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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
番外編 自分勝手な少年と、他人思いな少女の、両手いっぱいの願い事
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7 リンちゃんの乗り越え方!

「ありがとうございます。……なんだか、僕だけあれやこれやと夢を語るのもちょっと恥ずかしいですね」


 ここで吉人君、リンちゃんに話をふりました。


「道ノ崎さんの夢も、話してくださいよ」

「無茶苦茶な変化球はやめなさいよ」

 

 リンちゃんは苦笑しながらも、答えてくれました。


「あたしの夢は、パラリンピックの選手かなー。詳しくは知らないんだけど、車椅子に乗ってても出場できる大会があるんでしょ?それに出たいのよ!それか、学校の先生かな。どっちにしても、頑張るわよ!橙花ちゃん、見ててね!」


 リンちゃんはキラキラとした瞳で橙花ちゃんを見上げます。


 陰鬱さも感じられない、夢と希望溢れる瞳です。


「そっか……。どちらにしても、私はリンちゃんの味方だからね」


 橙花ちゃんは慌ててそっぽを向きます。そうしないと、みっともなく涙がこぼれそうだったのです。


 橙花ちゃんの変化はわずかでしたので劉生君は気づきませんでしたが、リンちゃん以外の他の子は勘づいたようです。


 吉人君はにっこりと微笑みます。


「さてさて、そろそろクイズがはじまりますよ。皆さん、席に座ってください」


 劉生君は元気よくうなずきました。 


「はーい! 絶対に答えるぞー!」


 劉生君はうきうきで席に座りました。橙花ちゃんもそっと取り出して暖かな雫をぬぐってから、「私も頑張るね」と明るい声を出しました。


 クイズを楽しむ子供達をみて、感動屋なギョエイはまたまた号泣します。


『立派な夢ができてよかったね、よかったね……!!』


 リオンはさすがに鬱陶しそうに眉間にシワを寄せます。


『あいつらの一挙一動でいちいち泣くつもりなのか?』


 レプチレス社長は営業スマイルを振り撒いて、ハンカチを取り出します。


『そんなあなたに、吸水性抜群のこのハンカチをおすすめ!お安くしますよ』

『買った!』

『まいどあり!』


 トトリが『あーあ。詐欺られてる……』と冷ややかな眼差しを向けていますが、ギョエイは景気よくハンカチを購入しました。


 ハンカチのお値段は、お祭りの屋台価格を思い起こせるほど高く、こういってはなんですが、確実にぼったくっています。


 というのに、ギョエイは文句ひとつも言いません。なんなら、感謝の言葉すら口にします。


『ありがとう、レプチレスさん……。レプチレスさんも、泣きたかったら、いつでも泣いていいからね』

『……は?ワタシが?なんでワタシが泣かねばならないんだ?』

『鐘沢吉人君は、レプチレスさんがいない間、レプチレス・コーポレーションを守っていた。つまりは、あの子は後継者!そんな彼が、立派な夢をもっている!これは感動せざるをえない!』

『いや、別にしないが……』


 そもそも、吉人君はレプチレス社長を倒して、あの土地を支配していたのです。


 無理やり奪われたのに、後継者なんて呼び方をしてほしくはありません。


 略奪者と呼称するのが正しいでしょう。


 しかし、ギョエイは全くそうは思っていないようです。レプチレス社長に反論する暇も与えず、信じられないとばかりに眼を見開きます。


『え、そんな!そんなわけないですよ!実は感動してるけど、恥ずかしくて隠しているだけに違いない!』

『本当に、あなたは子供が絡むと面倒になる。……逆に、あまり関わりのないのに、よくそこまで感動できるな』


 レプチレス社長は呆れたようにため息一つつきます。


『鐘沢吉人については、特に感動もしない。する余地もない』

『……もしかして、あまり仲良くかった、とか?』

『別に仲良くはしていないが、そういう訳ではない』


 レプチレス社長は鏡の中の吉人君をじっと見つめます。


『ただ、この男は相当努力家で、夢見がちだったからな。そういう人間は、何かしらの形で大成する。だから、夢一つ見つけたくらいでは、感動もしない』


 レプチレス社長はふん、と鼻をならします。


『むしろ、今まで見つけられなかったのがおかしいくらいだからな』


 言い方こそ冷たいですが、その言葉には、確固たる信頼が込められていました。


 レプチレス社長が社長なりに吉人君の成長を噛み締めている横で、アンプヒビアンズの王、ザクロは腕組みをして首をかしげています。


『あの子供、道ノ崎リンは、パラリンピックというものを目指しているのか……。パラリンピック……。なんだか果物っぽいが、一体どんなものなんだ?レプチレスは知っているか?』

『さあ?向こうの世界限定の言葉みたいだね。文脈から察するに、スポーツ大会だろうけど』

『へえ……。スポーツかあ……』


 しばし考えてから、ザクロはよし、となにか決断しました。


『アンプヒビアンズでも、そのパラリンなんちゃらやってみるか! 楽しそうだからな!』

『あー、いいんじゃないかな』


 レプチレス社長は適当に頷きました。


『頑張るぞ……! 道ノ崎リンに負けないように!!』


 リンちゃんのライバルが新たに現れました。ザクロのパラリンピックが軌道に乗る前に、是非ともリンちゃんにはパラリンピックに参加できたらいいですね。



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