7 また会おう! また遊ぼう!
ハッと目を覚ますと、目の前には橙花ちゃんがいました。スマホから顔をあげ、にっこりと笑います。
「おはよう、劉生君」
「……おはよう」
目をごしごしこすって、外を見ます。あともう少しで観覧車も終わりのようで、随分下の方まで来ています。
胸のあたりでぎゅっと握っていた手を開いてみます。橙花ちゃんがくれたアクセサリーを持っていたはずですが、手の中には何もありませんでした。
普通なら、落としたのかと慌てるところですが、劉生君は焦りません。むしろ、ニコニコしています。
「どうかしたの?」
橙花ちゃんがきくと、劉生君は笑顔で首を横に振りました。
「ううん、なんでもない!」
劉生君たちは地上に降り、みんなと合流しました。
友之助君が、羨ましそうな、怒っているような、複雑そうな表情をして待っていました。
「結局、蒼と二人で乗ったんだな」
李火君がニヤニヤしながら揶揄います。
「なに、嫉妬? いやー、男の嫉妬は見苦しいね」
聖菜ちゃんは、友之助君をなでなでします。
「……元気出して。また遊ぼう」
みおちゃんと幸路君は、横でギャーギャー言い争っていました。
「みお、幸路きらい!」
「んだよ、しりとりで負けたくらいで切れんなよ」
「勝たせてくれたっていいじゃん! けち!」
「勝負に手加減はできねえ」
くだらない内容で喧嘩しているようです。さっきから何度もこんな喧嘩ばかりしているので、聖菜ちゃんさえ止めません。
呆れてしまっているのか、それとも、喧嘩している当人たちが意外と楽しそうにしているからか、その両方でしょう。
みつる君はふう、と満足げに伸びをします。
「いやー、楽しかった。先生さんにお礼しないと。そうだなあ。たくさん料理を作ってあげようっと!」
みつる君は袖をまくりあげます。ミラクルランドにいたとき以上に、みつる君の料理の腕は上がっています。
きっと、先生さんは喜んでくれるに違いありません。
咲音ちゃんも、うっとりと空を見上げます。
「わたくしも、とても楽しかったです。料理なら、わたくしもお手伝いできますね! やってみましょう!」
みつる君、脊髄反射的に制止します。
「大丈夫。一人でやるから」
「あら、そうですか……」
咲音ちゃんは、残念そうにします。
二人の漫才を眺めてながら、吉人君はこそっとリンちゃんに耳打ちします。
「今度は、事前に調べて、完璧なプランを考えますからね。覚悟してください」
「なんの覚悟よ、なんの」
「そりゃあ、もちろん。こんなことや、あんなこと!」
「……悪い顔してるわねえ」
「いきいきしてるって言ってくださいよ」
みんなは楽しく盛り上がります。
こんな時間が、ずっと続けばいい。そう願っていたでしょう。ですが、ここはミラクルランドではありません。現実世界です。
チャイムが、鳴りました。
『ふるさと』、です。
劉生君は残念そうに唇を尖らせます。
「むう、『うさぎおいし』だ。……もう、帰る時間だね」
橙花ちゃんは空を見上げます。
「うん、そうだね。楽しかった時間は、もう終わり。日がでたら、また遊ぼう、だね」
みんなは、顔を見合わせ、こくりと頷きます。
「じゃあ、帰るか」「帰ろ帰ろ!」「また今度遊ぼうね」「ねー!」
夕日を背に、子供たちはそれぞれの家に帰っていきます。
ある子どもは、もっと遊びたかったと、しょんぼりしながら。
またある子どもは、これから遊ぶのが楽しみだと、ワクワクしながら。
五時になるチャイムは、子供たちの背中をそっと優しく押し、オレンジ色になった太陽は、子供たちを見守り続けました。
『ほうかごヒーロー』はこれにて完結です。
長文ながら、ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございました。
またどこかでお会いできることを願っています。
皆様方の良きなろう生活をお祈りいたします。