2 よく分からない展開にいつも陥る、劉生君!
太陽の光がぎんぎら輝き、アスファルトから電柱にいたるまで熱で熱しています。
金属で出来た車イスも、かなり熱くなっています。
「その上、いつも座っているようなものじゃない? だからか知らないけど、いつもよりすごく暑く感じるのよ」
夏は嫌いなリンちゃんですが、車イスに乗るようになってから、さらに嫌いになりました。
リンちゃんは汗をぬぐいながら、イライラしています。
「あーあ。はやく歩けるようになりたいわ……。できることなら、今すぐに」
ぼやくリンちゃんに、吉人君はうちわを仰いで涼ませてあげています。
「先に道ノ崎さんだけでも、店に入っていますか?」
「いいわよ。ここで待ってる。なんだって、蒼ちゃんと会うのは半年ぶりだもんね!」
リンちゃん、とても嬉しそうです。咲音ちゃんも、のほほんと頷きます。
「こちらの世界でお会いするのは、はじめまして、ですね!どんな風なんでしょうねえ。もしかして、男の子だったりするかも!」
みつる君がそっと突っ込みをいれます。
「それはないと思うよ。うん」
鏡にうつる四人の子供達は、わいわいと楽しげにお話ししています。
ギョエイは安堵のため息をもらします。
ミラクルランドに来たときは、みんなそれぞれ、悩みを抱え、もがき、苦しんでいました。
あっちに帰ったあとも、悲しんでいたらどうしようかと、ギョエイは不安を抱いていました。
ですが、嬉しいことに、ギョエイの杞憂に終わってくれました。
『よかった。みんな幸せそう……』
ギョエイったら、もうこの映像だけで泣きそうになっています。
さすがにギョエイほどではありませんが、トトリも目を細め、愛しそうに鏡を眺めています。
なんと、あのリオンですら、顔こそ無表情で仏頂面ではありますが、尻尾は右左と大きく振っています。
一方、ザクロは不満げにレプチレス社長をつつきます。
『赤ノ君と蒼がどこにもいないじゃないか!もしや、不良品か?』
『失礼なのは相変わらずだね』
レプチレス社長は憮然として、鏡に近づきます。
『会話聞いてなかったの?時計塔ノ……いや、蒼はまだ来てないだけだよ。赤野劉生の方は知らないけど、この鏡をこうすれば、赤野劉生もうつるよ』
鏡を器用に尻尾でタッチし、スクロールします。すると、画面が変わり、劉生君の顔がうつりました。
『ほら、どう?この鏡はハイテク技術が使われているからね。分かったら、もう二度と不良品とは言わないように』
レプチレス社長は偉そうにつらつらと語ります。ですが、誰も彼の話は聞いていません。みんな食い入るように鏡を見つめていました。
『せっかく説明してあげているんだから、少しはワタシの話にも耳を貸してほしいものだ』
文句を口にしながら、レプチレス社長は鏡を見て、
『……』
絶句しました。
なぜなら、このときの劉生君は……。
「うぎゃあああああ!!」
ちょうど劉生君は、下り坂をごろごろと転がっているところでした。
ぱっと見た感じでは、とても愉快そうですが、本人は悲痛げな悲鳴をあげています。
そもそも、なぜこんなことになったのでしょうか。
そのヒントは、坂のちょうどてっぺんにありました。
先日、近年ではもはや夏の風物詩となった、ゲリラ豪雨がこの地域を襲いました。
そのせいで、坂のてっぺんにあるマンホールが、非常に滑りやすくなっていたのです。
ああ、悲しきや。
赤野劉生君はマンホールにあしをとられ、ごろごろ転がっているのです。
「ぴぃやああああ!!!」
劉生君の脳裏には、多種多様な楽しかった思い出が、まるで走馬灯のように甦ります。
みんなが退院した夜、嬉しくてわんわん泣いて、そのままお風呂も入らずに寝てしまったこと。
学校に登校できるようになって、またわんわん泣いて、教師を戸惑わせたこと。
リンちゃんや吉人君、みつる君と咲音ちゃんと一緒のクラスになれて、嬉しくて小躍りしたこと。
これからもっと楽しい、愉快な日々が送れると、劉生君は思っていました。
なのに、なのに……。
もうこれで終わりだ、もう自分はこのまま転がりおちてしまうのだ、と、嘆いていた劉生君ですが……。
「な、なにしているの!?」
一人の女性が、劉生君を止めてくれました。
「大丈夫……? 怪我していない?」
心配そうに劉生君を顔をのぞきます。肩まで伸びる黒髪のきれいな女性でした。
優しそうな瞳ですが、背筋がぴんとしていて、芯の強そうな人です。
その姿が、
あの子と、重なりました。
劉生君はためらうこともなく、彼女の名前を叫びます。
「橙花ちゃん!!! 久しぶりー!!」