5 テレビの中の試合に声援を送る魔王たち
劉生君たちの戦闘が佳境な中、ミラクルランドの王たちはどうしているでしょうか。見てみましょう。
鏡の前の王たちは、もう険悪に険悪、触れれば爆発するのではないかと本気で思ってしまうような、ピリピリとした緊張感が張りつめていました。
一番怒っているのは、他でもない、ギョエイです。
ヒレを大きく上下させ、毒針の尻尾をバンバン地面に叩きつけています。
『あの男たちめ、劉生君たちをいじめるなんて!許さない!』
勢いそのままで、ギョエイはレプチレス社長に向かって、こう叫びます。
『ボク、みんなを助けにいく!向こうの世界にいける道具を売ってくれる!?』
『いやいや、それはいけない。向こうとこちらは交わってはいけない。そう決めたじゃないか』
諌めるレプチレス社長に、ギョエイは、ある提案をしました。
『国家予算、全額あげるよ』
『……ぜ、全額……!全額、全額か……』
レプチレス社長の決意がぐらりと揺れました。
フィッシュアイランドの遊園地には、魚類の子達だけでなく、他の国の子たちも遊びに来ます。
ですので、他の国と同程度、もしくはそれ以上に税収があるのです。
『……そ、そこまでいうなら、あちらの世界にいける道具を開発し』
『いや、ダメだろ』
リオンが尻尾でレプチレス社長をはたきます。
ついでにギョエイを一睨みすると、まるで怒られた子供のようにしゅんとします。
トトリは周りの王たちなんて見向きもせず、食い入るように鏡を見ています。
『蒼……』
心配そうに呟きます。
一方のザクロは、もう目が爛々と輝き、『頑張れ、頑張れ!』と応援しています。なんなら、自分の槍も振り回しています。とても危ないです。
応援と心配を一身に受け、ここで橙花ちゃんが動き出しました。
橙花ちゃんは呪文を唱えます。
どんな技を出すかと息をのむ王たちですが、彼女の魔法は白魔法、そうそう映える技は出せません。
杖を振ると、橙花ちゃんと劉生君の体が青く輝きました。
鏡の中で、劉生君が不思議そうにペタペタと体をさわっています。
「なにこれ? ピカピカ光ってて綺麗だね!」
「悪いものではないよ。相手の技を避けやすく、こちらの技を当てやすくする技なんだ」
「へえ、すごい!」
さすが橙花ちゃん。状況を的確に見極め、いい感じの技をかけてくれました。
今度は、向こうの番です。
「ふっふっふ、なら、これでどうだ!」
またまた二人の黒魔導師が魔法をかけました。
すると……。
「うわっ! す、砂嵐が……!」
あたり一面、砂だらけになったのです。
レプチレス・コーポレーション近くの砂漠地帯を思い起こせます。
この技も、合体技のひとつ。土と風の魔法をかけ併せています。
効果は、先ほど橙花ちゃんがかけた技と同じく、回避をあげ、命中率を高めるものです。
ここら辺でお気づきの方もいらっしゃると思いますが、このVRゲーム、黒魔導師が異様に強い職業となってしまっています。
なにせ、合体技さえ出せば、相手を攻撃できますし、能力を下げることもできますから。
あの男子高校生は、そのことを(インターネットで)きっちり調べてきていました。
戦士職の高校生は、ほくそ笑みます。
今や、彼の姿を劉生君たちは見ることはできません。
このゲームはいわゆるVRゲー、体験ゲーですので、目でしっかりと確認し、かわさなければ、回避できないのです。
これでいける、あの生意気なガキたちに返り討ちにできる、そうウキウキしていました。
彼の浮かれている姿は、当然ですが劉生君たちには見えません。
ですが、鏡を通して見ていた王たちは、しかと目にしていました。
ザクロは顎をなで、感心しています。
『あちらはなかなかの策士だ! 是非ともアンプヒビアンズで戦いたいな!』
男子高校生たちは、少々大人げないですが、一応、ルールには乗っ取って戦っています。
ですので、規律を重んじるザクロとしては、ベリーオッケー、結構お気に入りの戦法です。
無論、他の王たちは殺気だっています。あのリオンでさえも、不機嫌そうにいか耳にしています。
『ミラクルランドだったら、あの連中に勝ち目はないだろうが、あの世界だったらどうだか……』
王たちが見守る中、男子高校生が動き出しました。
砂に隠れるように抜き足さし足で歩いていきます。劉生君たちはキョロキョロと戸惑うように辺りを見渡すばかりで、気づいていません。
自信がついたか、速度がはやくなりました。
狙いは、橙花ちゃんです。
徐々に、徐々に近づいてきて、もう飛びかかれば剣が触れる距離にまで接近されました。
まだ劉生君たちは気づきません。劉生君はあらぬ方向にガードしていますし、橙花ちゃんは目をこらすばかりです。
ついに、戦士は足に力をこめました。
堪えきれなくなったのでしょう。鏡の前で、ギョエイが叫びました。
『蒼! 危ない!!!』
その声に、その思いに、
橙花ちゃんは、ハッとしたように、顔をあげました。