6 戦え子供たち! まずは小魚と腕試し!
まず最初に飛び出していったのは、リンちゃんでした。
「ふふん、焼き魚にしてやるわ。いっけ! <リンちゃんの ゴロゴロサンダーボール>!」
魚の集団にリンちゃんの電気がさく裂しました。
直接当たった魚だけではなく、近くの魚も感電して倒れます。
「よし! この調子この調子!」
「僕もやっつけるぞ!」
劉生君も『ドラゴンソード』を一振りします。ですが、魚の動きが早くて中々捕らえられません。
「うぬぬ、こうなったら僕も技を使ってっ!」
「その前に、僕にも力を使わせてください」
吉人君が一歩前に出ました。
「お二人だけに、いい姿をさせるわけにはいきませんね」
白と緑が渦巻く飴をふり、不適に笑います。
「いきますよ? ゆけ、<マッ=チャー>!」
緑色の飴がきらりと光りました。
緑の飴は抹茶味の飴ちゃんです。ミルクと並んで、吉人君の大好きな味です。
舐めると爽やかでほんのり苦い抹茶のうまみが口いっぱいに広がります。まるで茶葉の中に自分がいるかの錯覚を覚えることでしょう。
そんな抹茶の力が働いたのでしょうか、若々しい葉が吉人君の周りに集まります。
「ゆけっ!」
茶葉たちは吉人君が指し示した方向に飛んでいきました。
向かう先は魚の集団です。葉っぱは次々と魚たちに襲い掛かります。一枚の力はさほど強くはないとはいえ、何十枚も攻撃を受けるとかなりのダメージを与えられます。
魚たちも避けてはいますが、何匹かは葉っぱの猛攻撃が命中してちりになっていきます。
リンちゃんは満面の笑みでグッドポーズをします。
「ヨッシーナイス!」
「いえ、まだまだこんなものではありませんよ?」
吉人君、杖をもう一度持ち直し、声高々に言いました。
「<マッチャ=ラテオーレ>!」
ミルクと抹茶味の飴が強い光を帯びると、緑の球が出来ました。
劉生君は歓声を上げます!
「わあ! かっこいい! それをあの魚たちにぶつけるんでしょ? 爆発して倒すんでしょ」
「いえ、倒しはしませんよ」
「へ?」
「この技は、こうやって使うんですよっ!」
吉人君は緑の球を、魚たちの真上に放ちました。緑の球は小さくなると、花火でも上がるような音とともに爆発しました。
ですが、魚たちを吹き飛ばすほどの風力はありません。
「ちょ、ちょっとヨッシー。外しちゃったんじゃないの!?」
「まあまあ道ノ崎さん。見ててくださいって」
言われるがまま、リンちゃんはじっと見つめてみます。
「あれ? あれって……。粉?」
よくよく見てみると、小さな緑色の粉がふわふわと舞っていました。粉は魚に降り注ぐと、魚たちにある異変が起きました。
劉生君はびっくりします。
「みて! 魚たちの動きが鈍くなっているよ!」
その通り。さっきまで自由自在に泳いでいた魚たちの動きが、やけに遅くなっていました。
「僕の技、<マッチャ=ラテオーレ>は、敵に状態異常を及ぼす力があります。今回は速度を遅滞させてみました。さあ! 赤野君! 今のうちに!」
「うん! 分かった!」
劉生君は大きく息を吸うと、必殺技を叫びます。
「いけ! <ファイアーバーニング>!!!!!」
巨大な炎の剣は、魚たちに振り下されます。
慌てて逃げようとしますが、吉人君の<マッチャ=ラテオーレ>によって遅くなった足(ひれ?)ではどうすることもできません。
燃え盛る魚たちは、次々と塵へと帰っていきました。
『へえ。時計塔ノ君がわざわざ連れてきただけある。結構強いんだね』
魔王ギョエイは感心しています。
「ふん! そうやって油断しているのも今のうちよ!」
リンちゃんは屈むと、全身に電気を身にまといました。モフモフの薄黄色の毛皮が逆立っています。
「いくわよ! <リンちゃんの バリバリサンダーアタック>!!」
地面を強く蹴ると、リンちゃんの姿が消えてなくなりました。一瞬呆けていた魔王ですが、直後にハッとします。
彼の目の前に、リンちゃんがいたからです。
「食らいなさい!」
そのまま体当たりをしました。
『くっ……』
魔王の体はびりびりと感電します。
「よし、このまま次の攻撃をっ」
しかし、魔王が先に体勢を立て直しました。
リンちゃんの真上に移動すると、冷静に力を込めます。
『<離岸流>!』
離岸流とは、海岸から沖に引き込む強い流れのことです。あまりにも激しい流れですので自力での脱出が難しく、下手に抵抗しようとすると溺れてしまいます。
魔王ギョエイの<離岸流>も、現実世界と同様に恐ろしいほどの力を持っていました。
リンちゃんの小さな体は、なすすべもなくふっとばされます。
「わっ!」
なんとか体勢を整えて着地します。
「さすが魔王。強いわね……」
「そのようですね。他の魔物とは比較になりません」
「……それでも、頑張って倒さないと! 橙花ちゃんを、友之助君を、みんなを助けるために!」
リンちゃんは腕をぶんぶん振り回します。
「ようし、それじゃあ、あたしから行くわよ! ヨッシー援護して!」
「え? あ、はいっ!」
リンちゃんは飛び出していきます。
「いくわよ、<リンちゃんの バリバリサンダーアタック>!」
「援護します! <マッ=チャー>!」
リンちゃんは雷を身にまとい、吉人君は飴から茶葉を出して攻撃です。
「えっと、それじゃあ僕は後ろから!」
劉生君は魔王の背後に回ると、炎の剣を振ります。
「いけ! <ファイアーバーニング>!」
攻撃の的となった魔王ですが、しかし、彼は冷静に子供たちを眺めます。
『本当は僕が手を下したくはないんだけど、仕方ないか。<離岸流>!』
リンちゃんは得意げに鼻で笑います。
「同じ手には引っかからないわよ! <リンちゃんの バリバリサンダーアタック>で、あんたの技なんてはじき返してあげるわ!」
リンちゃんの言う通りでした。確かに<離岸流>は強力な流れですが、魔力に支えられたリンちゃんの脚力には太刀打ちできません。
……ですが。
魔王は、焦る気配もありません。
『まっ、そうだと思ったよ。そもそも、ボクの狙いは君ではないからね』
「えっ! きゃ、きゃあ!!」
なんと、吉人君の放った葉っぱがリンちゃんに襲いかかっているではありませんか。
「み、道ノ崎さん!」「リンちゃん!」
劉生君は剣をふるう手を止め、吉人君は慌てて技を解除します。
「大丈夫ですか!」
「ビックリしたけど大丈夫! 電気のおかげで一枚も当たんなかったみたい!」
よかった、と劉生君は一安心しました。それなら攻撃を再開しようとしたとき。
『攻撃はね、早さも大事なんだよ? 赤野劉生君』
魔王が、劉生君の方を見ていました。
『<離岸流>!』
「わああっ!」
劉生君は強い流れに吹っ飛ばされてしまいます。ちょうど岩壁に当たり、うめき声を上げます。
「うっ……」
『続いて、いけ、魚たち。攻撃しなさい』
生き残っていた魚たちが、劉生君めがけて襲い掛かってきました。
「っ!」
ここは炎の剣で攻撃すべきか、はたまた炎の壁で守るべきか。
劉生君は迷いました。
そんなとき、吉人君の鋭い声が聞こえてきました。
「赤野君、一旦<ファイアーウォール>で守ってください! 僕が援護しますから」
「っ、分かった! <ファイアーウォール>!!」
劉生君が真上に剣を突き上げると、炎の壁が彼を守ります。
魚が壁に当たるたびに魔力が蝕まれていきます。劉生君一人だけだったらすぐにスタミナが切れてしまったでしょうが、安心してください。吉人君がすぐに杖を振るってくれました。
「<ギュ=ニュー>!」
白い光に劉生君が包まれると、力が沸き上がってきます。
「ありがとうヨッシー!」
「どういたいまして!」
リンちゃんは一旦着地してから、体勢を整えます。
「よっしゃ! リューリューたちが魚たちを倒している間に、あたしが魔王を倒してやるわよ! リューリューを傷つけるなんて、あたしが絶対に許さないんだからね! 食らえ! <リンちゃんの バリバリサンダーアタック>!」
リンちゃんが魔王と戦っている間に、劉生君たちは魚を倒そうと張り切ります。
「それじゃあ、吉人君。そろそろ僕の<ファイアーバーニング>で倒そうか!」
「そう、ですね……っ 魚の数も減ってきたでしょうし、それに、僕もちょっと疲れてきてしまって……っ」
吉人君の額に汗がにじみでています。回復技は体力を使ってしまうのでしょう。
「それじゃあ、いくよ。<ファイアーバーニング>!!」
炎の壁が消えると、魚たちが今が好機とばかりに飛び掛かってきます。
ですが、それは新たな攻撃が振りかかる予兆だったのです。
巨大な炎の剣は、わずかに残った魚たちを叩き切ります。
魚たちは一匹のこらず燃えカスとなります。
「やった! これで魚に怖がることもないよ!」
「ええ! これで魔王との戦いに専念できますね。では、道ノ崎さんのサポートに入りましょう!」
彼らが魔王の方を向こうとしました。
ですが、彼らは呆然と立ち尽くしてしまいます。
「り、リンちゃん!?」「道ノ崎さん!?」
彼らが見たのは、魔王の目前で気絶をするリンちゃんの姿でした。