6 ミラクルランドからの干渉
さてはて、ミラクルランドの王様たちはどうしているでしょうか。
『おお!友之助君たちだ!』
ギョエイは嬉しそうに跳ねます。
『懐かしいな。みんな元気そうでよかったよ!うんうん!それにしても、さっきの友之助君はかっこよかったね!彼になら、蒼を託せるね』
相変わらず、ギョエイはお父さんみたいなことを言っています。
もはや、他の王たちは誰も突っ込みません。見向きもせずに、トトリはふわあ、とあくびをします。
『私は分かっていたけどね。聖菜ちゃんはしっかりとした魔力を持っていたからね』
リオンはふん、と鼻を鳴らした。
『本当にそう思っていたのか、怪しいものだな。どうせ後出しだろ』
『そういうリオンはどうな訳? みおちゃんは幸せそうになれたけど』
『あんな餓鬼のことなんぞ、知ったこっちゃない』
ちょっと不機嫌そうです。目を吊り上げ、イライラするように尻尾を地面に叩きつけています。
『オレが作った素晴らしい国で陰気な顔していたくせに、あんなニコニコしやがって……』
彼は誇り高き王様ですので、自国ではなく、別の場所で幸せを掴みとった子供の存在が、癪に障ったのです。
『爆弾括り付けておいて、良く言うよね』
トトリが棘のある言い方をすると、触発されて、ギョエイが眉をひそめます。
『いつか言おう言おうと思っていたんだけど、子供に爆弾をつけるなんて、あまりに酷すぎるよ。信じられない』
『煩い。オレは勝つためなら手段を選ばない』
トトリが『負けたくせに』と嫌味を呟くと、リオンは毛を逆立てて低く唸ります。
『なんだ? ここでオレに始末されたいか?』
『そんな暇はないよ』
と言いながら、トトリは翼をぶるぶると震わせ、リオンを睨みつけます。レプチレス社長はどうにかしろとギョエイに目で促しますが、ギョエイもギョエイでリオンへの怒りでぷりぷりしており、役に立ちそうではありません。
レプチレス社長は渋々、二人の間に入ります。
『うるさいから止めて。喧嘩するなら他所でやって』
一触即発の雰囲気でしたが、もう一度レプチレス社長が念押しすると、お互い舌打ちをして、出来るだけ遠くに座りました。
『やれやれ。君たち、もう少し落ち着いて欲しいものだよ。そこは、あの怠惰な男、李火だっけ? あの男を見習ってほしいよ。あの男ならこんな面倒な喧嘩はしないね。……なんなら、仕事もしない。動きもしなかったね』
話しているうちに、あのとき感じていた苛立ちがふつふつとわいてきました。
『ほんと、あの男は違法行為ばかりして、食っちゃ寝、食っちゃ寝の日々……。あの男が元の世界に戻ってくれて本当によかったよ。今もうちの会社にいると思うと、ぞっとするね』
一時は李火君に憑りついて、劉生君たちを罠にかけようとしたレプチレス社長ですが、単に利用していただけで、李火君を大切には思っていたようです。
むしろ、いなくなって済々としているようです。
ギョエイやトトリとは、また別方向で、李火君が現実世界で元気に暮らしていることを祝福します。
ではでは、アンプヒビアンズの王、ザクロはどう思っているのでしょうか。
何気なく他の王たちがザクロを見ます。
何を話すか、と気になっていた王たちですが、意外や意外、ザクロは鏡を食い入るようにのぞきこんでいました。
その表情は、険しいものでした。
ここで、王たちはある疑問を抱きました。
ついさっき、リオンとトトリが喧嘩しそうになりました。こういうときに、必ず前に出てくるのは、戦闘大好きなオオサンショウウオ、ザクロです。
しかし、先ほどのにらみ合いに、ザクロは参加しませんでした。
あの戦闘好きが、喧嘩の匂いを嗅ぎつけることもなく、鏡を凝視していたのです。王たちの興味は鏡にむきました。
鏡は一人の子供をうつしていました。場面も変わっています。子供たちがわいわいお喋りしている輪の中から、誰か一人抜け出したようです。近くにトイレマークがありますから、まあ、そういう理由でしょう。
その子は、ベンチに座っていました。
疲れていたのでしょうか。
……どうやら、そうではないいようです。
その子は、小さな体を縮こませて、苦しげに自分の身体を抱きしめています。顔が真っ青で、だらだらと汗が流れています。
ギョエイは息をのみ、怯えるように囁きます。
『あの子って、みおちゃんだよね?』
その通りでした。
彼女はみおちゃんです。しかし、さっきと様子が違いました。
『み、みんなは? 他のみんなはどうしているの?』
急くようなギョエイの言葉に、レプチレス社長は尻尾を伸ばして鏡を操作します。劉生君たちが映る画面に戻りました。
みおちゃんがあんな状態だというのに、子供たちは気づかず、相変わらずわいわいお喋りしていました。
ザクロは不思議そうに、鏡をこすります。
『それはともかく、この子供のまわりに、もやが出ていないか? ほら、黄色っぽいもや。汚れなのか?』
確かにみおちゃんを囲むように黄色いもやが漂っていますが、そんなことを気にしている暇はありません。
なぜみおちゃんがあんなに苦しんでいるのかは分かりませんが、素人目からみても、あのまま放置していては危険な気がします。
けれど、異世界にいる王たちは、何もすることはできません。ただただ、鏡の前で、早く誰か気づいてくれと祈ることしか――。
『……いや、もしかして』
ギョエイがはっとして鏡を見ました。
『さっき、蒼に声を届けられたよね! あの要領で、あの子たちにみおちゃんに危機を伝えられるかもしれない』
いい提案だと思いますが、意外にも、トトリは慌てたように制止しました。
『待って、ギョエイ。それは、』
ですが、トトリの忠告を最後まで聞くこともなく、ギョエイは願いを込めて叫びました。
『お願い、誰か、みおちゃんの様子を見に行ってあげて!』
ギョエイは必死で気づきませんでしたが、このとき、ギョエイの身体から黄色のもやがふわふわと漂いました。もやは鏡の中に飛び込むと、鏡の向こうへ、劉生君たちのいる世界へと飛び出していきました。
もやは、まるで意志を持っているかのように漂うと、劉生君の身体に触れました。