6 吉人君の乗り越え方!
二人の様子を、ミラクルランドの王たちはほのぼのと眺めています。
ギョエイなんて、ハンカチ片手に、わんわん泣いています。
『うう……。よかったねえ、よかったねえ……』
ギョエイの感極まった様子に、レプチレス社長は思わず苦笑します。
苦笑しながらも、レプチレス社長はトトリに話しかけます。
『鳥谷咲音は、彼女のペットのピーちゃん? がミラクルランドに来た理由について、赤野劉生の願いのおかげだのなんだのといっていたが、実際はどうなの?』
トトリは少し考え、説明してくれます。
『あの子の言うとおり、赤野劉生の願いが、こことは別の世界にいる小鳥に通じたのかもしれないね』
『へえ……。そんなこともあるんだね』
『とはいっても、赤野劉生の願いだけでは、あの小鳥を呼び出せなかった。赤野劉生と、鳥谷咲音、それにあの小鳥の願いが重なったおかげで、ミラクルランドにこれたんだと思うよ』
劉生君の願い。魔神の力が混じった、赤野劉生の強い強い願い。
咲音ちゃんの、ピーちゃんとずっと一緒にいたいという願い。
そして、咲音ちゃんを救いたいと願う、ピーちゃんの願い。
その三つの願いによって、小鳥はミラクルランドに来ることができ、咲音ちゃんを助け出すことができたのです。
ギョエイは涙で顔面がぐちゃぐちゃになりながらも、鏡に映った、幸せそうな咲音ちゃんを眺めます。
『そっか。それなら、咲音ちゃんが幸せそうで、どこかの世界にいるピーちゃんは喜んでいるだろうね……。うう、よかった、よかったよ』
『……うん、そうだね』
ギョエイの大袈裟なまでの感動っぷりを、トトリはバカにはしません。成長した子供を眺めるように、柔和な笑みを浮かべています。
『新しい子と、仲良くやっていけば、きっとあの子も喜ぶよ』
トトリは囁くように呟きます。
咲音ちゃんへの応援の言葉でしたが、子供大好き感動屋のギョエイが代わって何度も頷きます。
『うんうん! そうだね! それに、林みつる君も、友達ができてよかったよ! やっぱり、いい子には、いい友達ができるってことだね! リオンさん!』
『なぜオレに振る』
リオンは嫌そうに顔を歪めます。
『だって、リオンさんはみつる君と仲良しだったからさ』
『オレは子供なんぞと仲良くしていない。単に、あいつが利用価値があったから、使ったまでだ』
絶対王政の王様らしく、盛大に見下してはいますが、みつる君の成長を見守る、優しい目をしていました。
レプチレス社長は喉の奥で笑います。
『ツンデレだねえ。素直に喜べばいいのに』
『うるさい、黙れ』
リオンは大人げなく、蛇の尻尾を軽く踏みましたので、レプチレス社長は『暴力反対っ!』とわめきました。
ギョエイが慌てて仲介し、ザクロが『喧嘩なら混ぜてほしい』と訳のわからない横やりをいれるなか、トトリは一切の揉め事を無視して、鏡を眺めていました。
鏡にうつる子供達は、お菓子を食べ終えていました。てきぱきと空のタッパーを片付けると、待ってましたといわんばかりに、吉人君が立ち上がりました。
○○○
「ではでは、続いてですが、橙花さんがよろしければ、ゲームセンターに行ってみませんか?」
「ゲームセンター……?」
「ええ! ここのゲームセンターは結構有名なんです。噂では、遠方からもわざわざ足を運ぶ人もいるとか」
「へえ……。面白そう」
橙花ちゃんは興味を示してくれました。
ちなみに、他の子供達も、リンちゃん以外は評判のゲームセンターいに行ったことがなかったようです。
そもそもあまりゲームセンターに行ったことがない女の子、咲音ちゃんも、興味津々です。
「そんなにすごいところなんですね! わたくし、行ってみたいです!」
「僕も僕も!」
劉生君はぴょんぴょんと跳ねて同意します。
と、いうわけで。
劉生君たちは吉人君イチオシ、ゲームセンターへ移動しました。
エスカレーターでゲームセンターのフロアまで上がってきましたが、下の階の静かな、おとなしい空間からうって代わって、ゲームセンターのフロアは薄暗く騒がしく、まるで世界ががらりと変わったかのようです。
リンちゃんは目を輝かせます。
「おおっ! 久々に来たけど、やっぱいいわね、ゲーセン!」
薄暗い店内には、ゲームマシーンの光がまばゆく輝き、遠くの方でコインが跳ね返る音がします。
休日だからか、ゲームセンターは混雑していて、まだ声変わり前の学生がはしゃぐ声も聞こえてきます。劉生君の親くらいの年齢の大人もいます。一心不乱にゲームにのめりこんでいます。
「なんだか……。すごいですね……」
ゲーセン初な咲音ちゃんは、度肝を抜かれています。ちょっぴり怖いと思ったのかもしれません。そっとみつる君に寄り添います。
「レプチレス・コーポレーションのゲームセンターも、こんな感じだったんですか」
「あー、そうだね。まさにこんな感じ。というより、ゲームセンターって大抵こんな感じかな。大丈夫、すぐに慣れるよ」
咲音ちゃんをなだめつつ、みつる君は意外そうに吉人君を見上げます。
「けどさ、鐘沢っちって、ゲームセンターによく行っているんだね。何のゲームやっているの?」
「クイズゲームですね。そうだ、ワンプレイやってきましょう。協力プレイもできますからね」
吉人君が案内してくれたのは、小さな子ども向けのマシーンやホッケーが並ぶエリアでした。その一角に、ちょこんとクイズゲームのマシーンがおいてあります。
他の遊具には大抵子どもがならんでいますが、こちらのマシーンには誰も並んでいません。なんなら、誰もプレイしていません。
あまり、人気がないマシーンのようですが、吉人君は意気揚々とマシーンの前の席に座ります。
手慣れたもので、吉人君はお金を投入すると、勝手知ったようにてきぱきと画面をタッチします。
「結構これで遊んでいるの?」
リンちゃんが尋ねると、吉人君は大きく頷きます。
「ええ。暇さえあれば、遊んでいますよ。最近は週三で遊んでいますね」
この発言に驚いたのが、橙花ちゃんです。
「そうなんだ。勉強もしなくちゃいけないのに、頑張って時間作っているんだね」
橙花ちゃんの素直な驚きに、吉人君は戸惑うように眼を瞬かせます。ですがそれも一瞬でした。
「……あ、そういえば、橙花さんには、いっていませんでしたね。僕、中学受験の勉強はしばらく中止することにしたんです」
ミラクルランドに行く前の吉人君は、是が非でも受験しなければ、勉強しなければと思っていました。
ですが、親の期待、上がらぬ自らの成績に、吉人君は苦しむ羽目になってしまいました。
そのせいで、吉人君はミラクルランドに逃げてしまったのです。
しかし、劉生君と、魔神――未来の劉生君から助言をもらい、自分の「好き」をもっと大切にしたいと思ったのです。
ですので、吉人君は眠り病が治り、家に帰宅したあとで、両親にその思いをぶつけました。
「僕の夢は恐竜の博士になることなんです」
いまのところは、と吉人君は照れ臭そうに言葉をつけたします。
「そのためには、中学受験も必要かもしれませんが、いまのままの勉強を続けていては、そのうちおかしくなってしまう。ですから、勉強を休んでもいい時間を作るようにしたんです」
両親とは大いにもめたようです。子供として、親の意見を受けれなくてはならないのかと思うときもありました。
そんなときに、吉人君の脳裏には、ミラクルランドでの劉生君の姿が浮かんだのです。
劉生君は、どんな強敵でも、どれほど仲良くしていた友達にも、果敢に自らの意見をぶつけていました。
その姿に、吉人君は勇気付けられました。
結果として、吉人君の強い思いを、彼の両親は受け入れてくれたのです。
「おかげで、前よりも勉強もはかどります。何より、勉強を楽しいと思えるようになったのが、嬉しかったですね」
「……そっか」
橙花ちゃんは、嬉しそうに微笑みます。
「なら、よかったよ。……うん」