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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
9章-6 他人思いな少女の、たった一つの願い事
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2 お久しぶりです、橙花ちゃん

 

 劉生君たちは顔を上げて、声の方を見ました。


 劉生君と同じ背丈、顔立ちも幼く、子供らしい姿をしていますが、実際は中学校二年生、劉生君たちよりもずっと年上です。


 ゲームでしか見たことがない真っ白なローブを身にまとい、格式ありそうな木の杖を手に持っています。


 目の色は青く輝いており、同じように、右側にだけ生える角も、爛々と輝いています。


 角はたくさん枝割れしていて立派な角ですが、一本だけしか生えていませんので、どこかバランスが悪く、見ているだけでどうにも言えない違和感を抱いてしまいます。


 彼女、蒼井橙花ちゃんは、劉生君を睨みました。


 散々戦いに明け暮れていたためか、劉生君が着ていた服は泥や血がにじみ、黒く薄汚れていました。


 頭には二本の赤い角がはえていて、目の色も、角度によっては、赤く輝いています。


 その姿は、まるで、


「……魔物みたいだね、劉生君」


 実際、橙花ちゃんにとって、劉生君は橙花ちゃんの幸せで平穏な空間を脅かす、魔物なのかもしれません。


 杖を握る橙花ちゃんに、リンちゃんが食ってかかりました。


「リューリューを魔物だなんだって言える立場なの? あたしの靴に変な細工しておいて!」


 続けて吉人君も加勢します。


「それに、魔物を作って、子供たちを誘拐していましたよね? その件については、どうお説明を?」


 そういえば、子供たちも時計塔の中にいるはずです。咲音ちゃんはキョロキョロ探してみます。


「子供たちはどちらにいらっしゃるんですか? また他のお部屋がある、とかですか?」

「ううん、違うよ」


 橙花ちゃんは上を見ます。


「ほら、あそこ。見てみて」


 つられて上を見て、劉生君たちは息をのみました。


 いつの間にか、競技場の観客席が劉生君たちをぐるりと囲んでいました。席には、子どもたちがずらりと並んでいます。


 友之助君やみおちゃん、李火君や幸路君もいます。みな、一様に無表情で、ぼうっと劉生君たちを見下ろしていました。


 その異常な光景に、みつる君と咲音ちゃんはおびえてしまいます。リンちゃん吉人君の気性が荒いタイプの二人は、目を吊り上げ、きっと橙花ちゃんを睨みます。


「あんた、あの子たちになにをしたのよ」


 リンちゃんが噛みつくようにいい、吉人君も腕組みをして言葉を付け足します。


「あの子たちは、もはや正気とは思えませんね。時計塔の力を使って、あの子たちの心を操っておられるのですか」


 二人ともかなり殺気だっているというのに、橙花ちゃんはいつも通り、優しい声色で答えてくれました。


「何もしていないよ。みんなが劉生君たちの戦いをみたいって言うから、見せてあげているだけ」

「あんた、そんな言い訳が通じるとでも思っているの!?」

「うーん、言い訳ではないけど……。それに、ボクはあの子たちを誘拐はしていないよ。あの子たちがボクに付いていきたいって願ってくれたんだよ」


 吉人君はふん、と鼻を鳴らします。


「そんな訳ありませんよ。友之助君たちが、本当にあなたに付いていくことを望んでいるわけがありません」


 ここで、ようやく橙花ちゃんの表情が暗くなりました。


「……そうだね。友之助君たちは嫌がっていたよ」


 けどね、といって、橙花ちゃんは優しく微笑みます。


「ほかの子たちは、結構喜んでくれたんだ。元の世界に戻っても、楽しいことはない。ミラクルランドでずっと一緒に遊ぼう、ってね。そしたら、友之助君たち以外のみんなはボクの元にきてくれたんだ」


 友之助君たちは、フィッシュアイランドで劉生君が必死になって訴えたおかげで、ミラクルランドへの思いは断ち切り、元の世界に帰ろうと決意してくれました。


 しかし、他の子供たちは説得しきれていません。そもそも、フィッシュランドをはじめ、他の国でも、他の子供たちとはあまり言葉を交わせていません。友達の死を迫られた劉生君は、そこまで気を回すことができなかったのです。 


 子供たちは、友之助君たちとは違い、魔力は強くありません。けれど、ミラクルランドに残りたい、元の世界に戻りたくない、そんな願いを抱いていました。


 だからこそ、抵抗もなく、むしろ進んで橙花ちゃんに着いていったのです。


「……けどさ、蒼っち」


 みつる君はちらりと観客席にいる子供たちを見ます。


「あの子たちは、どうしてあんな抜け殻みたいになってるの」

「疲れているだけだよ。長旅だったからね」

「……それだけとは思えないよ」


 ここで、吉人君が鋭い口調で切り付けてきます。


「蒼さん。子供たちを塔の中に招いたことはありますか?」

「あまりないかな」

「では、こういう仮説はいかがでしょうか。レプチレス・コーポレーションで聞きましたが、この時計は人の思いを取り込む力がありますよね? でしたら、子供たちは時計に思いを吸い取られすぎてしまったせいで、あんな無気力になってしまったのでは?」


 吉人君の推理は、もっともな気がします。少なくとも、橙花ちゃんがいうような「疲れているだけ」よりは説得力があります。


 けれど、橙花ちゃんは薄く笑います。


「そうかもしれない。それでも、時計塔の外には連れていけない。魔王たちがうろうろしているからね。大丈夫。君たちを倒して、魔王も倒したら、すぐに外に出すから」


 戦う前から、劉生君たちを倒す気満々です。


 もちろん、素直に倒されてあげるような子たちではありません。みんなは一斉に武器を構え、橙花ちゃんを睨みます。


 敵意満々な五人を見て、橙花ちゃんは、寂しそうに微笑みます。


「……本当なら、戦いたくなかったけど、仕方ない。みんなの楽園を守るために、君たちには犠牲になってもらうよ」


 劉生君、新聞紙の剣を握り、叫びました。


「望むところだ!」


 望んでは駄目だろうと、聖菜ちゃんとみつる君は思いましたが、突っ込む余裕はありませんでした。


 なぜなら、橙花ちゃんが攻撃を仕掛けてきたからです。


 橙花ちゃんは杖の先に青い光をためると、劉生君たちに放ちました。


「う、うわあ!」


 突然の攻撃に、みつる君は悲鳴を上げ、咲音ちゃんは固まります。


 二人を守ろうと、リンちゃんが立ちはだかります。


「急に技を出すなんて、卑怯もの!こんな技、あたしの電気でぶっ飛ばしてあげるわ!<リンちゃんの>……!」


 軽く足蹴りでもすれば、橙花ちゃんの技も帳消しにできると、リンちゃんは考えていたのです。


 しかし、劉生君は違いました。


 技を目にしただけで、肌で魔法を感じ取っただけで、劉生君の脳裏にサイレンが鳴り響いたのです。


 本能の赴くまま、劉生君は叫びました。


「リンちゃん、危ない!!」


 リンちゃんをぎゅっと抱き締め、『ドラゴンソード』で橙花ちゃんの技を切りつけました。


 技は真っ二つになると、みつる君、咲音ちゃんの両脇に着地しました。


 地面に技が触れた途端。


 耳をつんざくような爆音と共に、技の片割れ二つが破裂したのです。


「うわっ!」「きゃあ!」


 半分になったというのに、凄まじい爆発です。その場から逃げないと、怪我どころではありません。


 ですから、劉生君はリンちゃんを抱き締めたまま、『ドラゴンソード』を地面に突き刺します。


「<ファイアーウォール>!」


 前までの<ファイアーウォール>でしたら、爆発に耐えられず、壊れてしまったことでしょう。


 しかし、今の劉生君は、魔神の力を、未来の劉生君の力を得ています。


 劉生君の<ファイアーウォール>は、見事、橙花ちゃんの技を耐え抜きました。


 劉生君は、ふう、と安堵のため息をつきます。


「よかった……。ギリギリだったかも?リンちゃん、大丈夫?

「……」

「……? リンちゃん、どうしたの? 顔、真っ赤だけど」

「な、なんでもない、なんでもないわよ」


 リンちゃんはふるふると首を横に振ります。頬が紅潮しています。


 頬をパンパンと張り、胸の奥から沸き上がる妙な気持ちを抑えてから、リンちゃんは橙花ちゃんを睨みます。


「なんなのよ、あの技は。あんなのが出来るなら、魔王討伐のときに出しておきなさいよ!」

「ああ。この技はね、時計塔の中でしか使えないから、魔王たちを倒すときは使えなかったんだ。どうして時計塔の中だけ使えるのかは分からないけどね」


 橙花ちゃんの説明は、推測でしかありません。しかし、彼女の言葉を聞いた劉生君は、唐突に、ある考えが頭に飛び込んできました。


 劉生君は操られたかのように、口を開きました。


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