3 劉生君とリンちゃん!
劉生君はニコニコ笑顔で、りんごジュースを持ってきました。
「りんご! りんご! リンちゃんもりんごジュース飲む?」
リンちゃんの分なんて持ってきていません。回し飲みです。リンちゃんは慣れた様子で、劉生君のジュースをすすります。
「……ありがとう。……でも、一緒に残らなくたって、よかったのに」
複雑そうな表情のリンちゃん。
一方で、劉生君はのほほんとしています。
「いいのいいの! だって、リンちゃん一人ぼっちにできないもん」
「本当によかったのに」
リンちゃんは俯きます。よく見ると、唇をかみしめています。心の中の気持ちを吐き出すかのように、リンちゃんは呟きます。
「……リューリューに、気をつかわれちゃうのは、嫌なのよ」
車いすになってから、劉生君は常にリンちゃんを思いやり、リンちゃんのためにちょろちょろと動き回っています。
劉生君がよかれと思って行動しても、本当の意味でリンちゃんのためになっているかというと、それは微妙なラインです。半分はリンちゃんのためになっているかもしれません。いや、三分の一……? 四分の一……?
……ともかく、劉生君は劉生君なりに、リンちゃんのことを考えて動いているのです。それが、リンちゃんにとって、ひどく気まずく、申し訳ないと思ってしまうのです。
「あたしのことなんて気にしないで、リューリューはリューリューで楽しみなさい。別に、あたしは一人でも楽しいし」
なんて口では言いますが、彼女の表情は暗いですし、どこか愁いを帯びています。リンちゃんの心中を、劉生君はやっぱり察することはできません。
劉生君は、己の心に従って、元気よく素直に答えます。
「別にいいもん! だって、僕はリンちゃんと一緒にいたいし、リンちゃんのために頑張りたいもん!」
「だから、別にあたしは放っておいていいのに」
「僕は嫌だもん」
劉生君はハッキリと言い切ります。
「僕が嫌だから、やっているだけだから、リンちゃんこそ気にしなくていいんだよ!」
「……」
リンちゃんはぽかんとしますが、すぐに噴き出します。
「そういえば、そうだったわね。……リューリューは、自分勝手だもんね」
あくまで、劉生君は自分の願いに忠実です。
ミラクルランドでもそうでした。
いくら他の子供たちが「ミラクルランドにいたい」「死んでしまってもいい」と口々に言っていたのに、劉生君は「自分が嫌だから」という理由で拒否し、戦いに挑みました。
リンちゃんへの手助けも、劉生君にとっては同じ思考回路です。
劉生君が、リンちゃんを助けたいと思ったから、手を貸しているのです。本当の意味で、リンちゃんのために動いていません。
そんなところが、劉生君の悪いところで、とっても良いところです。
「……だったら、仕方ないわね」
リンちゃんは、笑顔でいう。
「ま、あたしもリューリューに助けられてばっかりじゃ、癪だからね。すぐに車いすをマスターして、リューリューを助ける側に回ってやるんだから。楽しみにしておきなさいよ」
「えへへ、なら、僕も頑張る!」
「頑張りなさい、頑張りなさい」
二人で顔を見合わせて、声をあげて笑いました。