11 新しい友達ができたよ!
「「まことに申し訳ありませんでした」」
「いや、いいって……」
林君は氷枕で顔を冷やしていました。彼の前には、土下座するリンちゃんと吉人君の姿があります。
「あたしの勘違いで手をあげてしまい、誠に申し訳ありませんでした……」
「適当なことをいって、誠に申し訳ありませんでした……」
「だからいいって。ちょっと痛いだけだし。……それで、二人はどうして保健室に来たの?」
「あっ、そうだったわ」
リンちゃんは吉人君の背を押します。
「ヨッシーが手を紙で切っちゃったから、絆創膏をもらいに来たの」
「わかった。ちょっと待っててね」
林君は消毒液と絆創膏を持ってくると、吉人君の傷に消毒液をささっと吹きかけ、しっかり絆創膏を貼ります。
「これで大丈夫だね」
吉人君はしげしげと絆創膏が巻き付いた指を見つめます。
「すごいですね。綺麗に貼っています。実は絆創膏は持っていたんですが、うまく貼れなくて困っていたんです」
リンちゃんはすっと視線を逸らします。
「そ、そういう細かい作業は得意じゃないのよ。……ほら、ミッツン君は保険委員だし、きっとそういうのが得意なのよ」
「ミッツン……? あっ、もしかして俺のこと?」
鳥谷さんはニコニコしながら頷きます。
「林君のすごいところはそれだけじゃないんですよ! ボタンが外れてたらつけてくださいますし、お料理だって出来るんです! わたくしと林君は料理クラグで一緒なんですが、彼の作るお料理はいつも美味しいんです!」
「いやいや、レシピ通り作ってるだけだよ」
林君はちょっと照れています。
「……僕も、料理くらいはできますよっ! レシピさえあれば!」
なぜか、吉人君が対抗してきました。
「あら、そうなんですね! ではではっ、ぜひわたくしと一緒にお料理しましょう!」
「え! 本当ですか! ぜひぜひ!」
吉人君は顔を緩めています。鳥谷さんも嬉しそうです。
その二人のかげで、林君が顔をしかめて黙って首を横に振っています。
「……やめたほうがいいよ。うん……」
「? どうしてですか?」
「……それよりも、そろそろ休み時間が終わるから、教室に帰ったほうがいいんじゃない? 赤野君も着替えなくちゃいけないんだし」
「え? ああっ、本当ですね!」
彼らは時計を見上げます。もうそろそろでチャイムが鳴ってしまいます。
リンちゃんが頭を抱えます。
「アトラクションの話も、魔王の話も、何もできなかったわね」
「うう……。ごめん、リンちゃん」
「リューリューは悪くないわよ。仕方ないわ、また明日のお昼休みに考えましょ」
なんて話していると、鳥谷さんと林君がキョトンとして劉生君たちを見ていました。
「アトラクション? 魔王? なんのこと?」「なんだかおもしろそうな響きですね!」
劉生君とリンちゃんは互いに顔を見合わせます。
……言ってはいけないことを言ってしまった気がします。なんとか誤魔化さなくてはなりません。
「へ? え、えーっと、な、なんだっけリンちゃん?」
「ちょ、あたしに振らないでよっ! そのー、あ、あれよ! ど、道徳の時間でそういう授業をやったのよ! 楽しいアトラクションを作りなさいっていうね!」
「ふーん?」
林君は不思議そうに首を傾げます。
「道徳の授業って、クラスによって違うんだっけ? 俺のクラスではそんな授業じゃなかった」
「「ぎくっ!」」
さっそくバレそうな気配です。ドキドキしていた劉生君とリンちゃんでしたが、ここで吉人君が救いの手を伸ばしてくれました。
「授業が早く進んだので、レクリエーションをしたんですよ。他のクラスはしていないはずです」
「へえ、そうなんですねえ」「そういうことね」
二人とも納得してくれました。劉生君とリンちゃんはほっと一息つきます。
ですが、一難さってまた一難です。安心したのもつかのま、鳥谷さんはきらきらと目を輝かせてこう言いました。
「それでは、みなさんは面白いアトラクションを考えているってことですね!」
「え? そうですね」
吉人君が頷くと、鳥谷さんは彼の手をぎゅっと握りしめました。
「それじゃあ! 是非わたくしたちにも見せてください!! 何かお手伝いできると思いますし、何より楽しそうです!」
「へ?」
「もしかして、難しいですか……?」
鳥谷さんがうるうるとした目で吉人君を見上げます。
そんな目で見つめられたら、奥手な吉人君はイチコロです。
「あ、いえ、だいじょうぶですよ。見せてあげましょう」
「本当ですか! やった!」
「ちょ、ちょ、ちょっとヨッシー!」
リンちゃんは慌てます。
「何言ってんのよっあんたっ!」
「い、いや、そのー。あれですよ、僕ら三人だけで考えても、偏った意見しか出せません。たくさんの子供たちが楽しめるアトラクションを作るんですから、出来るだけ多くの人の意見を聞かなくてはなりませんって」
吉人君、決死の言い訳です。
ですが、さすが秀才が頑張って取りつくろった話です。
「確かに、吉人君の言う通りかもしれないね。他の人の意見も聞きたいし」
劉生君は納得します。
「うむむ、なんか釈然としないけど、ヨッシーの言うとおりね」
リンちゃんも違和感を覚えつつも納得しました。ひとまず吉人君は心の中でほっとします。
三人の話が終わるのを見計らい、鳥谷さんはある提案をしました。
「ではではっ、明日の朝はどうでしょうか? お昼は林君も委員会がありますし!」
「……え?」
林君はきょとんとします。
「いや、俺は別にアトラクションに興味な」
「決まりね!」
リンちゃんは頷きます。
「朝だったらヨッシーも大丈夫だものね!」
「そうですね。赤野君は大丈夫ですか」
「お、起きれるかな」
「だいじょーぶ! あたしが起こしてあげるからっ! それじゃ、七時三十分にしゅーごっ!」
「「「「はーい!!」」」
「……え? ……え??」
林君が呆然としている間に、キンコンカンコンとチャイムがなりました。