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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-6 他人思いな少女の、たった一つの願い事
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5 必殺! 劉生君、渾身の攻撃!


 いつの間に、橙花ちゃんがすぐそこまで近づいていたのです。


 劉生君が避ける隙もなく、橙花ちゃんはナイフを劉生君の腹部に突き刺しました。


 まるで、昔の橙花ちゃんのように。


「うぐっ……!」


 続けて、劉生君の間近で青い光をぶつけました。


「があっ……!」


 劉生君は血を撒き散らして、吹き飛ばされてしまいます。


「うっ……」


 深くまで刺されたのでしょう。止めどなく血が流れ、劉生君の体を赤く染めます。


 青い光をノーガードで当たったこともあり、劉生君は起き上がれず、苦しげに悶えています。


 橙花ちゃんは苦しむ劉生君を、じっと、見つめます。


「……もしかして、劉生君は、昔のボクを見ていたの?」


 痛みを堪えるように肩で息をしながら、劉生君は懸命に首を縦に振ります。


「……そっか。……ボクはね、君の過去を見ていたよ」


 言ってから、橙花ちゃんは小さく首を横に振ります。


「……いや、正確にいうと、魔神の過去、かな。みんなを失った苦しみ、悲しみ、ボクへの激怒。痛いほど感じたよ」


 彼女の言葉に、嘘偽りは感じられません。顔も陰りがさしています。


「……でもね、劉生君」


 過去の彼女が病室から出て、エレベーターに向かったときに見せた、無防備な決意を秘めた表情で、彼女は言います。


「ボクは諦めない。みんなの楽園、ミラクルランドを守りきるよ」


 橙花ちゃんは、果物ナイフから杖へと持ち変えます。


 円を描くように杖を回すと、青い光がぽんぽん、と彼女の周囲にいくつも現れました。


 今まで攻撃で使っていた光の塊よりも、青々と澄んでいます。


「ねえ、劉生君。最後にもう一度だけ、質問をしていいかな? 今からでもいい。ミラクルランドで一緒に暮らさないか? それが嫌なら、現実の世界に帰ってほしい」


 状況だけをみると、脅しているようにも思えましょう。


 それは当然のことです。橙花ちゃんはほぼ無傷、対する劉生君は気絶一歩手前だというのに、橙花ちゃんはなおも追撃をしようとしているのです。

 

 ですが、橙花ちゃんの姿には、勝者の余裕はありません。


 懇願するかのように、本当に辛そうに、劉生君に問いかけていました。


「……」


 劉生君は『ドラゴンソード』を杖代わりにして、どうにか立ち上がります。


 ボロボロだというのに、立つのすらやっとというのに、彼は敗者の振るまいを一切みせません。


「……」


 橙花ちゃんの辛い過去を、劉生君は知りました。


 親に恵まれ、友に恵まれた彼には、想像もできない日々を、彼女は過ごしてきたのです。


 にも関わらず、彼女は自分のためではなく、みんなのために、ミラクルランドに残ろうとしています。

 

 あまりにも立派な少女。


 あまりにも他人思いな少女です。


 ……ですが。


「……橙花、ちゃん。僕は、嫌だよ」


 橙花ちゃんにとって、現実世界は辛いのかもしれません。


 他の子たちのためには、ミラクルランドは必要なのかもしれません。


 けれど、だとしても、橙花ちゃんやみんなが死んでしまう事実に、劉生君は耐えられません。耐えることなどできないのです。


 きっと、劉生君の思いは、自分勝手なものなのでしょう。


 だとしても。


 劉生君は、自分の気持ちに嘘はつけないのです。


「僕は、みんなを連れて、ミラクルランドから出るんだから……!」


 彼の角は、彼の瞳は、赤く赤く輝いています。

 

 揺るぎない思いに、橙花ちゃんは肩を落とします。


「そうか。……わかったよ」


 橙花ちゃんは、杖を前につきだします。


「……いけ」


 青い玉がまっすぐ劉生君のもとへと飛んでいきました。


「僕は、僕は、絶対に負けない。絶対に負けないんだからっ!」


 劉生君は叫ぶと、足の裏から火を吹き出し、青い光に突っ込みます。


「<ファイアーバーニング>!!!」


 『ドラゴンソード』の炎は橙花ちゃんに負けないくらい、赤く、澄んだ輝きを誇っています。


 劉生君は決意と願い、自らの思いを込めて、青い光を切りつけました。


 青い光は、ミラクルランドから出たくない子供たちの願いと、彼らを守りたいと願う橙花ちゃんの思いがこもっています。


 ですので、劉生君の腕には、並大抵ではない抵抗が跳ね返ってきました。


「ぐうっ……!」


 腕にしびれるような痛みが走ります。少しでも剣を握る力を弱めれば、剣は吹き飛ばされてしまうことでしょう。


「……っ!」


 劉生君は、剣を握りしめます。


「おりゃああああ!!!」


 自らの願いを、みんなに叩きつけるかのごとく、劉生君は青い光を、


「えいやああ!!!」


 弾きました。


「なっ……!」


 呆然とする橙花ちゃんに、劉生君は渾身の願いを込めて、


 剣を、振り下ろしました。


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