表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
2章 みんなで協力しよう! 水中の遊園地、フィッシュアイランド!
26/297

5 フィッシュランドの王、ギョエイ! 意外と優しいお人?

 美しいエメラルドブルーの海の中に、巨大な魚が一匹漂っていました。


 平べったい体に、細長い尻尾を持っています。お腹にはニコニコ笑顔の顔がついていて、魔王っぽさはあまりありません。


「……エイ?」と、吉人君が呟くと、魔王はくすりと笑いました。


『君たちの世界ではそう呼んでいるらしいね。ちなみにお腹の部分は顔ではないよ。ボクの目はちゃんと上についているんだから』


 言われてみれば、確かに上の方に赤い目がついています。

 黒いもやもふんわりとただよっているし、右のヒレに五角形の印もありますが、ほんわかと優しそうな雰囲気をしています。

 

『タツノオトシゴ君から話は聞いているよ。炎の剣を持つ男の子が赤野劉生君。電気の服を着てる女の子が道ノ崎リンちゃん。それで、さっきボクのことをエイって読んでくれた君が、鐘沢吉人君だね?』


 劉生君がびくびくしながら頷きます。


「う、うん。そう、だけど……」

『よかったよかった。間違っていなかったんだね。改めて、フィッシュアイランドにようこそ。遊園地は楽しめたかな?』

「う、うん……」

『それなら一安心! それで、赤野劉生君は一番なにが楽しかった?』

「えっと……。パレードかな」

『パレードか! いやいや実はね、この遊園地のアトラクションはほとんどボクが作ったんだけど、パレードだけは魔物たちが提案して作ってくれたんだ。あれはいいよね。ボクもたまに見に行っているよ』

「そ、そうなんだ」


 魔王ギョエイと話すたびに、劉生君の困惑はますます深まっていきます。


 本当にこのエイは魔王なのでしょうか。

 魔王というより、正月に会う親戚のおじさんっぽいです。


 リンちゃんも戸惑いつつ、魔王ギョエイにキッと睨みをきかせます。


「そんなことよりもあんた! さっさと友之助君を解放しなさいよ! あんたが記憶を奪っているんでしょ!」


 吉人君も参戦します。


「その通りです。他の囚われている子たちも解放してください!」


 リンちゃんと吉人君が武器を構えます。慌てて劉生君も剣を構えます。


 しかし、魔王ギョエイは困ったように尻尾をふります。


『うーん。君たちみたいな良い子と戦いたくないんだ。けど、子どもたちを外の世界に出すわけにはいかないんだ。なんだって、外の世界は魔物で溢れているからね』

「いや、あんたらが溢れさせてるんでしょうが!」


 リンちゃんの鋭い突っ込みに、魔王ギョエイはコロコロと笑います。


『確かにそうだったね! はははっ、一本とられたよ』

「もう! なんなのよこの魔王は!」


 リンちゃんは地団駄を踏みます。吉人君も困り果てて、橙花ちゃんに尋ねます。


「蒼さん。あの魚って本当に魔王なんでしょ」


 そのときです。突然、橙花ちゃんが大きく杖を振りました。杖から現れたのは青い光の玉です。標的は魔王ギョエイ。彼に向かって光の速さで放たれました。


 しかし、魔王ギョエイはくるりと体を反転させると、尻尾で光の玉を弾き飛ばしました。


 行き場をなくした玉は地表に叩きつけられます。


 けたたましい爆発音が鳴り響く中、橙花ちゃんは軽く舌打ちをします。


 魔王ギョエイは小さくため息をつきます。


『時計塔ノ君、急に攻撃するなんてひどいじゃないか。出来ればやめてほしいんだけど』

「みんなを誘拐しておいて、よくそんな減らず口を叩けるね」

『……ボクだって、本当は話し合いで解決したいんだ』

「なら子どもたちを解放しろ」


 橙花ちゃんらしくない、荒々しい口調で言います。


『悪いけど、それはできないよ』

「なら、力づくでやるまで」

『そっか。……君がそう思うなら、ボクも本気ださないと、ね』


 魔王ギョエイはニッコリと笑います。


 先ほど劉生君たちに向けていた純粋な笑みではありません。


 何か裏があるような笑み。背筋がぞくりとするような笑みです。


 橙花ちゃんは反射的に杖を振ります。


「時よ、<トマ」

『遅いね。<フットエントラップメント>!』


 橙花ちゃんの両足が岩で埋まってしまいました。


「なっ!?」


 血相を変えてもがきますが、次の瞬間、立っていられないほどの水圧が橙花ちゃんを襲います。


「ぐあっ……!」

『この技は好きじゃないから君に見せたことなかったけど、そうも言ってられないからね』

 

 フットエントラップメントとは、水位が腰くらいの川で起こる現象です。フットは足、エントラップメントとは罠にかかることを意味します。


 その名称の通り、トラップ(例えば石やゴミ)に足が挟まって転んでしまったときに、この現象が起きてしまいます。


 もし川で足が挟まって転んだとき、みなさんならどうしますか。簡単に抜け出せるならともかく、それが無理なら、まずは立ち上がって酸素を肺いっぱいに吸い込みたいと思うでしょう。


 ですが、残念ながらそれは出来ないのです。水圧がかかっているせいで、起き上がることさえできないのです。水中では息ができませんので、そうなってしまったら自力で助かる術はほとんどありません。


 この現象を回避する方法は、1、ライフジャケットを着ておくこと。2、ボートやカヌーから落ちたときは仰向けになって水の上を浮くこと、です。皆さんも気を付けましょう!


 フットエントラップメントの解説が終わりましたので、魔王の攻撃にさらされている橙花ちゃんに視点を戻しましょう。


 強烈な水圧がかかり、橙花ちゃんは身動きが取れず這いつくばります。 


「うっ……ガッ……!」

「蒼ちゃん! この……!」


 リンちゃんが蹴りを入れようとしますが、足の先が触れた途端、はじき返されてしまいました。


「わあっ!? なんなのよこれ!」

「橙花ちゃん、橙花ちゃん!」

 

 駆け寄る劉生君の目の前で、橙花ちゃんはびくりと体を震わせ、そのまま目を閉じてしまいました。


「そ、そんな……! 橙花ちゃん!!!!」

『大丈夫。死んではいないよ』


 魔王は尻尾をひょいと動かします。すると、橙花ちゃんの体が宙に浮かび、魔王のすぐそばにあった狭い金魚鉢に入れられてしまいました。


 魔王は嬉しそうに微笑みます。


『ああ、よかった。ようやく捕まえられたよ』


 リンちゃんは怒りのまま魔王に叫びます。


「この卑怯者! 正々堂々と戦いなさいよ!」

 

 魔王ギョエイは悲しげに表情をゆがめました。


『本当はそうしたいよ。だけど、そうすると時間がかかってしまうからね。こうするしかなかったんだ。悪く思わないでくれ』

「思うに決まっているじゃない!」


 吉人君も飴の杖をしっかり握って魔王を睨みます。


「彼女をどうするつもりですかっ! 他の子どもたちのように記憶を奪うつもりですね!」

『いずれはそうしたいけど、今すぐにはできないんだ』


 魔王ギョエイは酷く残念そうに、橙花ちゃんの青く輝く角を見つめます。


『この角のせいで、そういった記憶操作の魔法はかけられないんだ。魔力が強いのも考え物だよね。でも、ボクは諦めないよ。何が何でも彼女の記憶を奪って、ここに閉じ込めてみせる。そうすれば、君たちとも仲良く永遠に遊び続けられるからね』

「……君たちと?」

 

 吉人君は復唱します。


「……どういうことですか」


 魔王ギョエイは分からない問題を教え諭す先生のように、こう言いました。


『君たちと時計塔ノ君は、他の子と一緒に、この遊園地で一生遊び続けてもらう』

「……っ!」


 魔王は相変わらず優しい声をしています。ですが、その内容はおぞましいものでした。


 吉人君は冷静に眼鏡をくいっとあげます。


「やはり、あなたは正真正銘、魔王ですね」


 リンちゃんはファイティングポーズをとります。


「やれるものならやってみなさいよ。びりびりに引き裂いてあげるわ!」


 劉生君は黙って『ドラゴンソード』を抜きました。真っ赤に燃える炎は、彼らのゆるぎない闘志を示しています。


『戦いは避けられないみたいだね。……でも、ボクと戦うのはさすがに可愛そうだから、部下たちを相手にさせてあげるよ。さあ、みんな。出ておいで!』


 魔王はヒレを大きく上下に振ると、地響きのような音と共に、魔王の周りに沢山の魚たちがやってきました。

 

 どの魚も赤黒いオーラを身にまとい、黄色の五角形の印がついています。無数の魚の魔物は真っ赤な目で劉生君たちを睨んでいます。


『油断せず、かつ優しく、倒してあげてね。それでは、……ゆけ』


 魔王の合図と共に、たくさんの魚たちが襲いかかってきました。


 戦闘開始です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ