2 VRゲームにいざ挑戦!
結構な時間がかかっていましたので、吉人君は「トイレ、混んでいたんですか?」と尋ねてきました。
事情を説明すると、面倒なものに巻き込まれてしまったね、とみんなが慰めの言葉をかけてくれました。
とはいえ、過ぎ去ったトラブルですので、すぐに次いくマシーンの話題に移りました。
吉人君が声を弾ませながら、語りはじめます。
「VRにも色々な種類があるんです! RPG、旅行体験、それからホラーも」
「ほ、ホラーですか……」
咲音ちゃんが少し怯えています。あまりホラーが得意ではないのかもしれません。
吉人君は慌てて言葉を継ぎます。
「ホラーはやめておきましょうか。せっかくこのメンバーが集まっていますし、ここは定番のRPGものにしましょう!」
まるでRPGの主人公になったかのように、異世界で歩き回り、敵と戦えるマシーンです。
技術の観点もありますので、自由に歩き回れるといっても、ワンエリアだけ、敵とも二・三戦闘しかできませんが、やっぱり王道なだけあって、人気が高く、予約した人しか遊ぶことはできません。
手際がよい吉人君は、予約をしてくれていました。
吉人君は腕時計をチェックします。
「うん、いい時間ですね。では、移動しましょうか」
「さんせー!」
一行はわちゃわちゃとおしゃべりしながら、VRマシーンがあるエリアへと歩きます。
そんな彼らを、かげから見る目がありました。
先ほど、劉生君を泣かせ、橙花ちゃんに追いやられた、例の男子高校生です。
「あいつら、あのRPGゲーで遊ぶってよ」
「あれって結構金かかるんじゃなかったか?」
「金持ちかよ、けっ、最近のガキは……」
そのまま嫌みをいっているだけなら、まだよかったのですが、ある一人の高校生が世間的に見てあまり宜しくない、顔をしかめたくなるような発案をしました。
「じゃあさ、あいつらの邪魔をしてやろうぜ?」
反論する人はいません。むしろ、みんな乗り気です。
「おお!」「やってやろうぜ!」「大人の怖さってのを見せつけてやれ!」
一行はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、劉生君たちのあとを追いました。
○○○
目の前に広がるのは、青々とした草が生い茂る、心地よい原っぱです。
生暖かい風が頬をなで、小鳥のさえずり音が聞こえてきます。
手元を操作してそちらに向かって歩いてみると、鳥の声がさらに大きくなりました。目をこらして鳥を探しても、姿は見せてくれませんが。
鳥探しを諦めて上を見上げてみると、青空が広がっています。
こんなにいい天気なら、空気も美味しかろうと、咲音ちゃんは、深く息を吸ってみました。
とはいえ、さすがに拡張現実はそこまで作り込んではいません。明らかに屋内の空気が肺いっぱいになります。
ちょっぴり残念に思いましたが、それでも、咲音ちゃんが思っているよりは没入感がありました。
「すごいですね……!」
思わず呟くと、ちょうど後ろで雑魚モンスターと戦っていたリンちゃんが満面の笑みで親指を立てます。
「それね! ミラクルランドと比べちゃうと、いまいちだけどね!」
リンちゃんと共に戦っていたみつる君は、苦笑いを浮かべます。
「ミラクルランドと比べちゃったら、どのゲームもいまいちになっちゃうって」
「それもそうねー」
このゲームは、最初に職業を決め、職業ごとの服装を着用することとなっていました。
職業、拳法家のリンちゃんは、軽めの鎧を身に付けていますし、黒魔法士みつる君は黒っぽいローブを来ています。
咲音ちゃんは召喚士です。モンゴルの羊飼いが着るような、ゆったりとしたワンピースを着ています。
ゲームの世界ですので、リンちゃんは車イスではありません。普通に二本足で歩いています。
とはいえ、ゲーム。さりとてゲーム。
歩くときに使うのは、足の筋肉ではなく、コントローラーです。
ですので、リンちゃんは特に足を動かす喜びもなく、かといって失った足への思いに苦しむこともなく、なんともなさそうに歩いています。
「けど、リューリューたちも一緒にこれればよかったのね」
リンちゃんは不満そうに唇を尖らせます。
みつる君は「仕方ないよ」とフォローします。
「このゲームは、四人までしか参加できないからね」
劉生君たちは、六人。四人二人でプレイしてしまうと、二人チームが寂しくなってしまいますので、三・三に分かれています。
「それもそうね」と、リンちゃんは渋々納得、先に進むこととしました。
その後、順調に攻略は進み、見事、制限時間内に大ボスを討ち取りました。
ボスを倒すと、時間があってもゲームは終了。リンちゃんたちは晴れやかな気持ちで、VRを取り外します。
「いやーすごかったわね!」
リンちゃん、興奮冷めやらぬ様子です。
咲音ちゃんも、ニコニコ。嬉しそうにしていますし、みる君も上機嫌です。
「ゲームはあまり得意じゃないけど、このゲームは結構好きかも。はまりそう!」
ゲームをプレイした三人が、こんなにも好評価をしてくれているのです。
次の番の劉生君も、わくわくが止まりません。
「楽しみだなあ! 僕はなんの職業にしようかな。戦士かな、やっぱり戦士だよね!」
吉人君はゆったりと頷きます。
「ですねえ。ミラクルランドでも、戦士でしたからね。そうなると、橙花さんは白魔法士ですね」
「あはは、そうだね」
白魔法士は、回復や防御などなど、主に支援系の魔法を使います。
それも橙花ちゃんっぽいですが、それ以上に、橙花ちゃんらしい要素がありました。
服装です。
白魔法士は、白いロープを着ているのです。
橙花ちゃんがミラクルランドで着ていた服装と瓜二つなのです。
「これで角もつければ、完璧でしたね」
吉人君はおちゃめにウインクします。
スタッフの方が消毒をしながら、「冒険モードですよね」と尋ねてくれました。吉人君は迷いなく「お願いします」と言います。
ふと、みつる君は尋ねます。
「そういえば、このゲームって冒険モードと対戦モードがあるんだっけ?」
「ええ、二種類あります。とはいえ、対戦モードはほぼほぼターン制のRPGですので、正直あまり……ですね」
たまたま近くにいたスタッフも、肩をすくねます。
「対戦モードも楽しいですが、VRの良さを体験するなら、冒険モードがおすすめですね」
スタッフさえこう言うのです。それなら、誰だって冒険モードを選択するでしょう。
ですから、リンちゃんたち三人も、迷わずに冒険モードを遊びました。
劉生君たちも、別に反対せずに、「次来たときは対戦モードもやってみようねー」とお喋りしました。
ですが、ここでトラブルが発生しました。
その発端は、受付の方から聞こえてきた、怒鳴り声です。
「さっさといれろよ! 俺らの番だぞ!」
「そうだそうだ!」「こっち優先!」
聞き覚えのある声に振り替えると、劉生君は「あっ」と声を上げました。
受付の人を囲んでいたのは、劉生君を泣かせ、リンちゃんを怒らせ、橙花ちゃんに睨まれた、例のやんちゃ男子高校生でした。