表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
番外編 自分勝手な少年と、他人思いな少女の、両手いっぱいの願い事
270/297

6 吉人君の乗り越え方!

 二人の様子を、ミラクルランドの王たちはほのぼのと眺めています。


 ギョエイなんて、ハンカチ片手に、わんわん泣いています。


『うう……。よかったねえ、よかったねえ……』


 ギョエイの感極まった様子に、レプチレス社長は思わず苦笑します。


 苦笑しながらも、レプチレス社長はトトリに話しかけます。


『鳥谷咲音は、彼女のペットのピーちゃん? がミラクルランドに来た理由について、赤野劉生の願いのおかげだのなんだのといっていたが、実際はどうなの?』


 トトリは少し考え、説明してくれます。


『あの子の言うとおり、赤野劉生の願いが、こことは別の世界にいる小鳥に通じたのかもしれないね』

『へえ……。そんなこともあるんだね』

『とはいっても、赤野劉生の願いだけでは、あの小鳥を呼び出せなかった。赤野劉生と、鳥谷咲音、それにあの小鳥の願いが重なったおかげで、ミラクルランドにこれたんだと思うよ』


 劉生君の願い。魔神の力が混じった、赤野劉生の強い強い願い。


 咲音ちゃんの、ピーちゃんとずっと一緒にいたいという願い。


 そして、咲音ちゃんを救いたいと願う、ピーちゃんの願い。


 その三つの願いによって、小鳥はミラクルランドに来ることができ、咲音ちゃんを助け出すことができたのです。


 ギョエイは涙で顔面がぐちゃぐちゃになりながらも、鏡に映った、幸せそうな咲音ちゃんを眺めます。


『そっか。それなら、咲音ちゃんが幸せそうで、どこかの世界にいるピーちゃんは喜んでいるだろうね……。うう、よかった、よかったよ』

『……うん、そうだね』


 ギョエイの大袈裟なまでの感動っぷりを、トトリはバカにはしません。成長した子供を眺めるように、柔和な笑みを浮かべています。


『新しい子と、仲良くやっていけば、きっとあの子も喜ぶよ』


 トトリは囁くように呟きます。


 咲音ちゃんへの応援の言葉でしたが、子供大好き感動屋のギョエイが代わって何度も頷きます。


『うんうん! そうだね! それに、林みつる君も、友達ができてよかったよ! やっぱり、いい子には、いい友達ができるってことだね! リオンさん!』

『なぜオレに振る』


 リオンは嫌そうに顔を歪めます。


『だって、リオンさんはみつる君と仲良しだったからさ』

『オレは子供なんぞと仲良くしていない。単に、あいつが利用価値があったから、使ったまでだ』


 絶対王政の王様らしく、盛大に見下してはいますが、みつる君の成長を見守る、優しい目をしていました。


 レプチレス社長は喉の奥で笑います。


『ツンデレだねえ。素直に喜べばいいのに』

『うるさい、黙れ』


 リオンは大人げなく、蛇の尻尾を軽く踏みましたので、レプチレス社長は『暴力反対っ!』とわめきました。


 ギョエイが慌てて仲介し、ザクロが『喧嘩なら混ぜてほしい』と訳のわからない横やりをいれるなか、トトリは一切の揉め事を無視して、鏡を眺めていました。


 鏡にうつる子供達は、お菓子を食べ終えていました。てきぱきと空のタッパーを片付けると、待ってましたといわんばかりに、吉人君が立ち上がりました。


 ○○○


「ではでは、続いてですが、橙花さんがよろしければ、ゲームセンターに行ってみませんか?」

「ゲームセンター……?」

「ええ! ここのゲームセンターは結構有名なんです。噂では、遠方からもわざわざ足を運ぶ人もいるとか」

「へえ……。面白そう」


 橙花ちゃんは興味を示してくれました。


 ちなみに、他の子供達も、リンちゃん以外は評判のゲームセンターいに行ったことがなかったようです。


 そもそもあまりゲームセンターに行ったことがない女の子、咲音ちゃんも、興味津々です。


「そんなにすごいところなんですね! わたくし、行ってみたいです!」

「僕も僕も!」


 劉生君はぴょんぴょんと跳ねて同意します。


 と、いうわけで。


 劉生君たちは吉人君イチオシ、ゲームセンターへ移動しました。


 エスカレーターでゲームセンターのフロアまで上がってきましたが、下の階の静かな、おとなしい空間からうって代わって、ゲームセンターのフロアは薄暗く騒がしく、まるで世界ががらりと変わったかのようです。


 リンちゃんは目を輝かせます。


「おおっ! 久々に来たけど、やっぱいいわね、ゲーセン!」


 薄暗い店内には、ゲームマシーンの光がまばゆく輝き、遠くの方でコインが跳ね返る音がします。


 休日だからか、ゲームセンターは混雑していて、まだ声変わり前の学生がはしゃぐ声も聞こえてきます。劉生君の親くらいの年齢の大人もいます。一心不乱にゲームにのめりこんでいます。


「なんだか……。すごいですね……」


 ゲーセン初な咲音ちゃんは、度肝を抜かれています。ちょっぴり怖いと思ったのかもしれません。そっとみつる君に寄り添います。


「レプチレス・コーポレーションのゲームセンターも、こんな感じだったんですか」

「あー、そうだね。まさにこんな感じ。というより、ゲームセンターって大抵こんな感じかな。大丈夫、すぐに慣れるよ」


 咲音ちゃんをなだめつつ、みつる君は意外そうに吉人君を見上げます。


「けどさ、鐘沢っちって、ゲームセンターによく行っているんだね。何のゲームやっているの?」 

「クイズゲームですね。そうだ、ワンプレイやってきましょう。協力プレイもできますからね」


 吉人君が案内してくれたのは、小さな子ども向けのマシーンやホッケーが並ぶエリアでした。その一角に、ちょこんとクイズゲームのマシーンがおいてあります。


 他の遊具には大抵子どもがならんでいますが、こちらのマシーンには誰も並んでいません。なんなら、誰もプレイしていません。


 あまり、人気がないマシーンのようですが、吉人君は意気揚々とマシーンの前の席に座ります。


 手慣れたもので、吉人君はお金を投入すると、勝手知ったようにてきぱきと画面をタッチします。


「結構これで遊んでいるの?」


 リンちゃんが尋ねると、吉人君は大きく頷きます。


「ええ。暇さえあれば、遊んでいますよ。最近は週三で遊んでいますね」


 この発言に驚いたのが、橙花ちゃんです。


「そうなんだ。勉強もしなくちゃいけないのに、頑張って時間作っているんだね」


 橙花ちゃんの素直な驚きに、吉人君は戸惑うように眼を瞬かせます。ですがそれも一瞬でした。


「……あ、そういえば、橙花さんには、いっていませんでしたね。僕、中学受験の勉強はしばらく中止することにしたんです」


 ミラクルランドに行く前の吉人君は、是が非でも受験しなければ、勉強しなければと思っていました。


 ですが、親の期待、上がらぬ自らの成績に、吉人君は苦しむ羽目になってしまいました。


 そのせいで、吉人君はミラクルランドに逃げてしまったのです。


 しかし、劉生君と、魔神――未来の劉生君から助言をもらい、自分の「好き」をもっと大切にしたいと思ったのです。


 ですので、吉人君は眠り病が治り、家に帰宅したあとで、両親にその思いをぶつけました。


「僕の夢は恐竜の博士になることなんです」


 いまのところは、と吉人君は照れ臭そうに言葉をつけたします。


「そのためには、中学受験も必要かもしれませんが、いまのままの勉強を続けていては、そのうちおかしくなってしまう。ですから、勉強を休んでもいい時間を作るようにしたんです」


 両親とは大いにもめたようです。子供として、親の意見を受けれなくてはならないのかと思うときもありました。


 そんなときに、吉人君の脳裏には、ミラクルランドでの劉生君の姿が浮かんだのです。


 劉生君は、どんな強敵でも、どれほど仲良くしていた友達にも、果敢に自らの意見をぶつけていました。


 その姿に、吉人君は勇気付けられました。


 結果として、吉人君の強い思いを、彼の両親は受け入れてくれたのです。


「おかげで、前よりも勉強もはかどります。何より、勉強を楽しいと思えるようになったのが、嬉しかったですね」

「……そっか」


 橙花ちゃんは、嬉しそうに微笑みます。


「なら、よかったよ。……うん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ