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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
2章 みんなで協力しよう! 水中の遊園地、フィッシュアイランド!
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15 帰ってきました、ミラクルランド! アトラクションのお披露目です!

 劉生君たちを向こうの世界に帰して、数分後。


『ちょっとちょっと! 他の皆さんはどちらに行ってしまったんですか!?』


 トビビが慌てふためいています。


「さあね。遊園地の中を頑張って探してみたら?」


 橙花ちゃんは冷たく言い放つと、布団に座り込みました。


「……ボクが目を覚ますまでに、見つけられたらいいね」


 橙花ちゃんはもう限界でした。魔神にかけられた眠りの呪いは、橙花ちゃんをも蝕んでいるのです。

 鹿の角の魔力によって、他の子より眠ってしまう時間は短いですが、それでも数時間は眠らなくてはなりません。


 橙花ちゃんは憂鬱になります。魔王に体をボロボロにされるよりも、眠っている時間の方が、橙花ちゃんにとって苦しい時間でした。


 できれば眠りたくないのですが、強制的に意識が遠のいていきます。


 ……せめて、いつもよりも短くあってくれ。

 叶わぬ願いを祈り、橙花ちゃんは夢の世界におちていきます。


 そこで見る夢は、いつもと変わりない、苦しい悪夢です。


 寒い部屋の中、来もしない母親の帰りを独り待つ、幼い自分の姿。


 真っ白な病室で、ぼろぼろの体の自分を怒鳴りつける、兄の姿。


 ナイフで切りつけた、手首の痛み。


 これは夢。ただの夢。過去の記憶を再現しているだけの嫌がらせ。そんなことは分かっています。ですが、目が覚めるまで夢は終わりません。


 ……苦しい。


 彼女は自分の体を抱きしめます。


 ……寂しい。

 

 次第に夢だということも忘れて、独り、涙を流します。


 そして、


 彼女はまた、過去の悪夢に縛られていき、


「……ちゃん、橙花ちゃん、橙花ちゃん!」

「っ!」


 目を開くと、劉生君が肩をゆすっていた。

 その後ろには、心配そうにしている吉人君とリンちゃんの姿があった。


「よかった。すごいうなされてたよ。魔王に何か悪いことされたの?」

「いや、悪夢を見てただけ。そんなことよりもっ!」


 橙花ちゃんは慌てて立ち上がります。


「どうして君たちがここにいるんだっ!」


 彼らはあちらの世界に送ったはず。まさか、戻ってきたのか。橙花ちゃんの表情が青ざめますが、劉生君は自慢げに胸をはります。


「橙花ちゃんを助けにきたんだよ」

「もうここには来ちゃいけないって、言ったじゃないか! 今からでも遅くはない。向こうの世界に帰るんだ!」

「いやいや! そんなことはできないよ。せっかく色々考えてきたんだもの。ね、みんな!」


 リンちゃんと吉人君はそろって頷きます。


「そうそう! リューリューの言う通りよ!」

「蒼さんが心配する気持ちも分かりますが、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ」

「けどっ」


 なおも橙花ちゃんは怒っています。もう一度無理矢理彼らを向こうの世界に送ってしまおうか。そんなことさえも思った橙花ちゃんですが、


『おや、戻ってきているね』


 ふすまが開くと、トビビと魔王ギョエイが部屋に入ってきました。劉生君たちに緊張が走ります。


 橙花ちゃんはさっと身をひるがえすと、劉生君たちをかばう様に魔王と対峙します。


 杖を向ける橙花ちゃんに、魔王は赤い目を細めます。


 ピリピリした空気の中、トビウオなトビビだけは場違いにぴょんぴょん飛び跳ねていました。 


『あれれ!? 皆さん、帰ってきていたんですね。おかえりなさい。お菓子をおだししますね』

「……」

『なんのお菓子がいいですか? っていっても、しけったせんべいしかありませんけど』

「……」

『もしかして、甘いもののほうがいいですか? 分かりました! とってきますね』

 

 どこかへ行こうとするトビビを、魔王が止めます。


『トビビ、ストップ。その前に時計塔ノ君以外の子を拘束しないと。これ以上どこかに行かないように』

「そんなことはさせない」


 橙花ちゃんは魔王を睨みます。杖は真っすぐ魔王に向けています。


『仕方ないよ。君が逃がそうとするんだもの。さて、まずは誰から術をかけようか』


 以前の劉生君たちだったら、そんなこと言われたら怖くて震えていたことでしょう。


 ですが、今の彼らは違います。


 リンちゃんは臆することなく魔王の前に出ます。


「ちょっと待ってもらおうかしら、魔王さん。あたしたちは逃げも隠れもしないわよ。そもそも、最初から逃げる気も隠れる気もなかったわ」


 吉人君もリンちゃんの横に並びます。


「ええ。情報収集をしていたんですよ。子供たちが楽しんでくれるアトラクションを考えるために、そして、あなたを倒すために」

『……ほう。ここに戻ってきたってことは、もう考えついているってことだね。アトラクションも、ボクを倒す方法も』


 劉生君はちょっと足を震わせながら、それでもリンちゃんたちの横に立ちます。


「う、うん! 考えているよ!」


 魔王ギョエイは劉生君たち一人ひとりをじっくり観察します。みんな緊張した面持ちではありました。ですが、その瞳には強い覚悟と希望が灯っています。

 

『……そうか。分かった。君たちの言葉を信じることにしよう。それで? もうアトラクションは作れる?』

「……つくれる?」劉生君は息をのみました。


「もしかして、アトラクションって僕らが作らなくちゃいけないの! ど、どうしよう、作れるかな?!」

『ああ、そんなに慌てなくてもいいよ。君たちは考えてきたアトラクションを頭の中に思い浮かべるだけでいいから。そうすれば君たちの考えたまんまのアトラクションが出来上がるよ』

「そ、そっか。よかったあ……。それなら、もう準備はできているよ」

『分かった。それじゃあ、もっと広い場所に移動しようか』


 魔王はトビビに一言二言呟きます。トビビあは『分かりました!』と元気よく返事をすると、劉生君たちの前でくるっと一回転します。


『案内します。こちらです!』

『さあ、トビビの後をついていって。ボクは後ろからついてくるから』


 どう考えても逃亡を疑った行動です。橙花ちゃんは眉をひそめますが、劉生君たちは特に文句をいうこともなく、「それじゃあいくぞっ!」と、元気よく歩き始めます。


 橙花ちゃんは仕方なくといった様子で劉生君たちの後を追います。


「……ねえ、劉生君」


 魔王に聞こえない小さな声で、橙花ちゃんは耳打ちします。 


「本当に大丈夫なの? もしあまり自信がないなら、なんとかして魔王の隙をつくるから、その間に逃げられるよ」

「平気だよ。なんだって、僕らが頑張って考えたんだもの」

「……そう。ならいいけど……」


 橙花ちゃんの心配をよそに、劉生君たちは元気に呑気に歩いていきます。

 

 チョウチンアンコウの光が照らす廊下を暫く歩くこと、数分。階段を登ると、視界が広がりました。そこは遊園地の敷地でした。子どもたちがキャッキャと歓声を上げてはしゃぐ声が聞こえます。

 

 その一方で、退屈そうにはじっこに座り込み、石を蹴っ飛ばしている子もいます。魔王は彼らをちらりとみて、劉生君たちに視線を移します。


『ここの奥に作ってもらえるかな? ちょうど土地もあいているからね』


 魔王はヒレで指します。魔王の言葉通り、その場所は海藻がふわふわと漂っているだけで、特に何もものはありません。


『それではさっそく、考えてきてくれたアトラクションを実体化しようか。それで、誰が考えてきてくれたの?』

「僕たち三人で考えてきたんだよ!」


 劉生君が意気揚々と答えます。


『三人で?』

「そう! 一番最初は、三人バラバラで考えてきたんだ。だけど、いい案が浮かばなくて、どうしようかな、って悩んでたんだ。だけどね、僕の学校の先生が教えてくれたんだ。みんなで知恵を出し合って、力を合わせれば、地球規模の問題も解決できるって!」

『……なるほど。そうなんだね』


 魔王は微笑ましそうにしています。


『では、君たち三人の考えを実体化すればいい、ということだね。分かった。やってみよう』


 魔王が動こうとしましたが、吉人君が口を開きます。


「その前に、あなたに確認したいことがあります」

『なんだい? 鐘沢吉人君?』

「このアトラクションで高い評価を得られたら、あなたと再戦できる。その条件はお忘れではありませんよね」

『もちろん。ボクは約束を守る魚だからね』

「再戦のときは、僕らと、蒼さんを含めた四人であなたと戦える、ということで間違いないですか?」

『……あー。そういえばそこを決めてなかったね。どうしようかな』


 悩む魔王ですが、即座にリンちゃんが噛みつきました。


「何よ、偉そうにしておいて、蒼ちゃんとは戦いたくないなんていうの? それはなしよ、なし」

『そうはいってもね、道ノ崎リン君。彼女は特殊なんだ。君たちとはわけがちが』

「あっ! ひーきだ! 蒼ちゃんひーき!」

『え? いや、そういうつもりじゃ』

「ひーきはいけないんだっ!」


 吉人君も加勢します。


「そうですそうです。あなたほどの強い魚が、そんな弱音吐いてどうするんですか。他の魚に示しがつきませんよ」

「そーよそーよ! しめしがつかなーい」

『……うっ、そ、それは……』


 魔王は戸惑っています。今がチャンスです。三人で決めた打ち合わせ通り、ここで劉生君が口を開きます。


「僕らは四人で子供たちを救おうって約束したんだもん。ここで橙花ちゃんだけ仲間外れにされたら、橙花ちゃんが可哀そうだよ。だから、一緒に戦ってもいいでしょ?」

『……』


 魔王は数秒考えこみましたが、仕方ないと言いたげに頷きました。


『……分かった。その条件、飲もう』

「やったー!」「やりましたね!」「うん!」

『ただし、再戦の前に突破しなくてはならない課題があるってことは、君たちもしっかり分かっているよね』

「もっちろん!」「当然です」「うん!」

『もし、子どもたちからの受けが悪かったら、君たちは永久にこの遊園地にいてもらう。それも分かっているよね』


 魔王の脅迫にも、彼らは動じずに、ニコッと笑ってこういいました。


「「「もちろん!」」」

『……そっか』


 魔王は橙花ちゃんの様子を確認します。攻撃の体勢はしていません。暫くは彼らに任せると決めたようです。


 それならばと、魔王はふんわりと宙を浮きます。


『それでは、見せてもらおうか。君たちが子ども目線で考えた、新たなアトラクションをね』


 言うや否や、魔王の周りに赤と黄色が入り混じった光があふれ出てきました。光は劉生君を包み込み、遊園地を包み込んでいきます。


 そして、彼らの前に現れたものは……。


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