表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/297

5 橙花ちゃんと魔王たち


 鏡をみていた王たちは、ぎょっとしました。ザクロだけは気軽にのんびりと手を振っています。


『やっほー! 蒼! 見てるぞ!』

『少しは慌てろ!』


 リオンが一喝し、トトリは困惑します。


『向こうからワタシたちは見えないのではなかったのか?』


 レプチレス社長に尋ねますが、社長は社長で困ったように頭をひねります。


『いや、確かにそのはずだが……』


 場が混乱する中、橙花ちゃんは話を続けます。


「気づいていたよ。ゲームであの高校生たちと戦っていた時、みおちゃんが発作を起こしたとき、私や劉生君に声を届けて、助けてくれたよね」

『……』


 王たちは押し黙っています。橙花ちゃんの言葉に耳を傾けているのです。


「……私、みんなにひどいことをしていた。それなのに、みんなは私を助けてくれた。ありがとう。本当に、ありがとう」


 彼女は目を開き、優しく笑います。


「みんなも、どうか元気でいてね」


 彼女の願いがこもった思いは、王たちの胸に、しっかりと届きました。


 ザクロは歯を出して笑います。


『……おう! 元気でやるぞ!』


 レプチレス社長は、呆れたようにため息をつきます。


『ひどいことをした自覚はあったんだね。まあ、元気でいるよ』


 トトリは、優しく目を細めます。


『こちらこそ、ありがとう』


 リオンは、照れたように低く唸ります。


『ふん、お前に言われずとも、元気にいるわ』


 橙花ちゃんの世界の空は、徐々に、オレンジ色になっていきました。それと同時に、鏡に映る橙花ちゃんの姿が薄れていきました。


 タイムリミット、です。


『……蒼……』


 ギョエイは、涙目で微笑みます。


『……どうか、蒼も、元気でね』


 ギョエイの一言がまるで届いたかのように、


 橙花ちゃんは、満面の笑みで頷きました。


 その瞬間。


 ぱちん、と音がしました。向こうの世界とのつながりが切れたのです。鏡に映るのは、劉生君でも、橙花ちゃんでもありません。


 涙をこらえ、神妙な顔をしている王たちの顔でした。


『ふふっ、みんな、酷い顔しているね』


 涙で顔がぐちゃぐちゃなギョエイが、自嘲気味に笑います。


『……蒼。蒼。……元気でね。無理はしちゃ駄目だよ』

『……』


 しんみりした空気を振り切ろうと、レプチレス社長が明るく言います。


『さてっ、ボクたちはボクたちで、国を立て直すことにしましょうか。復興はまだまだ途中だからね』


 リオンも大きくあくびをして、伸びをします。


『そうだな。こんなところで、のんびりしている場合ではない』


 トトリも翼を広げて、立ち上がります。


『あの子が心配しないように、元に戻さないとね』


 ザクロは目を爛々と輝かせます。


『もしかして、みんなでワタシと戦ってくれるのか! いいぞ、相手しよう!』

『しない』


 レプチレス社長はバサリと拒否します。


 それぞれの国に戻る王たちのように、ギョエイもフィッシュアイランドに向かおうとします。


 途中、ギョエイは鏡を振り返ります。


 そこには、何も映していません。


 それでも、ギョエイの頭には、あの子の笑顔が浮かんでいました。


『あのときは、泣いていたのにね』


 フィッシュアイランドで、はじめて会ったときの彼女は、一人で泣いていました。ギョエイはどうにかして笑顔になってほしいと、アトラクションを作ったり、呼び方を変えたりしました。


 けれど、そんな小細工せずとも、彼女は笑顔になってくれました。


 ……あの少年のおかげで。


 赤野劉生君のおかげで。


『ありがとうね、劉生君』


 それから、ギョエイは目を閉じて、願いをこめます。


『……これからも、元気でね、蒼。……いや、』


 ギョエイは、微笑みました。


『蒼井橙花ちゃん』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ