1 よかったね、先生さん!
お医者さんの診断が終わりましたので、これから全力で遊べます。
さっそく、劉生君が挙手します。
「はいはいはい!!デパートに戻って、ゲーセンで遊ぼうよ!僕、みんなとダンスゲームやりたい!!」
咲音ちゃんも、のほほん、と頷きます。
「ダンスゲームですか?楽しそうですね!わたくしもやってみたいです!」
ですが、吉人君が言いづらそうにあることを切り出しました。
「その……。残念ですが、今からあそこに戻る時間はありませんよ」
リンちゃんも残念そうに近くの時計をみます。
「もう夕方だもんね……」
遊ぶ時間はあっという間に過ぎていき、気がつけば、太陽の位置も西へ西へと落ちています。
あともうちょっと経てば、空も青から橙色へと移り変わるでしょう。
幸路君は腕時計をちらりとみて、顔を歪めます。
「やべえな、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと、親に怒られる」
幸路君は、このメンバーのなかで一番遠くに住んでいます。
ですので、あともう少ししたら、電車に乗らなくてはなりません。
リンちゃんは残念そうに唇を尖らせます。
「もっと遊びたかったけど、まあ、仕方ないわよねえ。リューリュー、あともう少しだけ遊んで、それで帰りましょ」
「そっかあ……。だったら、観覧車! 観覧車いきたい! 幸路君、観覧車ならいいかな?」
幸路君はもう一度腕時計をみて、頷きます。
「おう。それくらいなら余裕だな」
「やった!!」
先生さんが微笑ましそうに劉生君たちを眺めます。
「観覧車にいくんだね。……。そうだ」
先生さんは白衣のポケットから小さな財布を取り出すと、小さなチケットをみつる君に渡しました。
「観覧車に乗るなら、これを使って」
チケットには、こう書いてありました。
「無料招待券……? え、まさか、このチケットって」
「言葉の通り。観覧車にただで乗れるチケットだよ。あ、ちょっと待って。五人まで無料だったっけ。だったら、はい」
プラス、お金もくれました。
みつる君は口をあんぐり開けます。
「いやいや、先生さん! 申し訳ないって! こんなにいらないって!」
「遠慮せずに貰って貰って。チケット自体はあそこの観覧車がリニューアルオープンしたときに、従業員全員がもらったものだから。……それに、」
先生さんは、バツが悪そうに視線をそらします。
「君たちには、……迷惑をかけてしまったからね……」
みつる君に失礼な発言をし、劉生君に絡んだあの一件のことを指しているのでしょう。
確かにあれはあれでショッキングな出来事でしたが、そのあと、蒼井陽さんが颯爽と助けにきてくれましたし、相次ぐミラクルランドでのトラブルのため、気にも留めなくなっていました。
劉生君に至っては、もう忘れてしまっています。みつる君、あの先生さんに迷惑かけられちゃったんだー、なんてぼんやりと考えています。
「受け取ってくれると、嬉しいんだけど」
「うー……」
少し悩みましたが、受け取るのも誠意だと思い、みつる君は渋々受け取りました。
「また、うちの店にきてくださいね」
「ああ。ありがとう」
先生さんは、まるで救われたかの様に、ほっとした笑みを浮かべました。