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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
番外編 自分勝手な少年と、他人思いな少女の、両手いっぱいの願い事
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2 よく分からない展開にいつも陥る、劉生君!

 太陽の光がぎんぎら輝き、アスファルトから電柱にいたるまで熱で熱しています。


 金属で出来た車イスも、かなり熱くなっています。


「その上、いつも座っているようなものじゃない? だからか知らないけど、いつもよりすごく暑く感じるのよ」


 夏は嫌いなリンちゃんですが、車イスに乗るようになってから、さらに嫌いになりました。


 リンちゃんは汗をぬぐいながら、イライラしています。


「あーあ。はやく歩けるようになりたいわ……。できることなら、今すぐに」


 ぼやくリンちゃんに、吉人君はうちわを仰いで涼ませてあげています。


「先に道ノ崎さんだけでも、店に入っていますか?」

「いいわよ。ここで待ってる。なんだって、蒼ちゃんと会うのは半年ぶりだもんね!」


 リンちゃん、とても嬉しそうです。咲音ちゃんも、のほほんと頷きます。


「こちらの世界でお会いするのは、はじめまして、ですね!どんな風なんでしょうねえ。もしかして、男の子だったりするかも!」


 みつる君がそっと突っ込みをいれます。


「それはないと思うよ。うん」


 鏡にうつる四人の子供達は、わいわいと楽しげにお話ししています。


 ギョエイは安堵のため息をもらします。


 ミラクルランドに来たときは、みんなそれぞれ、悩みを抱え、もがき、苦しんでいました。


 あっちに帰ったあとも、悲しんでいたらどうしようかと、ギョエイは不安を抱いていました。


 ですが、嬉しいことに、ギョエイの杞憂に終わってくれました。


『よかった。みんな幸せそう……』


 ギョエイったら、もうこの映像だけで泣きそうになっています。


 さすがにギョエイほどではありませんが、トトリも目を細め、愛しそうに鏡を眺めています。


 なんと、あのリオンですら、顔こそ無表情で仏頂面ではありますが、尻尾は右左と大きく振っています。


 一方、ザクロは不満げにレプチレス社長をつつきます。


『赤ノ君と蒼がどこにもいないじゃないか!もしや、不良品か?』

『失礼なのは相変わらずだね』


 レプチレス社長は憮然として、鏡に近づきます。


『会話聞いてなかったの?時計塔ノ……いや、蒼はまだ来てないだけだよ。赤野劉生の方は知らないけど、この鏡をこうすれば、赤野劉生もうつるよ』


 鏡を器用に尻尾でタッチし、スクロールします。すると、画面が変わり、劉生君の顔がうつりました。


『ほら、どう?この鏡はハイテク技術が使われているからね。分かったら、もう二度と不良品とは言わないように』


 レプチレス社長は偉そうにつらつらと語ります。ですが、誰も彼の話は聞いていません。みんな食い入るように鏡を見つめていました。


『せっかく説明してあげているんだから、少しはワタシの話にも耳を貸してほしいものだ』


 文句を口にしながら、レプチレス社長は鏡を見て、


『……』


 絶句しました。


 なぜなら、このときの劉生君は……。


「うぎゃあああああ!!」


 ちょうど劉生君は、下り坂をごろごろと転がっているところでした。


 ぱっと見た感じでは、とても愉快そうですが、本人は悲痛げな悲鳴をあげています。


 そもそも、なぜこんなことになったのでしょうか。


 そのヒントは、坂のちょうどてっぺんにありました。


 先日、近年ではもはや夏の風物詩となった、ゲリラ豪雨がこの地域を襲いました。


 そのせいで、坂のてっぺんにあるマンホールが、非常に滑りやすくなっていたのです。


 ああ、悲しきや。


 赤野劉生君はマンホールにあしをとられ、ごろごろ転がっているのです。


「ぴぃやああああ!!!」


 劉生君の脳裏には、多種多様な楽しかった思い出が、まるで走馬灯のように甦ります。


 みんなが退院した夜、嬉しくてわんわん泣いて、そのままお風呂も入らずに寝てしまったこと。


 学校に登校できるようになって、またわんわん泣いて、教師を戸惑わせたこと。


 リンちゃんや吉人君、みつる君と咲音ちゃんと一緒のクラスになれて、嬉しくて小躍りしたこと。


 これからもっと楽しい、愉快な日々が送れると、劉生君は思っていました。


 なのに、なのに……。


 もうこれで終わりだ、もう自分はこのまま転がりおちてしまうのだ、と、嘆いていた劉生君ですが……。


「な、なにしているの!?」


 一人の女性が、劉生君を止めてくれました。


「大丈夫……? 怪我していない?」


 心配そうに劉生君を顔をのぞきます。肩まで伸びる黒髪のきれいな女性でした。


 優しそうな瞳ですが、背筋がぴんとしていて、芯の強そうな人です。


 その姿が、


 あの子と、重なりました。


 劉生君はためらうこともなく、彼女の名前を叫びます。


「橙花ちゃん!!! 久しぶりー!!」


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