4 友之助君たちの近況報告まるいち!
動揺から少し落ち着いた橙花ちゃんは、友之助君に尋ねます。
「それで、友之助君はどうしてここに?」
たまたま通りがかった、なんてことはないことでしょう。友之助君もそうですが、ムラにいる子たちは、ここの地方の出身ではありません。もっと遠くに住んでいます。
そのことを知っていましたので、橙花ちゃんは不思議に思ったのです。
「ああ、それはだな」
友之助君が応える前に、ふくれっ面したリンちゃんがちょっぴり怒ってきました。
「もう、友之助君ったら。友之助君たちと会うのは、橙花ちゃんへのサプライズだったのに」
「へ? そんなこと聞いてないぞ」
「あたし、ちゃんとリッヒーに話したわよ」
「……本当に聞いてないんだが」
「……リッヒーめ。めんどくさがって、話さなかったわね!」
どうやら、リンちゃんたちは橙花ちゃんを驚かせようと、友之助君たちを呼んでおいたようです。
結局、サプライズは失敗してしまいましたが。
「本当にもう、リッヒーは……」
ぶつくさと言うリンちゃんに苦笑しつつ、橙花ちゃんは質問します。
「なら、他の子もいるってこと?」
「そうそう!」
呼んだのは、みおちゃんに聖菜ちゃん、それから幸路君です。
「じゃ、みんなのところに案内するわよ」
若干テンション低めに、リンちゃんは言いました。
アパートの中央には、滝が豪快に流れ落ちていました。ちょっとしたイベントスペースになっていまして、連休にはそれなりに有名な歌手がミニライブをしています。
今日は平日ですので、特にイベントもしていません。ベンチに座って子供たちがお喋りしたり、高齢の方が休憩しています。
そこに、みおちゃんたちがいました。
「蒼おねえちゃん!!」
みおちゃんは弾けるように笑うと、橙花ちゃんに飛びつきました。
「蒼おねえちゃん、蒼おねえちゃん、あいたかったよ!!」
「みおちゃん、ふふ、私も会いたかったよ」
橙花ちゃんは優しくみおちゃんの頭を撫でます。みおちゃんも幸せそうに頬をすりつけます。
「俺も俺も!」
幸路君もスキップしながら抱き着こうとしました。
「いやいや、駄目だろ!」
友之助君が止めました。懸命に止めました。
「えー、なんでだよ?」
「説明いるか!? 男だろお前!」
「男である前に、俺は蒼の好敵手だからな!」
「初耳だぞ! そうだったのか!?」
聖菜ちゃんはほのぼのと微笑みます。
「……好敵手、と書いて、……友と呼ぶ。……つまり、幸路君は、蒼ちゃんの、友達」
「そういうこと!」
元気よく幸路君は頷きました。
「やれやれ、みんな相変わらずだね」
まるで自分は大人ですよという空気をまとって、理人君が偉そうに言いました。そんな彼の横腹に、リンちゃんは頭突きをしました。
「こらリッヒー! ちゃんと友之助君にサプライズだって伝えておきなさいよ!」
「え? 何のお話?」
「しらばっくれてんじゃないわよ!」
リンちゃんはプンプン怒っています。
久しぶりの再会ですが、そうは思えないくらい、みんな自然に、元気よくおしゃべりを始めます。
みつる君は、まじまじと李火君を眺めます。
「なんか……。すごく大人だね」
ミラクルランドの李火君は、背丈も小さく、幼い顔でしたが、今の李火君は背もすらりと長身で、整った顔をしています。
蒼井陽さんが爽やかイケメン主人公だとするなら、李火君は知的参謀キャラです。
李火君はみつる君の誉め言葉に、「まあね」と当然のように肯定しました。
「これでも、芸能界デビューしているからね」
「芸能デビュー……?え、ええ!?そうなの!?」
みつる君だけではありません。友之助君も驚いています。
「お前、芸能人なのか!」
リンちゃん、吉人君も驚いています。
「あんたみたいな面倒さがりが!?やっていけるの!?」
「芸能界は魑魅魍魎ですよ!?絶対やっていけませんよ!」
リンちゃんと吉人君、思わず失礼な物言いをします。吉人君に至っては、李火君だけでなく、芸能界への誹謗中傷が込められています。
「ひどいね君たち」李火君は眉を潜めます。
「むしろ、ああいう世界は俺好みだね。自分のペースで出来るし、何よりも自由。学校で好きでもない勉強をして、ネクタイ締めて会社に行くよりは楽しいかな」
「そううまく行くものなの?」
「行かなくなったら、他の仕事をするまでだよ」
風船のように、ふわふわとしています。
端からみると不安でしかありませんが、そう話す李火君はずいぶん楽しそうです。
ミラクルランドで、現実世界は退屈だ、つまらないとぼやいていた彼を思うと、彼は彼なりに自分の人生を謳歌できるようになったな、と橙花ちゃんは思いました。
「……近況報告なら、私もする」
控え目に手をあげたのは、聖奈ちゃんです。