5 必殺! 劉生君、渾身の攻撃!
いつの間に、橙花ちゃんがすぐそこまで近づいていたのです。
劉生君が避ける隙もなく、橙花ちゃんはナイフを劉生君の腹部に突き刺しました。
まるで、昔の橙花ちゃんのように。
「うぐっ……!」
続けて、劉生君の間近で青い光をぶつけました。
「があっ……!」
劉生君は血を撒き散らして、吹き飛ばされてしまいます。
「うっ……」
深くまで刺されたのでしょう。止めどなく血が流れ、劉生君の体を赤く染めます。
青い光をノーガードで当たったこともあり、劉生君は起き上がれず、苦しげに悶えています。
橙花ちゃんは苦しむ劉生君を、じっと、見つめます。
「……もしかして、劉生君は、昔のボクを見ていたの?」
痛みを堪えるように肩で息をしながら、劉生君は懸命に首を縦に振ります。
「……そっか。……ボクはね、君の過去を見ていたよ」
言ってから、橙花ちゃんは小さく首を横に振ります。
「……いや、正確にいうと、魔神の過去、かな。みんなを失った苦しみ、悲しみ、ボクへの激怒。痛いほど感じたよ」
彼女の言葉に、嘘偽りは感じられません。顔も陰りがさしています。
「……でもね、劉生君」
過去の彼女が病室から出て、エレベーターに向かったときに見せた、無防備な決意を秘めた表情で、彼女は言います。
「ボクは諦めない。みんなの楽園、ミラクルランドを守りきるよ」
橙花ちゃんは、果物ナイフから杖へと持ち変えます。
円を描くように杖を回すと、青い光がぽんぽん、と彼女の周囲にいくつも現れました。
今まで攻撃で使っていた光の塊よりも、青々と澄んでいます。
「ねえ、劉生君。最後にもう一度だけ、質問をしていいかな? 今からでもいい。ミラクルランドで一緒に暮らさないか? それが嫌なら、現実の世界に帰ってほしい」
状況だけをみると、脅しているようにも思えましょう。
それは当然のことです。橙花ちゃんはほぼ無傷、対する劉生君は気絶一歩手前だというのに、橙花ちゃんはなおも追撃をしようとしているのです。
ですが、橙花ちゃんの姿には、勝者の余裕はありません。
懇願するかのように、本当に辛そうに、劉生君に問いかけていました。
「……」
劉生君は『ドラゴンソード』を杖代わりにして、どうにか立ち上がります。
ボロボロだというのに、立つのすらやっとというのに、彼は敗者の振るまいを一切みせません。
「……」
橙花ちゃんの辛い過去を、劉生君は知りました。
親に恵まれ、友に恵まれた彼には、想像もできない日々を、彼女は過ごしてきたのです。
にも関わらず、彼女は自分のためではなく、みんなのために、ミラクルランドに残ろうとしています。
あまりにも立派な少女。
あまりにも他人思いな少女です。
……ですが。
「……橙花、ちゃん。僕は、嫌だよ」
橙花ちゃんにとって、現実世界は辛いのかもしれません。
他の子たちのためには、ミラクルランドは必要なのかもしれません。
けれど、だとしても、橙花ちゃんやみんなが死んでしまう事実に、劉生君は耐えられません。耐えることなどできないのです。
きっと、劉生君の思いは、自分勝手なものなのでしょう。
だとしても。
劉生君は、自分の気持ちに嘘はつけないのです。
「僕は、みんなを連れて、ミラクルランドから出るんだから……!」
彼の角は、彼の瞳は、赤く赤く輝いています。
揺るぎない思いに、橙花ちゃんは肩を落とします。
「そうか。……わかったよ」
橙花ちゃんは、杖を前につきだします。
「……いけ」
青い玉がまっすぐ劉生君のもとへと飛んでいきました。
「僕は、僕は、絶対に負けない。絶対に負けないんだからっ!」
劉生君は叫ぶと、足の裏から火を吹き出し、青い光に突っ込みます。
「<ファイアーバーニング>!!!」
『ドラゴンソード』の炎は橙花ちゃんに負けないくらい、赤く、澄んだ輝きを誇っています。
劉生君は決意と願い、自らの思いを込めて、青い光を切りつけました。
青い光は、ミラクルランドから出たくない子供たちの願いと、彼らを守りたいと願う橙花ちゃんの思いがこもっています。
ですので、劉生君の腕には、並大抵ではない抵抗が跳ね返ってきました。
「ぐうっ……!」
腕にしびれるような痛みが走ります。少しでも剣を握る力を弱めれば、剣は吹き飛ばされてしまうことでしょう。
「……っ!」
劉生君は、剣を握りしめます。
「おりゃああああ!!!」
自らの願いを、みんなに叩きつけるかのごとく、劉生君は青い光を、
「えいやああ!!!」
弾きました。
「なっ……!」
呆然とする橙花ちゃんに、劉生君は渾身の願いを込めて、
剣を、振り下ろしました。