1 びっくりな再会! こんにちは!
視点を劉生君たちに戻しましょう。予定通り楽しく冒険はできませんでしたが、こうして勝てたので、すがすがしい思いでした。
今度は冒険モードもしたいね、なんてお喋りしながら、ゲームセンターを歩きます。他に何かマシーンでも遊ぶか、なんて話で盛り上がっています。
クレーンゲームでもしようか、いやプリクラもいい、なんてはしゃぐリンちゃんたち。ですが、劉生君はみんなの輪に入らず、考え込んでいました。
そっと橙花ちゃんは劉生君の横にいき、静かに耳打ちします。
「どうかしたの、劉生君」
「ん? なにが?」
「いや、静かだったから、どうしたのかなって」
「えへへ、実はね、魔神って今どこで何をしているのかな、って思ってて」
「……そっか」
橙花ちゃんは顔を曇らせます。
「どうなんだろうね。……私にも、分からない」
「そうだよね……。元気にしているといいなあ」
「……」
橙花ちゃんは黙ってしまいました。
彼女には、分かっていたのです。今現在の魔神が元気でいる可能性は、限りなく低いと。
今の劉生君が生きている世界は、子供たちを助けることができています。
ですので、子供たちを助けることが出来なかった世界の劉生君、つまり魔神は、未来が変わってしまったために、消滅したのかもしれません。
それか、救いのない、彼の現実世界に帰ったかもしれません。
もしかしたら、未だミラクルランドに囚われてしまっているのかもしれません。
いずれにしても、魔神はのびのびと暮らしてはいないことでしょう。
「……」
橙花ちゃんは、バッグの中に手を入れます。
逡巡するように中にある、とある物に触れ、
……バッグから、手を抜きました。
「……?」
一部始終を見ていた劉生君は、橙花ちゃんに気をとられ、目の前の意図にぶつかってしまいました。
コインのバケツがひっくり返る音がしました。
「あ、またやっちゃった! ごめんなさ」
なんということでしょうか!
ぶつかった人は、例の男子高校生だったのです!
劉生君は顔を真っ青にさせます。
「ご、ご、ご、ごめんなさい!!!!」
土下座せんばかりの勢いで、劉生君は頭を下げます。怒鳴り声をかけられるに違いない、と怯えていた劉生君でしたが、
「こっちこそすまなかった!」
なんと、男子高校生たちは声を揃えて謝ってきたのです。
「……へ?」
劉生君はポカンとします。
信じられなかったのでしょう、劉生君は目をぱちくりさせてみますが、幻覚ではないようです。
先に行っていたリンちゃんたちは、またあいつらか、と走って戻ってきてくれましたが、唐突な謝罪に呆然としています。
何をしたのかと、みつる君と咲音ちゃんが劉生君橙花ちゃんに視線を送ります。劉生君はふるふると首を横に振ります。
今度ばかりは、本当に何もしていません。一番何かしそうな橙花ちゃんも、戸惑ってます。
では、一体彼らはどうしたのでしょうか。
答えは、意外な人物が教えてくれました。
「僕の顔に免じて、彼らを許してくれないかな」
マシーンの影から颯爽と現れたのは、サングラスと黒い帽子、マスクをつけた、背の高い青年でした。
ぱっと見はただの不審者ですが、どことなく常人らしくないオーラを放っています。
「……あ!!」
劉生君は息をのみました。
「ま、まさか、あなたは……!」
「久しぶりだね、劉生君、吉人君、それにみつる君」
ここで、ようやく吉人君とみつる君は気づきました。
「まさか、」「蒼井陽さん!?」
その通りでした。
彼はマスクとサングラス、それから帽子を脱ぎました
「どうも、こんにちは」
初対面だったリンちゃん咲音ちゃんは、さすがに驚きました。
「ええ!! あの蒼井陽さん?」「わあ! 有名人!」
リンちゃんはびっくり仰天して後ずさり、咲音ちゃんは口を手で覆い目を大きく見開いています。
二度目の吉人君みつる君は、二人ほどではありませんか、驚いています。
ちなみに、劉生君はテンション爆上がりです。ゲーセンの騒音にも負けず劣らず、大声で興奮します。
「あおいさん、蒼井さん、蒼井陽さんだ!!! あ、握手、いや、サインあの、あの、あの……!」
「あはは、落ち着いて、落ち着いて」
優しく語り掛けてくれます。
もうそれだけで嬉しくて嬉しくてたまりません。気絶一歩手前です。
「ああ、明日は槍が降る……」
「降らない降らない」
蒼井陽さんの衝撃を引きずり続ける劉生君を置いて、みつる君が尋ねてくれました。
「えっと、蒼井陽さんはこの人たちを知り合いなんですか」
みつる君の視線の先には、誠心誠意謝る高校生たちがいます。蒼井陽さんはすぐに否定します。
「いいや、そこで会ったんだ。ちょうど、君たちと喧嘩しているところを見ていたからね。謝った方がいいよ、って声をかけたんだ」
男子高校生の一人は、おそるおそる顔をあげます。
「蒼井陽さんに説教されて、俺らが悪かったって気づいたんだ。すまなかった。詫びに、このコインを受け取ってくれ」
高校生たちは落ちたコインを文句一つも言わずに拾い、橙花ちゃんに渡しました。
「は、はあ。ありがとう」
橙花ちゃんはついつい受け取ります。
「それじゃあ、俺らはこれで……」
「ああ、気を付けて帰りなさい」
男子高校生たちはぱっと顔を赤らめます。
「はい! わかりました! ありがとうございました!」
深々と一礼して、男子高校生は気分よく去っていきました。
どうやら、男子高校生たちは蒼井陽さんのファンだったようです。憧れの人に、説教されたら、それはもう絶対服従でしょう。劉生君だったらそうします。間違いありません。
現に、「僕も説教されたい」とつぶやいています。