないわけはありません。
「いけ! ブドウ銃!」
ウツボっぽい魔物に、エンゼルフィッシュ型の魔物、サンゴに化けた得体のしれない魔物まで、次々と撃っていきます。
「よっしゃ! 次々!」
小さな魔物は一撃で倒すことができます。
「へへ、楽勝!」
なんて余裕でいられたのも、最初のうちだけでした。
次第に敵が強くなり、一発では倒せなくなってきます。それでも何発か放てば倒せたのですが、全力でレーザーを当てても倒せない敵もあらわれてきました。
今、まさに友之助君の目の前にいるマグロ型魔物もそうです。
「くっ、なんだよこの魚!」
一発では倒せず、さらに縦横無尽に動き回るので的も定まりません。
「どうやって倒すんだ? うわ!」
魔物に攻撃されてしまいました。本当に当たってはいませんが、バスはぶるりと振動します。
「ああもう! こ、こんな敵、倒せねえよ!」
思わず叫んだそのときです。
「くらえ!」
突如、大きな声と共に、オレンジ色の光線が飛んできました。うまく魔物に当たり、きりとなりました。
そちらを向くと、みかん型のフルーツバスに乗った男の子がいました。ニコニコ嬉しそうにしています。
「やったね! 倒せたよ!」
「え? あ、ああ、そうだな。ありがとう……なのか?」
「それであってるよ! なんだって、あの魔物は一人じゃ倒せないようになっているからね。二人で一斉に狙って、倒せるんだ」
「そういうのもいるのか」
「うん! 僕も前にいた人に教えてもらったんだ! それじゃあ、先行ってくるね!」
彼は手を振ると、フルーツバスをうまく操作して、加速していきました。
「へえ! この乗り物って、加速できるのか」
ハンドル片手に動き回っていると、後ろからイチゴ型バスに乗った女の子が来ました。彼女もマグロ型魔物に苦戦しています。
「よし、教えてくるか」
さっきの男の子のように、色々と教えてあげて、颯爽とバスを加速させます。前の子と同じことをしただけですが、なんだか誇らしげな気持ちになります。
「この調子で、ばしばし倒すぞ!」
時には自分の力だけで魔物を倒し、時には仲間と協力して倒していきます。
そして、とうとう魔王城の中心まで来ました。
一人だけではありません。共に戦ってきた八人の仲間も一緒です。彼らは魔王の玉座を囲むようにフルーツバスを動かします。
「ここまでだぞ、魔王!」
「「そうだそうだ!」」
誰かが叫びます。
ですが、魔王は低く笑うのみです。
『ふっふっふ、よくぞここまで来た。だが、ここに貴様らを招いたのは罠だった、ということには気づいていないようだ』
「罠?」
『さあ、ここで一網打尽にしてやろう!』
突如、魔王の人影が大きくなりました。そして、玉座のあった場所には、一匹のドラゴンがいました。フルーツバスの何十倍もの大きさです。
ドラゴンはにやりと笑うと、火を吐きかけました。
戦闘開始です!
子供たちは必死になって銃を乱射します。
ですが、ドラゴンには大あくびをします。
『きかないなあ。この程度で我を倒そうとでも?』
「なっ! 全然ダメージを与えられてない! どうすれば……!」
友之助君は焦ります。こんなレーザー程度では、勝ち目はありません。
「……でも、」
いつの日か、あの子が言っていたじゃないか。
どんなに小さな願いでも、集まれば強い力となる。
魔王も魔神も、この世界さえも変えられるんだと。
「……なら、この程度のドラゴン、倒せねえとな! みんな! 一か所を集中攻撃するんだ! 狙いは、口の中だ!」
『なに? ま、待て。なにをす、』
「発射!!!」
「「「おー!!!」」」
色とりどりのビーム銃がドラゴンの口の中に炸裂します。
さすがのドラゴンも、なすすべはありません
『ぐああああああああああ!!』
咆哮とともに、ドラゴンはきりとなって消えました。
「……やった。やったぞ!!」
子供たちの歓声が響きます。その中で、友之助君は素直に喜びます。
「やった、やったよ! これで、俺もお前の力になれ……」
友之助君は思わず口から出てしまった言葉に、首を傾げます。
「……ん? お前って、誰のことだ?」
なんていっていると、フルーツバスが自動で動きはじめました。こんぶのカーテンをくぐると、そこは、遊園地の地上にいました。
「あれっ。ここって、出口?」
『そうですそうでーす!』
弾むような声に振り返ると、アトラクションの呼び込みをしていたトビウオがやってきました。
『魔王を倒したあなたたちは、遊園地でのひと時に戻るのでしたっ! ご搭乗ありがとうございました! 最後に、あなたの勇者ポイントの発表です!』
「勇者ポイント? なんだそれ」
『このアトラクションでは、色んな場所でポイントが入るようになっているんですよ! 例えば、お魚クイズに正解したとき、敵を倒したとき、などなど! その合計点を発表です。伊藤友之助君のポイントは、三千点です! 中級勇者、っていうところですかね』
トビウオがいうには、最高得点は六千点とのことだ。
「そんなにとってるやつい戸にるのか! とんでもないシューティング能力なんだな」
『いえいえ! むしろ後半は全然点数とれていなさそうでしたよ。そうではなくて、クイズでガンガン点数をとったんですって』
「へえ、あのクイズって、そんなにポイントがもらえるのか。それなら、もう一回チャレンジすれば、もっと高得点狙えそうだな! 入り口に戻ってみるか」
『あ、その前に、このアトラクションの感想を教えてくれませんか? 三点満点で、何点ですか?』
彼は、にっこりと笑います。
「もちろん、三点だ!」