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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
2章 みんなで協力しよう! 水中の遊園地、フィッシュアイランド!
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7 大苦戦! ねばる劉生君!

『道ノ崎リンちゃん。確かに君の力は中々なものだけど、あまり過信しすぎては駄目だよ。こうなってしまうからね』


 魔王はひょいとリンちゃんをヒレで叩き落とします。リンちゃんは地面に落ちてしまいます。


 慌てて劉生君がキャッチします。


「リンちゃん、リンちゃん!」

「うっ……」


 わずかに身じろいでいます。


「ごめん、リューリュー。油断、しちゃった」

「大丈夫、すぐに吉人君を呼ぶからっ。吉人君っ!」

「え、ええ!」


 吉人君は劉生君のもとへ駆け出そうとしますが、それはできませんでした。


 吉人君の目の前に、魔王が立っていたのです。


『鐘沢吉人君。君は状況判断がちょっと甘いね。この状況で、真っ先に狙われるのは自分だと分かっていないようだ』


 魔王は、にっこりと微笑み、呪文を口にします。


『<フットエントラップメント>』


 橙花ちゃんを捕らえたあの技です。何をされるのか分かっていたのに、突然の攻撃に吉人君は動けませんでした。


 逃げた方がよかったと気づいたときには、もう遅く、彼の足は海藻で絡みついてしまっていました。


「なっ、うがあ!?」


 襲いかかる水圧。


 吉人君は悲鳴を上げます。


『おっと、ちょっと強すぎたかな? 時計塔ノ君のときよりも弱めにしないと』


 魔王は魔法の威力を調整しています。その隙を、劉生君は見事つくことができました。


「吉人君を離せ! <ドラゴンファイアーバーニング>!」

『……っ!』


 魔王は体を翻します。


 攻撃こそ避けられてしまいましたが、吉人君への攻撃は中断することができました。


 力なくその場に倒れこむ吉人君、ですが意識はあるようで膝をついています。


 劉生君は彼を背に魔王と向き合います。


「ぼ、僕が相手だ! 魔王!」


 怖くて声は震えてしまいますが、それでも勇敢に立ち向かいます。


 魔王は目を細めます。


『赤野劉生君。君は魔力の量も他の子とはけた違いで、とっても勇敢だ。それに』

「えいっ! <ファイアーバーニング>!」

『おっと』


 魔王は寸前のところでさけます。ですが、完全には避けきれませんでした。ヒレの一部がほんのり焦げてしまいます。


 ダメージを受けたというのに、魔王は楽しそうに笑っています。


『うんうん、筋がいいね。もう少し経験をつめば、もっと強くなるよ』

「ええい! <ファイアースプラッシュ>!」


 劉生君は炎の粉をまき散らします。


 散った火の粉は魔王の周りを囲みます。逃げ道を塞いでいるのです。


 続いて、もう一度劉生君は剣を握りしめます。


「これでやっつける! <ファイアーバー」

『そうはさせないよ。<リサーキュレーション>』


 リサーキュレーションとは、川を横断する堤防の真下で起こる現象です。堤防から降りてきた水が地面にぶつかった衝撃で、堤防の真下で渦が出来てしまうことを指します。


 魔王の水球は、まさにその名の通り、渦を巻いています。


 それをそのまま、劉生君にぶつけました。


「っ! <ファイアーウォール>!」


 剣を突き立て、炎の盾を作り出そうとしました。


 ですが、それが出来なかったのです。


 頭に鈍い痛みが走ると、火がひとりでに消えてしまったのです。


「そ、そんなっ、」


 魔力切れです。いくら剣を振り回しても、火が灯らないのです。


「こんなところでっ」 


 無防備になってしまった劉生君は、ただただ、水の球が向かってくるのを見つめることしかできません。


 鉄の棒で叩かれたような痛みに、声にならない悲鳴を上げます。


「がっ……あ……う……」


 膝に力が入らず、崩れ落ちます。


 魔王はゆらゆらと劉生君の側によってきます。


『君は自分の力を理解しなくちゃ駄目だよ。あの壁を作った時点で、君の魔力は限界なんだから。さてっと』


 魔王ギョエイは子供たちを見渡します。劉生君も、リンちゃんも、吉人君も、地面に伏せたまま立ち上がることはできません。


 魔王は満足げに微笑みます。


『それじゃあ、まずは君たちの記憶を操作させてもらおうか』


 部下の魚に命令し、劉生君たちを一か所に集めます。三人のうち、劉生君だけは意識がはっきりしていましたが、弱った体では抗うことができませんでした。


 魔王は彼らに近づきます。


『さあ、まずは赤野劉生君。君から施そうか』


 魚たちは劉生君の四肢を掴みます。 


 劉生君は身をよじって必死に抵抗しますが、がっちり固定されていて外せません。


「……い、嫌だ。嫌だよ」


 魔王は軽く笑います。


『そんなに心配しなくてもいいよ、痛いのは最初だけだから』


 劉生君の首元に魔王の尾が触れました。金属のような冷たい感触にぞくりと肌が粟立ちます。


 遊園地に囚われていた子たちは、全て首元に五角形の印がついています。今からそれを付けられ、記憶を消されてしまうのです。


 怖い。


 怖い。


 劉生君の体はガタガタと震えました。


 ……ですが、目だけは、必死に魔王を睨んでいました。


 やけくその睨み方ではありません。最後まで奇跡を信じる、希望を抱いた瞳でした。


『……諦めが悪いんだね、君も……。だけど、もう終わりだよ。君も、時計塔ノ君も。ここで一生、過ごしてもらうのだから』


 魔王は尾を一瞬引くと、思いっきり突き刺そうとしました。


 ですが、それは出来ませんでした。


 想定外のことが二つも起きてしまったからです。


 まずは一つ。


 無謀にも奇跡を信じる劉生君の瞳が、赤い光を宿したのです。


『……え?』


 魔王は戸惑い、体を硬直させました。


 そして、もう一つの想定外が起こります。


 突如、ガラスが割れる音が響いたのです。


 ハッとして魔王が振り返ったそのとき、橙花ちゃんがつぶやきます。 


「<ススメ>」


 呪文を唱えた次の瞬間。


 魔王の目の前に、橙花ちゃんがいました。


 その手に、鋭利なナイフを持って。


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