5 橙花ちゃんと魔王たち
鏡をみていた王たちは、ぎょっとしました。ザクロだけは気軽にのんびりと手を振っています。
『やっほー! 蒼! 見てるぞ!』
『少しは慌てろ!』
リオンが一喝し、トトリは困惑します。
『向こうからワタシたちは見えないのではなかったのか?』
レプチレス社長に尋ねますが、社長は社長で困ったように頭をひねります。
『いや、確かにそのはずだが……』
場が混乱する中、橙花ちゃんは話を続けます。
「気づいていたよ。ゲームであの高校生たちと戦っていた時、みおちゃんが発作を起こしたとき、私や劉生君に声を届けて、助けてくれたよね」
『……』
王たちは押し黙っています。橙花ちゃんの言葉に耳を傾けているのです。
「……私、みんなにひどいことをしていた。それなのに、みんなは私を助けてくれた。ありがとう。本当に、ありがとう」
彼女は目を開き、優しく笑います。
「みんなも、どうか元気でいてね」
彼女の願いがこもった思いは、王たちの胸に、しっかりと届きました。
ザクロは歯を出して笑います。
『……おう! 元気でやるぞ!』
レプチレス社長は、呆れたようにため息をつきます。
『ひどいことをした自覚はあったんだね。まあ、元気でいるよ』
トトリは、優しく目を細めます。
『こちらこそ、ありがとう』
リオンは、照れたように低く唸ります。
『ふん、お前に言われずとも、元気にいるわ』
橙花ちゃんの世界の空は、徐々に、オレンジ色になっていきました。それと同時に、鏡に映る橙花ちゃんの姿が薄れていきました。
タイムリミット、です。
『……蒼……』
ギョエイは、涙目で微笑みます。
『……どうか、蒼も、元気でね』
ギョエイの一言がまるで届いたかのように、
橙花ちゃんは、満面の笑みで頷きました。
その瞬間。
ぱちん、と音がしました。向こうの世界とのつながりが切れたのです。鏡に映るのは、劉生君でも、橙花ちゃんでもありません。
涙をこらえ、神妙な顔をしている王たちの顔でした。
『ふふっ、みんな、酷い顔しているね』
涙で顔がぐちゃぐちゃなギョエイが、自嘲気味に笑います。
『……蒼。蒼。……元気でね。無理はしちゃ駄目だよ』
『……』
しんみりした空気を振り切ろうと、レプチレス社長が明るく言います。
『さてっ、ボクたちはボクたちで、国を立て直すことにしましょうか。復興はまだまだ途中だからね』
リオンも大きくあくびをして、伸びをします。
『そうだな。こんなところで、のんびりしている場合ではない』
トトリも翼を広げて、立ち上がります。
『あの子が心配しないように、元に戻さないとね』
ザクロは目を爛々と輝かせます。
『もしかして、みんなでワタシと戦ってくれるのか! いいぞ、相手しよう!』
『しない』
レプチレス社長はバサリと拒否します。
それぞれの国に戻る王たちのように、ギョエイもフィッシュアイランドに向かおうとします。
途中、ギョエイは鏡を振り返ります。
そこには、何も映していません。
それでも、ギョエイの頭には、あの子の笑顔が浮かんでいました。
『あのときは、泣いていたのにね』
フィッシュアイランドで、はじめて会ったときの彼女は、一人で泣いていました。ギョエイはどうにかして笑顔になってほしいと、アトラクションを作ったり、呼び方を変えたりしました。
けれど、そんな小細工せずとも、彼女は笑顔になってくれました。
……あの少年のおかげで。
赤野劉生君のおかげで。
『ありがとうね、劉生君』
それから、ギョエイは目を閉じて、願いをこめます。
『……これからも、元気でね、蒼。……いや、』
ギョエイは、微笑みました。
『蒼井橙花ちゃん』