12 アトラクションを考えよう! ―リンちゃん編―
翌日の朝。
「くしゅん!!」
劉生君が大きなくしゃみをしました。
「ちょっとリューリュー。大丈夫?」
「うう……。風邪薬は飲んだけど」
「結局、昨日は濡れた服着替えなかったんでしょ? 絶対そのせいよ。ほら、あたしの服あげるから」
リンちゃんは自分の上着を劉生君にかぶせてくれました。
「ありがとう……」
「リューリューは身体弱いもんね。きついなって思ったら、すぐに保健室に行って、早退しなさいよ」
「うん……」
「……なんなら、アトラクションのプレゼン大会延期する?」
「ううん。そんな酷くない」
「そう? ならいいけど」
リンちゃんはお姉ちゃんのように心配しています。
同級生の女の子に弟扱いされるなんて、普通の男の子なら嫌がることでしょう。
けれど、劉生君は別に嫌だと思いません。小さい頃から弟のように甘やかされていましたので、違和感を覚えないのです。
そんな話を劉生君が吉人君に喋ったところ、吉人君はため息をついて、『そういう関係に落ち着いていなかったら、道ノ崎さんも自分の気持ちに気づけたでしょうに』と言っていました。
自分の気持ちって何のことでしょうか。劉生君にはよく分かりませんでしたので、リンちゃん本人に聞いてみることにしました。
「へえ、ヨッシーったらそんなこといってたの? あたしの気持ちねえ。うーん、そうはいっても、お腹すいたなあ、眠いなあ、くらいしか考えてないわよ。ヨッシーじゃないんだから、そう複雑なことは考えないわよ」
リンちゃんはコロコロと笑います。
いつもより静かな通学路を歩き、学校にたどり着きました。劉生君たちの教室まで上がり、扉を開けると、すでに吉人君や林君、鳥谷さんが待っていました。
「ああ、みんなもう来てたの。おはよう!」
「おはよう!」
「おはよー」
「おはようございます!」
「おはようございます。ちなみに、おはようは英語で何と言うでしょうか」
「ナイストゥミーツー!」
「違いますね」
劉生君とリンちゃんは机に荷物を置いて、みんなが集まっている席に行きます。
「それにしても、早いわね。まだ集合時間の五分前じゃない」
現在時刻は七時二十五分です。
リンちゃんがびっくりしていると、吉人君はふふんと鼻を鳴らします。
「ついでに宿題を終わらせておこうと思って、早めに来ていたんですよ」
「あれ? なんかでてたっけ?」
「明日提出の宿題なんで、まだ大丈夫ですよ」
「はあー……。明日提出の宿題をやるなんて、余裕しゃくしゃくのシャキシャキじゃないの。ミッツンとさっちゃんも早く来た感じ?」
林君は眠い目をこすりながら、首を横に振ります。
「いや、俺と咲音っちはついさっき来たところ。んー、眠い。授業中寝ちゃうかも」
吉人君が申し訳なさそうにします。
「すみません、勢いで参加させてしまって」
「いやいや、おもしろそうだから、別にいいよ」
鳥谷さんはニコニコ笑います。
「ええ! わたくしも、とっても楽しみにしてたんです! 皆さんが考えたアトラクションを是非是非教えてください!」
鳥谷さんはノリノリです。リンちゃんも嬉しくなって、胸を張ります。
「ふふん、このリン様、みんなの期待に応えるアトラクションを発表するわよ! それじゃ、あたしが発表会の一番手でいいかしら?」
異議はありません。
「それじゃ、あたしの発表はじめるわよ! あたしはね、一生懸命悩んだのよ。あの遊園地にあったら最高に面白いアトラクションをね!」
「……あの遊園地?」
鳥谷さんが首を傾げます。吉人君はささっと補足します。
「そこらへんの疑問はそっと置いておいてください」
「はあ、分かりました」
そんなもんかと納得してくれましたので、リンちゃんは話を続けます。
「ずばりっ!タイトルは、『最恐!地獄遊園地!』よ!」
「……地獄遊園地……」
息をのむ劉生君に、リンちゃんはニヤリと笑います。
「今から怖がってちゃ、もたないわよ?」
リンちゃんは悪い笑みを浮かべて、アトラクションを発表し始めました。
「観客はね、まずバンジージャンプに挑むの」
恐怖に打ち勝ち、飛び出した観客たち。
しかし、アトラクションはそれだけで終わりません。
ほっとした観客たちが下ろされる場所は、海草が不気味に揺れる、怪しげな洋館でした。
「扉を開けたら、なんということでしょう! 恐ろしいゾンビが徘徊していたのですっ!」
逃げ惑う観客たち。だがゾンビは、容赦なく彼らを追い詰めます。
「四方八方から襲いかかるゾンビたち! 絶体絶命のピンチに駆けつけてきたのは、高速で走るジェットコースターだったのです!」
ゾンビを振りきろうと、コースターは右往左往、上から下へ急上昇急下降。観客たちは悲鳴と歓声をあげることでしょう。
「それでね!ジェットコースターが爆発するの!」
「爆発!?」みつる君はびっくりしますが、リンちゃんは当然とばかりにニコリと笑います。
「うん!それで、遊園地のアトラクション入り口に戻って終了!」
「……あ、う、うん。そう、なんだね」
爆発したとき、乗ってる人はどうなるんだろうか。みつる君は疑問に思いましたが、リンちゃんの勢いにおされて質問を引っ込めました。
「以上!あたしのアトラクション、『最恐!地獄遊園地!』はこんな感じよ。ではでは! 投票どうぞ!」
「投票?」
みつる君と咲音ちゃんに、1,2,3の番号札が配られました。リンちゃんいわく、これで点数をつけてほしいとのことです。
「では! 一斉に番号札をあげてください! どうぞ!」
「急だね!?」
みつる君は慌てて番号札をおろおろと見渡し、3番の札を掲げます。咲音ちゃんは「どうしようかしらー」と悩んでから、2番の札をあげます。
「中々高得点じゃない! さっすがあたしね!」
リンちゃんはふんぞり返って、「めっちゃジョズブってるでしょ!」と高笑いします。劉生君も「リンちゃんかっこいい!」と歓声をあげます。
しかし、ある一人の男の子がリンちゃんに反論を企てます。
「ふっふっふっ、まだまだですね、道ノ崎さん。それとジョズブではなくてジョブズですよ」
頭脳明晰、真面目なめがねっこ、吉人君は不敵に笑います。