6 おやおや? ミラクルランドとのひょんな繋がり!
砂嵐で視界が見えず、近くにいるはずの劉生君の姿さえ見えません。
橙花ちゃんは焦っていました。
言いがかりからはじまりましたので、最初はあまり乗り気ではなかったのですが、大人げない技の数々を受け、リンちゃんを失った今、橙花ちゃんは是非とも勝利したいと思っていました。
とはいえ、向こうはゲームのシステムを理解しつくしています。
どう頑張っても、こちらは不利です。
さらに、この砂嵐です。
これでは、いつどこに敵が潜んでいるのか、検討もつきません。
そんなときです。
「……っ、」
かすかに、声が聞こえてきました。
どこか懐かしい、優しい声。その声の従うまま、橙花ちゃんは一歩後ろに下がりました。
橙花ちゃんの動きは、正解でした。
ちょうど彼女がたっていた場所に、剣が振り下ろされたのです。
渾身の魔力をこえた、必殺技でした。当たっていたら、防御が弱い白魔導師、橙花ちゃんだったら倒れてしまっていたことでしょう。
ですが、こうして避けることができました。
彼が使った必殺技は、強力ですが、それがゆえに反動があります。
つまり、
隙ができました。
「……今だっ!」
劉生君は、剣を握ります。
「〈ファイアーバーニング〉!!!!」
怯んだ相手は、そのペナルティーで攻撃を避けられません。
固まったまま、彼は、
消滅しました。
次のターンは、橙花ちゃんでした。
橙花ちゃんは杖を天に向けると、詠唱しはじめました。
すると、杖の先に、まばゆく輝く光の球が現れました。
今までの優しく淡い光ではありません。神々しくも、攻撃的な光です。
この光は、白魔導師の最強技でした。
白魔導師は、回復魔法・補助魔法のエキスパートです。
ですが、なんと必殺技は強力な攻撃魔法なのです。一撃で体力満タンの敵を葬れる上、全体攻撃です。これさえ出せば、戦局をひっくり返すことができます。
強力ゆえに、扱いづらく、命中率もこのゲーム随一で低くなっています。
いわゆるロマン職でしたので、男子高校生は選ばなかったのです。
普通なら、外れるであろう、必殺技。
さらに、砂嵐さえも舞っています。
ですが、橙花ちゃんは迷いなく杖を振りかざしました。
光は真っ直ぐに砂嵐の中を進んでいき、そして、
「うがっ!」「わっ!」
高校生たちに命中したのです。
勿論、男子高校生たちは即座に消滅しました。
「……やった、」
劉生君は大喜びします。
「やった!勝った!」
歓喜の舞いを披露します。
ゲーム側も、祝福してくれています。勝利のファンファーレが鳴り、花火が何発も打ち上がります。
「さすがだね!!橙花ちゃん!!」
褒め称える劉生君ですが、当の本人は「ありがとう」とお礼を口にして、不思議そうに周りを見渡しています。
ミラクルランドの王、レプチレス社長は、目を大きく見開き、鏡に映る橙花ちゃんたちを、そして鏡本体を観察し始めました。
ザクロはキョトンとして尋ねます。
『どうかしたか?鏡でも壊れたのか?』
『……いや、そうではない。そうではないのだが……』
レプチレス社長はちらりとギョエイを見ます。
何やら深刻そうな顔をするレプチレス社長ですが、ギョエイは嬉しそうにピョンピョン跳ねていました。
『わーいわーい!勝てた!おめでとう、蒼!おめでとう!!』
くるくると回転してはしゃぎます。
リオンは面倒そうに顔をしかめ、前足で軽くギョエイをパンチしました。
『それよりも、重要なことがあるだろ』
『へ?重要?……なんのこと?』
普段のギョエイでしたら、すぐに違和感に気づいていたことでしょう。
ですが、今のギョエイは親バカモード、些末事など、気にも止めません。
『全く……。これだから子供好きは……』
説明しろと、リオンはレプチレス社長に目で合図します。
『はいはい。では、問題。逆転困難なあの状況で、なぜ蒼は勝てたと思う?』
『友情と勇気の併せ技、だね!』
『はい間違い』
あっさりと否定します。
『ミラクルランドならともかく、あちらの世界では願いは力とならない』
『なら、どうして……』
『ギョエイ皇帝、あなたの言葉を蒼が聞いていたからだよ』
『……ボクの声が?』
ギョエイは困惑したようにレプチレス社長を見て、鏡をみて、再びレプチレス社長をみます。
『……確かに、ボクは蒼にあっちだ、こっちだって話したけど、この鏡は声も届くようになっているの?』
『本来は見るだけ。だけど、どういうわけか声も聞こえるようになったらしい。まあ、一時的なものらしいけど』
その証拠に、今の劉生君に王たちの声は聞こえていないようです。劉生君は無邪気にはしゃいでいますし、橙花ちゃんも普通に劉生君と受け答えしています。
それでも、もう会えない、もう話せないと思っていた橙花ちゃんと、一方的ながら声をかけることができて、ギョエイは嬉しそうでした。
『へえ、そっか。……蒼にボクの言葉が届いたんだ……』
噛み締めるように言うと、優しく微笑みます。
その横で、
『……』
トトリは目を細め、警戒するように鏡を見つめていました。