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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-6 他人思いな少女の、たった一つの願い事
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3 VS橙花ちゃん! わっくわくどきどき!


「思いの、力だから……」

「ん?」

「橙花ちゃんのあの技は、時計塔が集めた、子供達の思いで出来た力だから、ここでしか使えない、……んだと、思う」


 みつる君は尊敬するような眼差しで、劉生君を見上げます。


「すごいね、どうして気づいたの?」

「……うーん、分からないけど、そんな気がしたの」


 これも、魔神の力でしょうか。


 橙花ちゃんも否定せず、杖に青い光をともします。


「だったら、みんなの思いのこもった、この力で、君たちを倒してあげるよ」


 劉生君はぷくりと頬を膨らませます。


「僕は橙花ちゃんに負けないもん。絶対に勝って、みんなでもとの世界に返るんだもん」


 咲音ちゃんは本を抱えて、劉生君の横にたちます。


「わたくしも、お助けいたします!」


 リンちゃんたちも咲音ちゃんのように構えますが、劉生君はゆるく首を横に振ります。


「ううん、いい。僕一人でやるよ」


 吉人君は驚いて眼鏡がずれてしまいます。


「そんな、一人なんて、危ないですって!」


 しかし、劉生君は思い付きで言っているわけではありません。


 ニコッと笑って、劉生君は言います。

 

「だって、橙花ちゃんも一人だもん。なのに、僕ら全員で戦ったら、ずるいもん」

「ですが、蒼さんはとんでもなく強いんですよ。みんなで戦った方が、」


 説得しようとする吉人君を、リンちゃんが制止します。


「ヨッシー。今のリューリューには、何を言っても無駄よ」

「ですけど、」

「大丈夫。リューリューならやってくれる。ね、そうでしょう?」


 劉生君は迷いなく、大きく頷きます。


「うん、もちろん!」

「……わかりました」


 劉生君とリンちゃんがそこまで言うなら、と、吉人君は一歩後ろに下がりました。他のみんなも、劉生君の気持ちを重んじ、後ろに退きます。


 劉生君はみんなよりも数歩先に進み、橙花ちゃんに向かい合います。


 無表情な橙花ちゃんとは異なり、劉生君はニコニコ笑顔です。


「はじめて戦うね!楽しみだなあ。僕、頑張って勝つからね、とうかちゃ」

 

 風が吹いたかと思うと、劉生君の頬に痛みが走り、血がたらりと顎につたいます。


 はっとして後ろをみると、地面には青く輝くナイフが刺さっていました。ナイフは青い光となって消えると、橙花ちゃんの手元に戻りました。


 ナイフを杖へと変え、橙花ちゃんは冷たくいい放ちます。


「橙花って呼ぶの、やめてくれないかな?」


 以前、橙花ちゃんは「自分の意思で、杖からナイフに変えることはできない」と話していましたが、時計塔の中だからでしょうか、どうやら自身の意思で変化できるようになったようです。


 激烈な殺意を向けられた劉生君ですが、ひるむこともなく、悲しむこともなく、笑顔のままです。


「橙花ちゃんは橙花ちゃんだよ。すごくいい名前だよね!」

「……」


 橙花ちゃんは眉間にしわを寄せます。


「……そうだったね。劉生君は、口で言ってどうにかなる子じゃなかったね」

「えへへ、照れるな」

「なら、……正々堂々、戦おうか」


 橙花ちゃんは杖を力強く振りました。青い光が五個ほど宙に浮くと、外で劉生君たちを襲った、あの片角の魔物が出現しました。


「いけ、劉生君を倒しなさい」


 魔物は一斉に劉生君に飛びかかりました。


 外で倒した魔物たちとは違い、橙花ちゃんが指導していますので、動きが組織だっています。

 

 あの強さで、連携のとれた動きです。みつる君なんかは本当に劉生君一人で大丈夫なのかと、不安になってしまうほどです。


「わあ、いっぱいいる! けど、今度は負けないんだからね!」

 

 劉生君は剣を持ちます。


 あんなに強敵だった魔物ですが、不思議と、劉生君は落ち着いています。


 魔物がすぐそこまで迫ってきました。


「……今だっ!」


 劉生君の目がきらりと赤く輝きます。よくみると、彼の頭についた牛の角もまばゆく輝いています。


 劉生君は地面を蹴りました。技をかけていない通常のジャンプのはずですが、魔物の身長をはるかに越える高さまで飛びました。


 そのまま、劉生君はその赤く燃える剣を振り下ろしました。


 たった一度の、攻撃。しかも通常の攻撃です。


 しかし、五体の魔物はぴたりと固まると、青い光となって消えたのです。


 咲音ちゃんは息をのみ、感激します。


「すごい、すごいです、劉生さん!」


 さすがの橙花ちゃんも、この強さは想定外だったようで、目を見張っています。


 五体もの魔物を倒し、着地すると、すぐに橙花ちゃんのもとへと走りだします。


 橙花ちゃんはすぐに杖を構え、呪文を唱えます。


「時よ、<トマレ>」


 劉生君の足が、一瞬、停止しました。すぐに術は解けましたが、その一瞬を見逃す橙花ちゃんではありません。


 すかさず、橙花ちゃんは青い光の塊を劉生君にぶつけます。


「があっ!」


 劉生君は吹き飛ばされてしまいます。なかなかの痛みですが、難なく着地して体勢を整えます。すぐに攻勢へ打ってでようとする劉生君ですが、橙花ちゃんはそれすらも予期していました。


 劉生君に放った青い力の塊を、二発、三発、五発、十発、二十、三十、百と、とんでもない量を浴びせました。


 花火が幾百も打ち上がるかのような爆音に、台風のような爆風です。


 みつる君と咲音ちゃんは縮こまっていますし、吉人君は顔を青ざめ、リンちゃんが声にならない悲鳴をあげます。


 けれど、橙花ちゃんは表情を崩しません。勝ち誇った笑みを見せてもいいのに、深刻な顔で劉生君がいる場所、技を集中砲火させた場所を睨んでいます。


 橙花ちゃんは、察していたのでしょう。劉生君がこの程度でやられる子ではないことを。


 橙花ちゃんの予想通りでした。もくもくと立ち上る煙を、劉生君の手が払いました。


 劉生君は安心したようにほっと吐息します。


「ふう、このくらいですんでよかった」


 服は汚れていますが、傷はついていません。強化された<ファイアーウォール>で難をしのいだのです。


「じゃあ、次は僕の番ね!」


 軽やかに走り、橙花ちゃんに剣を振りました。橙花ちゃんも、杖をナイフに持ちかえて、応戦します。


 ナイフとはいえ、橙花ちゃんの魔力のおかげでしょうか、劉生君の剣の連撃にも難なく応えています。


「ぐぬう、さすが橙花ちゃん! 強いね!」


 嬉しそうな劉生君とは裏腹に、橙花ちゃんの表情は固まったまま、淡々と剣を弾きます。


 むしろ、劉生君がみせたわずかな隙を見逃さず、懐にしのびより、ナイフを突き立てます。


「っ!」


 劉生君の肩に、ぱっくりと傷ができました。劉生君はわずかに眉をしかめますが、すぐに反撃します。


 下から上に、突き上げるように『ドラゴンソード』で切りつけると、見事に命中しました。


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